PART1 中国NEV産業の発展の道
沈暁寧=文
中国工業・情報化部(日本の省に相当)の辛国斌副部長はこのほど、中国のここ10年間の建設・発展の成果を振り返った際、NEV産業の発展を取り上げ、「中国共産党第18回全国代表大会(2012年)以来、NEV産業は大きな発展を遂げ、世界の自動車産業のモデルチェンジとグレードアップをけん引する重要な力となった」と強調した。
陝西省西安市にあるEVメーカー比亜迪(BYD)の最終組立工場で働く作業員(vcg)
生産・販売共に盛んになるNEV
「いくつかのガソリン車とNEVを総合的に比較してみた結果、やはりNEVを買いました」と、上海市普陀区に住む王名賀さんは語る。「試乗した感覚が良くて、何より重要なのは、家の近くに充電スタンドがあり、車の充電がとても便利だということです」
王さんのように、中国ではNEVを選ぶ消費者がますます増えている。ここにも、中国のNEV産業の急速な成長が反映されている。
中国自動車流通協会専門家委員会の顔景輝委員は、2012年は中国のNEV市場発展の始まりの年であり、その後毎年徐々に拡大していると考える。「16年以降、その前の数年間の発展を基礎にして、中国のNEV市場は急速な成長を遂げてきた。現在はすでに数多くの成果が上げられ、そして将来の見通しもよい」
中国自動車工業協会の統計によると、12年の中国のNEV販売台数は1万2791台だが、昨年の販売台数は352万1000台に急増した。今年1~6月、NEVの生産台数と販売台数はそれぞれ266万1000台と260万台であり、前年同期と比べて1・2倍増え、マーケットシェアが21・6%に達した。また、公安部の統計によると、今年6月末までに中国のNEV保有台数は1001万台で、自動車全体の3・23%を占める。うちピュアEVの保有台数は810万4000台で、NEV全体の80・93%を占める。
業界全体が伸びていく中で、NEV業務を推進する中国の自動車企業は目を見張る成果を上げた。昨年の上海汽車集団のNEV販売台数は73万3000台に達し、12年同の853台と比べ、858倍増えた。
中国の大手民営企業・浙江吉利控股集団は、1997年から自動車業界に進出。ここ数年、同集団は全ブランド・全体系において新エネルギーによる電動化のプロセスを加速度的に推し進め続けている。現在すでにEVやハイブリッド車、バッテリー交換モデルのNEV、メタノール車を含む新エネルギー電動化体系を築き上げた。データによると、今年1~5月、吉利自動車の販売台数は合わせて48万7247台に達した。うち、ピュアEVは前年同期比603%増の6万6226台で、プラグインハイブリッドカーは109%増の1万3811台だった。
同じく1997年から自動車産業チェーンを核心として発展してきた中国の国有企業・奇瑞汽車股份有限公司は昨年、NEVの生産台数が8万6195台、販売台数が9万5160台、売上高が57億元に達し、生産・販売台数と生産高はいずれも2020年と比べ2倍になった。また、今年上半期、同社は計10万7014台のNEVを引き渡し、前年同期比で220・7%増え、中国NEVブランドの中でトップ3の地位を保っている。
政策措置で産業発展を後押しする
ここ10年間で中国のNEV産業が迅速な発展を遂げてきた背景について、自動車産業アナリストの任万付さんは、国がいち早く計画を打ち出し、迅速に布石を打ち、力強い支援を提供してきたことが不可欠だったと分析した。
「中国はNEV産業がスタート期・発展期にある実情に立脚し、2012年から二つの中長期発展計画を相前後して打ち出し、産業の発展方向を導いてきた。一つ目は12~20年で、二つ目は21~35年。産業発展の推進を共同で検討するため、国務院は、工業・情報化部をまとめ役として、20の政府機関が参加する合同会議制度を立ち上げた」と工業・情報化部の辛国斌副部長は語る。
12年6月、国務院が公布した「省エネ・NEV産業発展計画(12~20年)」の中では、省エネとNEV産業の育成と発展を加速させ、自動車産業の最適化と高度化を促進し、自動車産業大国から自動車産業強国への転換を実現させるといった内容が盛り込まれた。また、計画は次のように強調した。中国のNEV産業はまだ産業化の初期段階にあり、政策の支援を強化し、事業モデルを構築し普及させ、市場の育成を加速し、技術の進歩と産業の発展を後押しする必要がある。一方、省エネ自動車はすでに産業化の基盤を備えており、基準の整備や財税上の支援などの措置を統合的に講じ、省エネ自動車の普及を推進していかなければならない。
12年以降、中国は純粋な電気駆動の戦略的方向性を徹底し、NEV産業の発展は巨大な成果を上げ、世界の自動車産業の発展のモデル転換における重要な力の一つとなった。
20年10月、国務院は新たに「NEV産業発展計画(21~35年)」を打ち出した。
上述の二つの計画の下で、国と各地方は技術革新、普及と応用、安全面の監督管理などさまざまな分野を網羅するNEV産業支援策を計600以上打ち出した。例えば、NEVを購入する補助金制度や、NEVに対し通行規制や購入規制をなしにすること、専用のナンバープレートの使用などによって、中国のNEV市場の拡大を力強く後押ししてきた。
このほど、国務院は今年末に終了するNEV購入税の免除政策を23年末まで延長することを決定した。この延長により1000億元の免税額が予定されている。そのほか、NEV消費を支援する優遇政策の安定性を維持し、引き続き車船税と消費税の免除を実施し、通行規制やナンバープレート登録規制の緩和などの面で支援を行っていくことを決定した。
これに対し、江西新エネルギー科学技術職業学院新エネルギー自動車技術研究院の張翔院長は、「各レベルの政府が補助政策の強化をすることで、中国のNEV産業の発展を促し、国際市場における同分野の製品の競争力を高めることが見込まれる」と考える。
「NEV産業の発展は中国の国家戦略の重要な一部であり、それに関する政策には一貫性がある」と顔景輝委員は指摘する。「12年から、NEV産業の発展について、ほぼ毎年『政府活動報告』に取り上げられている。カーボンピークアウトやカーボンニュートラル、自動車メーカーに対しNEVの開発・生産を促すためのポイント制度など一連の政策によって、NEV産業の発展に基礎を固めてきた」
さらに顔委員は、NEVの質の向上、とりわけ電池の航続距離の大幅な引き上げによって、市場の拡大と消費者の信頼を得るために基礎を固めたと述べ、「国有自動車メーカーも、民営の自動車メーカーも、NEVの普及に多大な労働力と資金を投入してきた」と強調した。
ブルー・オーシャンでチャンスを
2022世界NEV大会が8月26日から、北京と海南でオンラインとオフラインの形で行われた。高出力水素燃料電池を搭載した大型トラックや自由な組み合わせが可能な交換ブロックを使用したバッテリー交換ステーション、人工知能(AI)で充電時間を調節する充電スタンドなど、NEV産業の多様な新技術や応用例が展示された。とりわけ北京会場では、世界各国から40社余りの企業が出展し、NEV完成車や一連の部品、動力電池、駆動モーター、自動車の電気制御システム、水素燃料電池などの製品と技術を展示した。今回の大会は、NEVに潜む大きなビジネスチャンスを世界に見せた。
「中国NEV市場は将来性が大きい。また、今のNEVにはソフトウェアのアップデートやデジタルキャビンなどの新機能が導入され、消費者にとってさらに魅力が増えた」と前出の張翔院長は語る。中国に身を置く各自動車メーカーはすでに十分な準備を整え、このブルーオーシャンがもたらすチャンスをつかもうとしている。
吉利集団は15年11月から、「ブルー吉利行動」というNEV発展戦略を打ち出した。吉利集団の関係責任者によると、昨年、同集団は「スマート吉利2025」戦略を打ち出し、自動車の製造がアーキテクチャ型製造の時代に入り、高い質・価値・利益を持つ製品の製造を実現するとともに、傘下の各ブランドの自動車の電動化へのモデルチェンジを支えていくという。
また、奇瑞社のNEV事業の責任者は、「20年余りの発展を経て、当社は中国ですでに支社4社と子会社22社を持っている。傘下各社は現在、小螞蟻・大螞蟻・QQアイスクリームなどのNEVモデルを開発・生産しており、販売台数は急成長を遂げている」と述べた。
20年10月、上海汽車集団とフォルクスワーゲンの合弁会社である上汽大衆汽車有限公司が170億元を投資したNEV工場が上海で着工し、合弁自動車メーカーの電動化発展の道を切り開いた。昨年、上汽大衆汽車有限公司はEVの道を全力で進み、1年足らずの間で、EVSUV「ID.4X」「ID.6 X」「ID.3」の3モデルを発表し、同社の新世代EVの「ID.」シリーズ販売の手はずを整えた。「当社は今後、NEVやハイエンドブランドの発表、インテリジェントコネクテッドカー・自動運転技術の開発に重点を置く計画です。これからの5年間、当社は1300億元を投資し、NEVとインテリジェントコネクテッドカー、自動運転技術、ハイブリッド車の開発を推進し、製品の多様化を進めていきます」と同社の責任者は語る。
また、同社の親会社である上海汽車集団によると、25年までに、全世界における同集団のNEVの販売台数は270万台を超え、集団の自動車販売台数の32%を超える見込みだという。また、21~25年に、同集団はインテリジェントEVなどの革新分野で3000億元を投資し、ハイテク企業への全面的なモデルチェンジを図る計画。
NEVメーカーの野心的な計画について、重慶長安汽車股份有限公司の朱華荣董事長は次のように語る。中国はすでに世界で最も高度化したNEV産業チェーンを構築しており、世界最大のエネルギー補充ネットワークを築き上げ、NEVの利用環境の改善にも絶えず力を入れてきており、各メーカーにNEV市場への自信を与えた。
北京交通発展研究院省エネ・排出削減センターの劉瑩主任は、国家戦略の力強いけん引や自動車技術の絶え間ない向上、利用環境の改善、コスト削減に関するさまざまな措置の総合的施策によって、中国の消費者はNEVにますます魅力を感じていると分析する。また、今後について、「中国はNEVの発展に基づき、全国の自動車産業構造の調整とモデルチェンジを加速させ、産業体制の整備をさらに推し進め、新車の供給能力を確保し、NEVのコアとなる技術と製品の性能を高め、サプライチェーン全体をより完全なものにするだろう」と語る。