PART3 身近なスマホで変わる人生

2023-02-20 10:03:00

続昕宇=文

スマホアプリを使って昼食のデリバリーを頼み、午後には同僚と一緒にミルクティーを注文する。配車サービスや病院の予約も、スマホ一つで済ませられる。さらに、製造業の世界では「無人工場」や「透明化生産ライン」が続々と生まれている……インターネットなどのデジタル技術によってもたらされた恩恵は今や、中国の人々の暮らしと生産活動のさまざまな面をカバーしている。 

このような現象について、ビッグデータやAIなどのデジタル技術が主導する時代の中、人々はデジタル空間において生産、生活、エコ活動などに従事し、社会を進歩させ、デジタル文明を育んでいるとする見方がある。データによると、2021年に世界47カ国のデジタル経済の付加価値額は38兆1000億㌦に達し、名目成長率は前年比15・6%となった。そのうち中国のデジタル経済の規模は45兆5000億元で、GDPに占める割合は39・8%に及び、経済成長の主たるエンジンの一つとなっている。現在、中国のデジタルトランスフォーメーションは「無から有」のブレークスルーを果たし、「有から優」の段階へと進んでおり、デジタル文明時代に進むプロセスの中、デジタル経済はより質の高い発展を遂げ、いっそう奥深い社会的価値を生み出している。 

  

日常となったデジタル生活 

「私が大学に進学する前は、フードデリバリーを使ったこともなければ、タクシーだってまだ道で手を上げて止めていました。後になって出前プラットフォームで注文を頼めるお店がますます増えて、タクシーもアプリで予約できるようになりました。デジタル経済は私の暮らしのさまざまな面に影響を及ぼしています」と、今年24歳になる余璐さんは語る。 

まさに彼女が言うように、デジタル経済の下ではスマホやインターネットが衣食住のあらゆる問題を解決してくれる。「スマホがないと出掛けられない」というのは大多数の中国人の共通認識だ。「デジタル」は人々の日常生活の隅々にまで浸透し、とりわけ新型コロナウイルス感染症の対策期間中、大勢の人々がオフラインで行っていたことをオンラインに切り替え、それまでなじみのなかったオンライン授業やリモートワーク、テレビ会議などは現在、中国人の勉強や仕事、生活で欠かせない要素となっている。 

「以前は買い物に出掛けるとき、現金や銀行のカードを持ち歩かないといけませんでしたが、今はスマホ決済用のQRコードがあれば事足ります。バスや地下鉄に乗るのにも、QRコードをスキャンするだけで済みます」と語るのは、スマート製造企業で働く尹一光さんだ。デジタル化の発展が自らの生活をより便利に変えたと感じている尹さんは、「現在のスマートウェアラブル端末を使えば、血圧や体脂肪率、睡眠状況などをモニタリングしたり、データからフィードバックを得ることができます。今後、これらの端末がテクノロジー面でさらに多くのブレークスルーを果たし、よりしっかりと自分の体の状態を知ることができるようになるよう願っています」と期待を述べた。 

また、かつて浙江省杭州市で大学に通っていた「00後」(2000年代生まれ)の章潤彦さんがデジタル経済について最も印象深く感じているのは管理プラットフォームのデジタル化で、「浙江省の『浙里辦』アプリはワクチンや病院の予約、消費クーポンの受け取り、証明書の発行予約など、思い付く限りのことをほぼアプリ上で行うことができて、時間とコストの節約になるだけでなく、手続きの透明性や効率も高いです」と語った。 

  

従来型産業のデジタル化 

フードデリバリーの注文やシェアリング自転車の利用、スマホ決済、ネットショッピングといったデジタル化の応用が日常的なものとなる一方、その他のさまざまな分野におけるデジタルトランスフォーメーションも中国の人々に想像を超えるより多くの実益をもたらしている。 

現在、抖音(TikTok)や快手などのショートムービープラットフォームを開くと、自らのショップの商品を売り込む人々を見ることができる。新疆ウイグル自治区バインゴリン(巴音郭楞)蒙古自治州チャルクリク(若羌)県でかつて教育支援を行っていた張静琪さんは、デジタル経済が農村の産業にもたらした変化を肌身で感じたという。「チャルクリク県は干しナツメで有名で、現地の人々はライブコマースやショートムービーを通じてオンラインでPRと販売をし、さまざまなECプラットフォームでセールスするだけでなく、便利な宅配便ネットワークを使って農産物を全国各地に届けられるようになりました。売れ行きはとても好調で、人々はより多くの就業や起業の機会を得られたそうです」 

95後」(1995~99年生まれ)の程思宇さんは大学で動植物検疫を専攻していた。当時は後に自分がライブコマースの配信者になるとは思いもよらなかったそうだが、より予想外だったのはこの仕事と彼女の専門分野が絶妙にマッチしていたことだ。程さんが就職したのは小動物用粉ミルクを主力事業とする牧畜関連の科学研究企業で、彼女は会社のライブコマースとショートムービー業務、一部のECショップの運営を主に担うこととなった。「製品を販売する際には専門知識の蓄積が必要で、ライブコマースでは視聴者の動物飼育上の問題について助言します。会社にはそれらを専門とする先生や先輩が何人もいて、普段分からないことを聞けばプロの視点で答えてもらえたので、その過程で私の専門知識もますますしっかりしたものになりました。ライブコマースを見ている農家の方々は、私たちのアドバイスに従って弱った子羊や子牛の世話をするのですが、助言が功を奏して動物が回復した後、元気に跳ね回る写真や映像を送ってくれた方もいて、そのときが一番充実感を得られました」と程さんは語る。 

農業分野だけでなく、一部の老舗企業もオンライン化を取り入れ、デジタル経済の成長の波に乗っている。「陳昌銀」麻花(小麦粉の生地をより合わせて油で揚げた菓子)は重慶市の無形文化遺産で、重慶市の老舗の品としても知られる。陳麻花はそれまでずっと年間を通じて8種類の味を生産し、作っただけ売るというスタイルだったが、C2M(製造者が消費者の注文を受けてから商品を作る受注生産型のビジネスモデル)インダストリアルインターネットの導入によって受注生産を実現した後、現在では消費データをもとに生産を調整し、ビッグデータを用いて販売量に合わせた生産を行い、在庫ゼロを成し遂げた。また、ビッグデータを使ったスクリーニングによってメイン顧客層が30歳から40歳であると判明し、それらの人々が好む味を絞り込んで生産した。同社の関連部門の責任者は、「現在、わが社の商品の味は当初の8種類から20種類以上にまで増え、さまざまなルートで販売するようになり、顧客も全国に幅広くいます」と説明する。 

  

広がる応用の裾野 

青年は最も積極的なデジタル経済の参加者であり、クリエーターでもあって、とりわけ「Z世代」の若者は生まれながらにしてデジタル経済に親しんでいる。「Z世代」が集まるビリビリ動画では、1927年創業の老舗靴ブランドである回力が昨年8月、デジタル資産である「回力design―元年」を初リリースした。このデジタル資産は合わせて六つのデザインからなり、合計発行数は2022個で、そのうち210人の所有者は回力の限定シューズが売り出された際、購入する資格を得られる。通し番号が振られているため、それぞれのデジタル資産は世界で唯一無二のものであり、保証書も付けられていて、上海データ取引所の公式サイトで照会できる。このデジタル資産の創作者である回力の関連部門の責任者によると、今回初めてリリースされたデジタル資産はリアルとバーチャルの世界を結び付け、デジタル経済によって実体経済の発展を促す新たな取り組みで、その目的は創業100年に達しようとする老舗である回力のブランドの若年層化を加速させることにあるという。そのため、同社は2022年を回力designの新生の年と位置付けている。 

その他、健康への意識が高い「90後」(1990年代生まれ)や「00後」にとって、目下ますます流行しているフィットネスアプリも、デジタルトランスフォーメーションの流れに乗って全く新しいスポーツ環境を生み出している。フィットネス界のユニコーンアプリであり、現在3億人のユーザーを持つKeepは、利用者が自宅で気軽にエクササイズを行えるだけでなく、ソーシャル機能も備えており、健康的な生活にまつわる交流コミュニティーとなっている。スマートサイクリングやスマートルームランナー、アクティビティトラッカーなど、テクノロジーとスマート化によってKeepは利用者に良質なスポーツソリューションを提供し、ユーザー特化型でより没入感が高いフィットネス需要を満たしている。また、課金して会員になると、ユーザーはオーダーメードのフィットネス計画やライブ配信機能の有効化、オフラインのスポーツジムの予約などを含む会員限定サービスも享受できる。オンラインのライブ配信カリキュラムでは、リアルタイム弾幕式のコミュニケーション機能の付いたインタラクティブモードを使い、ユーザーはレッスンの最中にいつでもメッセージを発信可能だ。カリキュラムの効果に関するフィードバックや評価を受けたトレーナーは、それを元にレッスンのペースを調整する。さらに、同アプリにはカロリー消費ランキングなどの機能もあり、利用者は孤独感を覚えることなくエクササイズを楽しめる。 

デジタル経済の裾野は非常に広く、多くの業種や産業で応用されている。華中科技大学でコンピューターを専攻している大学院生の景智君さんは、「私は今、デジタル医療保険分野のインターンをしていて、医療保険の精算に関する技術研究に携わっています。診療報酬明細や請求書の処理について言えば、従来は手作業で確認した請求内容を手入力して該当項目の診療報酬率を求め、最後に診療報酬の合計を手計算するといった方法に依存していました。私たちはOCR(光学文字認識)技術による事前識別でデータベースから該当項目の精算明細などを探し出せるようにし、全フローでの機械自動精算を実現できるよう研究しています。全体的な効率は従来の方式よりも高まります」と語る。 

  

続々誕生する新たな職業 

デジタル経済の発展は多くの生産手段をリンクさせた。このことは従来型の業種に変化をもたらしただけでなく、新たな就業機会も生み出している。昨年9月、中国人力資源・社会保障部は新たに改訂された「中華人民共和国職業分類大典(2022年版)」を発表した。注目すべきは、このたびの改訂ではデジタル経済の発展ニーズに合わせて初めてデジタル関連の職業項目が設けられ、97の職業が新たに付け加えられたことで、これは中国におけるデジタル経済分野の目覚ましい成長を反映している。 

21年11月にオンラインでリリースされた「天猫ダブル11リクルートシーズン」は合計60万以上のECにまつわる求人を発表し、デジタル化マネージャー、ローコード開発エンジニア、キャラクターデザイナー、ライブ配信運営者、ゲームエクスペリエンスオフィサーなど多くのデジタル関連職業が人々の注目を集めた。それだけでなく、デジタル経済によってこれらの新たな職業ではグルメや娯楽、健康、環境保護に通じた人材のニーズが高まるなど、若者化と個性化の傾向が見られる。 

「今の暮らしがあるのはショートムービーのおかげです」と語る25歳のチベット族の女性・ガロンジュオムさんは、数百万人のフォロワーを持つ動画配信者だ。彼女のふるさとは四川省カンゼ(甘孜)・チベット族自治州稲城県で、交通の便が悪く、へき地であることから、同地の人々は農業や山の産物の採集、放牧を主ななりわいとしている。ガロンジュオムさんの学歴は高くなく、子どもの頃から父母と一緒に農業に携わっていた。5年前、彼女はたまたま冬虫夏草を採取する動画を撮り、インターネット上にアップロードしたところ、ネットユーザーたちの注目を浴びた。それ以降、彼女は生活上のさまざまなことをスマホで記録するようになった。松茸を干したり、キノコを取ったり、民謡を歌ったり、はたまた雪解け水でお茶を沸かしたり……農村生活の様子を収めたこれらの映像はたちまち大量のフォロワーを呼び寄せた。19年、彼女と現地の村民は合作社(協同組合)を設立し、冬虫夏草や松茸の販売を始め、村民たちに豊かさをもたらした。「私の運命はスマホによって変わりました。スマホとインターネットは私をより広大な世界へと導いたのです」と彼女は語る。 

「ショートムービーの投稿者やライブ配信者などデジタル化時代に興った新たな職業は、若者により多様な選択の機会をもたらしました」と話す前出の余さんは今後、デジタル経済がいっそう多くの分野で応用され、より多くの仕事や就職のチャンスを生み、若者の職業選択の幅を広げることを願っている。 


山東省冠県ではライブ配信で特産品の霊芝を売っている(新華社)

 

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