PART5 社会保障制度の基礎固める
続昕宇=文
貴州省玉屏トン(侗)族自治県の政務サービスステーションで、スタッフがネットから加入できる医療保険を村民に説明している(vcg)
富裕と共有は共同富裕の中核となる意義を成している。簡単に言えば、「パイを大きくして、適切に分配する」ことだ。合理的かつ効果的な社会保障制度は共有を促すだけでなく、経済成長の促進によって富裕を実現させることができる。そのため、社会保障の強化と改善は共同富裕を着実に推し進める具体的な取り組みとなる。改革開放以降、中国は社会保障の分野で一連の改革上の模索を行い、社会保障制度のモデルチェンジと適用範囲の拡大を実現し、経済成長を促すとともに、社会発展の成果の共有を促進した。
人々のよりどころ
社会保険は社会保障制度の最も重要な部分で、中でも医療保険はその重要な要素だ。中国では「病気にかかったら治療ができ、治療を受ければ保障を受けられる」がよく話題になるが、このことから、人々が最も関心を持ち、最も暮らしに関わる問題だと分かる。
江西省南昌市南昌県の向塘鎮山背村に住む趙勇輝さん(46)は昨年、大動脈解離という重病にかかって入院した。「治療費は19万9500元かかりましたが、基本保険で7万5000元、重病保険で2万9000元、医療救済で5万元が給付された上、生活困窮者層向けの救済政策でさらに4400元が給付されました」。回復期にある趙さんは金額を次々口にし、国民に恩恵をもたらす優れた医療保険政策のおかげで、病気で家族の重荷にならずに済んだと言った。
趙さんが受けた医療保険の恩恵は、医療面で人々を安心させるよりどころを示した実例であり、「病気にかかったら治療でき、治療を受ければ保障を受けられる」という言葉の中核を反映している。つまり、医療・保健の公益性を守り、人々に安全・有効・便利で経済負担の少ない保健医療サービスを提供し、貧困で受診できなかったり、病気で貧困に陥ったり、再び貧困状態に転落することがないようにさせることだ。
医療保険によって、「受診が困難で、医療費が高い」という問題が効果的に緩和された。これも人々の幸せな生活と社会の安定に資するものだ。統計によると、昨年末までに、全国で基本医療保険の加入者数は13億4500万人で、加入率は95%以上をキープしている。
一人でも取り残されないよう
低所得層、生活困窮者層は共同富裕を推し進める際に救済の重点となる人々だ。いかにして中国の社会保障システムの下にある社会福祉と社会救済の役割を十分に果たし、生活困窮者の生活保障をしっかりと行い、障害者や高齢者などいわゆる「特殊対象」の生活や医療の負担を軽減するかを考えることは、人々の共同富裕を実現する上での重要な一環だ。
湖北省荆州市江陵県灘橋鎮の馬家崗新村に住む時長玉さんは最低生活保障補助金を受ける身体障害者で、86歳の母親もいる5人家族のうち、37歳の息子も障害がある。そのため、村では特に気に掛けられている。昨年、長く使っていた義肢の不具合で、股関節に激しい痛みが起きて耐え切れなかった時さんは、1万元をかけて新しい義肢に取り替えた。しかし思いも寄らないことに、その費用は「農村合作医療保険」から給付できなかった。年間収入がわずか7万元の一家にとって、大きな負担になった。
そのことを知った村は直ちに民政部門と連絡し、時さん一家の状況を説明して5000元の臨時救済金を申請した上、「対口扶貧(ペアを組んで救済する)」組織に話を通し、1000元を工面した。さらに彼のために職員養老保険料を払って加入させた。足が不自由な彼の事情を考慮して、村は彼に売店を経営させ、生計を立てられるよう、村が所有する家屋の無償提供を決めた。そうすれば、近所の村民の買い出しが便利になる上、時さん一家の生活もより保障される。
その数日後、村の幹部は時さんの家を訪ね、6000元を渡して売店の話を持ち掛けた。「私のためにいろいろ考え、わが家の悩みを解決してくれた村には本当に感謝しています」と時さんは涙ながら語った。
生活困窮者に公益目的で設けられた職を与え、技術訓練で彼らの職業技術・能力を向上させ、企業が低所得世帯および低所得者の子どもと専業育成合意書を結ぶように奨励し、社会公益ベンチャーキャピタルファンドを設立して弱者層を支援する。全人民の共同富裕を推し進める背景の下、中国の各地はこのようにして積極的に弱者や貧困者を助け、一人でも取り残されないように取り組んでいる。
ふさわしい制度改革
第13次五カ年計画(「十三・五」計画)の期間中(2016~20年)、中国は世界最大規模の社会保障システムを構築し、多くの実践の経験を積んだ一方、公平性の不足や持続可能性への懸念、運営効率の不十分などの問題や試練に直面している。
これについて、浙江大学公共管理学院の何文烔教授は次のように考える。新たな発展段階において、中国の社会保障システムは全体的な科学的設計を必要とする。質の高い発展は今後一時期における中国の社会保障分野の基調であり、社会保障事業の質の高い発展にも基準が求められる。それはより公平で、より持続可能で、より効率的であることだ。また、何教授は次のように述べた。社会保障事業の質の高い発展を推し進める重点は社会保障システムの完備化にあり、基本保障の各項目の制度設計を改善するとともに、医療や教育、介護などの基本保障制度の運営の仕組みを革新し続けなければならない。
社会保障は重要な社会的制度設計として、全人民の共同富裕を推し進める中で大きな役割を果たしている。社会保障制度という重要な基礎を打ち固めてこそ、共同富裕は着実に進むことができる。今後、中国は社会保障制度改革を進め、共同富裕の進展にふさわしい社会保障制度を整えていく。