PART2 大気汚染防止10年の成果
王焱=文
2011年、北京の微小粒子状物質PM2・5のリアルタイムデータが微博(ウェイボー)で話題になり、スモッグによる人体への影響が注目されるようになった。12年、PM2・5が初めて中国の大気質モニタリング指標に盛り込まれた。13年1月、中国中東部が広範囲にわたってスモッグに包まれ、暗い空と汚れた空気が人々の心身の健康を害し、マスクや空気清浄機が売れ筋商品になり、青空が待ち望まれた。同年9月10日、国務院は「大気汚染防止行動計画」を発表し、全国民が参加した青空防衛戦が幕を開けた。
今年は、大気汚染総合防止対策が開始されてから10年目に当たる。
排出削減で取り戻した青空
PM2・5、PM10、一酸化炭素、二酸化硫黄、二酸化窒素およびオゾンは、大気質に影響を与える主要な汚染物質であり、主に工業排ガス、石炭火力発電、自動車排気ガス、粉じんに由来する。湿度が高いと、空気中の汚染物質が水蒸気と混ざり合ってスモッグを形成する。風速が小さく、近くに山脈がある場合、スモッグがたまりやすい。
北京を囲む河北省は、鉄鋼生産量が全国の2割以上を占めている。鉄鋼業が河北省に多額の工業生産額をもたらす一方で、大小の製鉄所の煙突から出る煙は、地元に深刻な大気汚染を引き起こしていた。特に、河北省の北部にある燕山山脈と西の太行山脈が交差し、風がないときはスモッグがたまりやすく、風があるときは汚れた空気が隣の地域にも影響を与えた。13年9月16日、河北省は「大気汚染防止行動計画実施方案」を発表し、鉄鋼生産能力の削減を含む多くの措置を出した。これらの強力な措置は地元の経済成長に一定の影響を一時的に与えたが、大気質への改善効果も著しかった。21年、河北省のPM2・5の年平均濃度は1立方㍍当たり38・8㍃㌘まで下がり、20年比で15・3%低下し、年間の大気質「優良」日数も、20年比で15日多い269日になった。
河北省に接する山西省は、中国の主要な石炭産地であり、コークス製造のような重工業が同省の大気汚染を引き起こしている。これに対して、山西省は関連企業の超低排出ガス化に力を入れている。昨年、同省の大気質は明らかに改善され、年間の大気質「優良」日数の割合は、17年比8・7ポイント増の74・4%になった。重度汚染日の割合は17年比86・8%減の0・5%になった。PM2・5の年平均濃度は17年の1立方㍍当たり55㍃㌘から38㍃㌘に減少し、二酸化硫黄も17年の1立方㍍当たり51㍃㌘から12㍃㌘に減少した。山西省各都市の多くの住民は、青空や白い雲の写真を微信(ウイーチャット)のモーメンツへ投稿した。
「石炭から電気へ」
かつて北京の石炭消費量は、市全体のエネルギー消費量の75%を占めていた。10年前、北京中心部にある一部の平屋建てエリアでは、冬になると主に石炭暖房を使用し、煙が毎朝各家から上がっていた。13年以降、北京市は暖房の「石炭から電気へ」「石炭からクリーンエネルギーへ」の転換プロジェクトを推進し、もともと石炭暖房を使用していた住民コミュニティーのために、外部送電網の容量を増やし、屋内用電線を改修し、蓄熱式暖房設備を設置した。西城区大柵欄街道三井コミュニティーの平屋に住む張履瑞さん(72)は、暖房方式の変化をこう振り返る。当初、彼女や周囲の住民は、使い慣れた石炭暖房を電気暖房に変えると温度が上がらず、コストもかかると心配していた。これに対し、コミュニティーのスタッフらは電気暖房の使用状況や電気代の優遇政策などを丁寧に説明した。電気暖房使用後、張さんは「石炭の臭いがなくなり、家は以前より暖かくなり、しかも値段も高くない」と語った。
暖房の「石炭から電気へ」の推進は農村部にも及び、100万世帯以上の住民が利益を受けた。現在、北京市の平原地域では、暖房の「脱石炭」を基本的に実現した。市全体の石炭消費量は、12年の2179万6000㌧から21年に131万㌧まで減少し、石炭による大気汚染の問題が基本的に解決した。
また、北京市はエネルギー構造や交通構造などの面でも大気汚染防止を推進している。17年頃に五環路内(中心部から10㌔ほど外周を通る環状道路)の四つの大型石炭火力発電所が相次いで停止し、四つの新しいガス火力発電所が予定より早く完成・稼働した。大都市で深刻な自動車の排気ガス汚染問題に対して、北京市は地下鉄などの公共交通の発展に力を入れて、さまざまな政策を通じて市民が優先的に電気自動車を購入することを奨励している。
10年前と比べると、今の北京では青空を見られる日が1年で4カ月近く増えた。
人々の健康につながる
大量の科学技術も大気汚染防止に応用されている。12年以降、中国の数百の主要都市では、PM2・5のリアルタイム監視システムが次々と構築されている。また、大気自動測定技術、衛星リモートセンシング観測技術、レーザーレーダー技術、さらにはドローンなどを総合的に応用し、宇宙、空、地上での三次元立体監視システムを実現した。建設現場の粉じんは、都市部のPM2・5の大きな発生源の一つである。これまでは手動サンプリングに頼っており、監視・測定の効率が極めて低かったが、現在、オンライン粉じんモニタリング設備を使えば、現場の空気汚染の変化状況をリアルタイムに測定することができる。また、車載端末設備のネットワークにより、大型トラックの排ガスもリモート測定・管理することができる。
確かに、中国全体の大気質はまだ理想とはほど遠いが、13年に大気汚染防止対策が実施されてから、状況は改善されつつある。しかも、大気汚染防止対策が守るのは青空と白い雲だけではない。このほど北京大学環境健康研究チームが発表した「中国の大気質改善による健康効果の評価」によると、全国のPM2・5曝露濃度は48%減少し、人口の53%の曝露濃度レベルが国家標準規制値を下回った。また、大気質の大幅な改善により、国民の健康状態もかなり改善されている。PM2・5に関連する平均余命の損失は10年前の1・86年から1・38年に減少している。同研究チームは、今後、より効果的な大気汚染対策が実施されていくにつれ、健康面の向上はさらに顕著になり、より多くの人々に恩恵をもたらすだろうと指摘している。
近年、北京の大気汚染対策は顕著な効果を収めた。赤い壁に緑の瓦をいただく故宮が青空と夕焼けに照らされる光景を大勢の人々が撮影した(vcg)