PART3 エンタメにのせて世界へ
続昕宇=文
中華文明は世界四大文明の一つであり、人類の進歩に多大な貢献をしてきた。近年、傑出した中国の伝統文化と現代文化が国際社会の舞台にたびたび登場し、その魅力と独自性を世界にアピールするだけでなく、異なる文明との交流と相互参考、融合と発展を通じて、中国文明と他国の文明の調和と共存をさらに促進している。
「紙翻花」が海外で注目
「紙翻花」とは中国の伝統的な紙工芸の一種で、花を模したペーパーアートだ。今年、「紙翻花のラップ」という動画が海外のSNSで大ヒットし、TikTok(ティックトック)での再生回数は15億回を超えた。動画で話題となった「郭氏七十二変紙翻花」は、清の康煕年間(1662~1722年)に湖北省天門市の郭一族が創造した技で、16代300年以上にわたって今日まで伝わってきた。2021年、「紙翻花の制作と演芸および『貫口』(早口)技芸」は福建省福州市晋安区の第4次地区級無形文化遺産の代表プロジェクトに登録された。
「郭氏七十二変紙翻花」は、制作、演芸、「貫口」を組み合わせた伝統的な技法だ。「貫口」とは、息継ぎをせず、あるいはしていないように見せ、非常に速いスピードで歌ったり、多くの物事を連続して語ったりすることを指す。16代目の伝承者である郭遠峰氏はこう語る。「『貫口』には一つのおきてがあります。それは、途中で休むことなく一息で歌わなければならないということです。そのため、演奏中にはかなり気を集中させることが大事です」
「貫口」もまた、郭一族が受け継いでいく中で進化してきた。郭遠峰氏の父、15代目伝承者の郭庭寛氏が先祖が命名した「翻花」をもとに完成させた「貫口」は国内外で広く伝わった。郭遠峰氏は、それを韻を踏むラップのようにするために、もとの歌詞を調整し、現代的なドラムのリズムに合わせて歌うことで、この伝統技芸を現代人の耳にも美しく響く表現にした。
その動画がアップロードされた後、「貫口」のパフォーマンスは海外でセンセーションを巻き起こし、多くの海外ネットユーザーが「貫口」をベースにラップの吹き替えなどを加えた二次創作を行い、この無形文化財の技法は海外のSNSでも人気を博した。ある外国人ブロガーは3月上旬、「標準中国語のラップ練習初日」という「貫口」学習動画を公開した。月末になると、彼は2番目のフレーズまで流ちょうに話せるようになっただけでなく、「翻花」の動作も巧みに合わせられるようになったという。多くの海外ネットユーザーは、標準中国語の音韻の美しさに感嘆し、「翻花」という中国のおもちゃにも興味を持つようになっている。興味を持ってわざわざ「紙翻花」を購入する人もいた。
ネット文学が中国への窓口に
中国のネット文学は20年以上にわたって発展し、今では比較的成熟した産業体系と強力な国内市場を形成している。ここ数年、大手ネット文学企業が海外市場に進出し始め、世界で広く注目を集めている。タイOokbeeUの読書事業責任者のピポ氏によると、ネット文学は今や中国を知るための窓口の一つとなっており、「タイでは毎月10%の人が私たちのプラットフォームでネット小説を読んでいます」と話す。磁器、刺繍、戯曲、絵画、料理など、東洋の文化要素と中国の伝統的な美徳を取り入れた中国ネット文学は、その独特な中華文化の魅力と鮮明な中国風の特色によって海外の読者たちに愛読されている。ネット文学を読むことで、中国の伝統文化について理解し、現代中国の姿にも触れることができる。
中国ネット文学市場のパイオニアである閲文集団が発表した「2022年中国ネット文学の海外進出報告」によると、昨年末までに、同グループの海外向けサイトである起点国際(WebNovel)は、仙俠、ファンタジー、恋愛、SFなどのジャンルを含む中国ネット文学の翻訳作品約2900点をすでにオンライン化し、そのうち9作品の閲覧数は1億回以上だという。中でも現代女性の自己成長を描いた『許你万丈光芒好(君に一万マイルの光を)』は4億回以上の閲覧数でトップとなった。一方、起点国際は海外で約50万のオリジナル作品を発表、約34万人の海外オンライン作家を育成した。ネット文学の海外進出で引き付けられたユーザーは4年間で8・5倍増加し、約1億7000万人に達した。
また、報告によると、中国ネット文学の海外読者は世界200以上の国と地域に存在し、読者数が最も多いのは米国で、成長率が最も高いのはパキスタンである。中でもZ世代の読者が75%以上を占め、海外の若者の目に中国ネット文学が魅力的に映っていることを示している。昨年、医療小説『大医凌然』を含む16のネット小説が大英図書館の中国語文献目録にも収録され、中国ネット文学が世界的に大きな意義を持つコンテンツ、文化現象になりつつあることを明らかにした。魯迅文学院の王祥研究員は、海外の読者が特に求めているファンタジー、仙俠、SFなどの優れた作品は中国ネット文学が世界の大衆文学に果たした貢献であると指摘した。それらの作品は東洋の神話的背景とキャラクターの原型を主な素材として再構築し、欧米のファンタジー文学や芸術が到達できない異なる精神的領域を提供し、中国の伝統文化の再創造力を十分に発揮していると考えられる。
同時に、ネット文学にけん引される形で、アニメ、映画・ドラマ、ゲーム、グッズといった川下産業も活況を呈している。日本では、eスポーツをテーマにしたネット小説『全職高手(マスターオブスキル)』の紙書籍が大手出版社リブレから出版され、2021年には同名漫画が漫画アプリピッコマで連載開始、長期にわたって人気ランキングトップ3にランクインした。『全職高手』からは、出版許可から翻訳作品のウェブ連載、そしてアニメの海外進出という中国ネット文学の海外進出モデルの進化と変遷を垣間見ることができる。
中国要素の「視覚的饗宴」
アニメ、ゲーム、映画、テレビドラマ、ショート動画……近年、海外では中国の要素がより多様化して最先端かつオープンな形で頻繁に登場している。実際、中国の傑出した伝統文化は、無尽蔵の創造性の宝庫である。現在では、優れた中国の伝統文化も、現代的要素が溶け込んでいるため、世界中のより多くの地域の人々に受け入れられ、愛されている。
近年、中国アニメは徐々に世界の舞台で活躍し、多くの作品が中国のファンに認められただけでなく、海外でも高い評価を得ている。『天官賜福』はその好例だ。ストーリーに中国の伝統的な舞踊、刺繍、婚礼、祭祀などが見事に取り入れられたこの作品は20年10月に中国の動画共有サイトbilibili(ビリビリ)で配信され、再生回数が昨年12月で5億回を突破した。このアニメの独特な中国要素は海外のファンからも注目され、21年2月までに海外で3億5000万回を超える再生回数を記録した。
14年間『ナルト』シリーズのアニメ監督を務めた伊達勇登氏はこう語る。インターネット時代、グローバルな視野が広がった。中国市場がますます大きくなり、中国のオリジナルアニメ作品の質が向上する中、日本が中国のペースに追い付くために優れた作品を作り続けられるか懸念している。
ゲームの分野では、長年にわたるゲーム業界の報告によると、中国の自社開発ゲームの海外市場における実際の販売収入は、過去10年で約30倍増加した。また、ゲームは新たな「中国の看板」となり、ゲームを媒介として、中国の優れた伝統文化が世界中のプレーヤーにますます認知されている。
中国の伝統文化に根差したゲーム『原神』は、現在150カ国以上で配信され、海外で高い人気を誇っている。海外のプレーヤーは、中国の自然や地形、建築芸術、伝統音楽、戯曲文化、年中行事や民俗などの文化的魅力をゲームの中で体験することができる。例えば、ゲームのキャラクター「雲菫」は演劇の有名な役者だ。彼女が演じる劇の原型は京劇であり、作詞・作曲・歌唱は一流のプロが担当している。「Yun Jin Opera」というキーワードもSNSのホットトピックスとなった。
三七互娯網絡科技集団は、ゲーム開発・配信、メタバースなどを手掛ける総合エンタメ企業だ。同社の彭美副社長はこのようなエピソードを語った。「しばらく前、フェイスブックで当社の広告を見た米国人ユーザーからメールが届きました。彼はコミュニティーパフォーマンスの担当者で、当社の宣伝資料やゲームプレーに京劇要素が取り入れられていることを知り、非常に興味を持って資料を探していたんです。その後、彼は京劇の節回しをコミュニティーパフォーマンスに加え、たくさんの米国人に中国文化の精髄を感じてもらいました」
映画・ドラマの分野では、『花千骨(花千骨~舞い散る運命、永遠の誓い~)』『歩歩驚心(宮廷女官 若曦)』『甄嬛伝(宮廷の諍い女)』などの作品が国境を越えて、東南アジアで無数のファンを獲得した。また、一昔前のドラマ『還珠格格』は視聴者が時代ドラマを好む東南アジアで話題となり、ベトナム、タイなどでリメイクされた。これまでのところ、『花千骨』はタイの輸入ドラマランキングで1位、シンガポールのテレビドラマ口コミランキングで1位を獲得し、『延禧攻略(瓔珞~紫禁城に燃ゆる逆襲の王妃~)』や『陳情令』などのテレビドラマの再生数はいずれも1000万回を超えた。
シンガポールのパフォーマンスアーティスト・蔡曙鵬氏は、外国人が中国の映画やドラマを見ることは異文化のぶつかり合いだと考える。映像作品が体現している価値観が外国人視聴者のそれと似ていれば、共感が起きやすくなる。「中国には高い技術力があるだけでなく、ぬくもりのある物語にも事欠きません。東南アジアの視聴者は、映画やドラマを通じて、共感できる中国の物語を味わい、リアルで立体的で全面的な中国を感じ取っているんです」
アニメ『天官賜福』のポスター。『天官賜福』は海外のプラットフォームで大きな反響を呼び、中国で最も権威のあるアニメの賞「金龍賞」の海外影響力賞を受賞した