世界結ぶ自由貿易試験区

2024-03-01 16:27:00

段非平=文 

自由円滑化を掲げる自由貿易試験区(以下、自貿区)は、さまざまな特性から「世界に最も近い場所」とされている。 

中国の自貿区の建設は2013年、上海からスタートした。その後の10年間に、広東遼寧陝西安徽の各省や新疆ウイグル自治区などで22の自貿区が相次いで成立。国内の東西南北と中部を広くカバーし、沿海地域内陸部国境地域を統一的に計画するハイレベルな改革開放の新たな枠組みが次第に形成され、「一本の枝」から「百花繚乱(りょうらん)」へと発展してきた。 

対外開放の「モデルケース」と制度革新の「パイオニア」として、自貿区は中国自身の発展を推進し続けるだけでなく、世界経済の回復にも絶え間なくエネルギーを注入している。 

革新で開放を促進 

上海自貿区の臨港新エリアにある「元初数智テクノロジー開発会社」の倉庫に入ると、さまざまな商品が種類別に分類され、異なるエリアに置かれている。同社の黄影明会長は、「ここの棚はほぼいっぱいなので、新しく借りた倉庫をもうすぐ使う予定です。ここ数年、ビジネスはますます好調で、自貿区が行っている『貨物状態の識別監督管理』システムには本当に感謝しています」と話し、商品がびっしり整然と並んだ棚を指しながらほほ笑んだ。 

黄会長の言う「貨物状態の識別監督管理」は、上海自貿区が打ち出した革新的な制度だ。従来、課税が留保されない非保税貨物は保税区域外で保管する必要があり、物流企業にとって区内外に二つの倉庫を持つことで高い運営コストが生じていた。しかし、新制度により非保税貨物は保税区での貯蔵が許されるようになった。 

自貿区では、保税貨物港岸(オフショア)貨物非保税貨物の3種類の異なる状態の貨物に対し、異なる監督管理方式を実施しているが、貨物に対しては統一的な物流配送と加工貿易を実施している。 

黄会長は、「新制度は倉庫資源を活性化させただけでなく、非保税貨物の手続きをする際、まず一部の貨物を越境電子商取引の形で素早く販売し、市場調査をすることができます。市場の反応が良ければ、手続きが完了した商品から通常の貿易取引のルートで実際に送ることができます。これにより、企業は確実なコスト削減を実現できます」と語った。 

また黄会長によれば、この制度革新により、上海自貿区は国際国内の貨物を自由に中継する真の総合物流サービスプラットフォームとなり、より多くの企業がここを中国に商品を入れる窓口として選ぶようになるという。 

黄会長が、臨港新エリアで一体化情報管理サービスプラットフォームの企業インターフェースを開き、一着のワンピース(レディース)を選ぶと、画面には商品申告の各段階と時間がはっきりと表示されていた。この服はわずか10秒で審査を通過。プラットフォーム側の「ワンストップ窓口」の構築により、税関検疫税務などの各段階を一本化し、貿易通関の利便性は大幅に向上した。 

革新的な監督管理システムとスマート化された通関方式は、企業に優れた貿易環境を提供し、多くのビジネスチャンスをもたらした。自貿区の追い風を受け、元初数智の倉庫面積は800平方から約5万平方へと拡張。業務先も欧米や日韓など数十カ国に広がった。 

一連の制度革新は、企業の持続的な発展を支えただけでなく、一般の人々にも恩恵をもたらした。 

上海浦東新区市場監督管理局薬品化粧品監督管理処(課に相当)の王志聞処長は、しばしば「1本の口紅」の物語を引き合いに、自貿区がいかにイノベーションを「庶民の家に飛び込ませた」か語った。「以前は1本の口紅を輸入するのに、1箱分の書類を持って北京に行って認可してもらわなければならず、行ったり来たりで最低2カ月はかかりました。時間の浪費なので、一部の外国ブランドは中国での季節限定商品の発売を諦めざるを得ませんでした。ところが今では、その場で完了です」 

上海自貿区は17年、一般的な化粧品の輸入届け出による管理制度を国内で初めて打ち出した。これにより新製品は先に輸入が認められ、安全性審査は手続き中か事後に行われるようになった。その結果、化粧品の輸入許可から実際の輸入までの時間が一気に短縮された。「現在、口紅を輸入する際、企業は1本だけオンラインで電子申請書類を提出すれば、関連するビジネス活動を展開でき、消費者は時差ゼロで世界最新モデルの化粧品を体験することができます」 

上海浦東新区の人気商業施設「前灘太古里」の2階にあるフレグランスショップ「ルラボ」(LE LABO)では、対岸の浦西から黄浦江を越えてやって来た数人の若い客が、「ここはオーダーメードの香水を作れる珍しい店だから」と話していた。 

客がその場で香りを選ぶと、外から室内が見える密閉された実験室でスタッフが香水を調合し、瓶に詰めた後にラベルを選ぶ。これは上海における個性的な化粧品カスタマイズの試みであり、上海自貿区が一般化粧品の認可制を届け出制に変更した後に続く、「美容産業」のもう一つの制度的革新でもある。 

口紅や香水などに対する、ますます質が高まる消費環境や、ますます快適になるショッピング体験は、全て自貿区改革の素早く着実な歩みの小さな縮図であり、またハイレベルの対外開放を推進する中国の積極的な模索を示している。 

自貿区は、全国初の外資参入ネガティブリストの発表から、全国初の国際貿易ための「ワンストップサービス」のオンライン化まで、また第1陣の自由貿易口座の開設から、全国初の外資の単独出資による病院の開業、初の外資系自動車製造企業の設立まで、10年間にわたり中国の改革開放プロセスで多くの「初めて」を生み出した。また302項目の制度革新も自貿区から全国に広がり、全方位かつハイレベルな対外開放の新たな枠組みの構築を推進している。 

次々出現 産業クラスター 

制度革新が続々と全国に広がり、ハイレベルの対外開放のメリットが持続的に発揮されるにつれ、各自貿区は産業の強みを生かす差別化の模索を絶えず展開。開放のチャンスを利用する中で世界をリードする産業クラスター(企業集積)を育成し、質の高い発展を先導し、模範となっている。 

日が沈むと、「鋼鉄のジャングル」と呼ばれる工業エリアで輝き始めた何千万もの明かりが、現代的な魅力を持つ特別な小島——舟山岱山県魚山島を映し出す。島にある「グリーン石油化学基地」は中国初、世界でも2番目の「離島型」石化基地で、浙江自貿区舟山エリアの重要な部分だ。 

舟山グリーン石化基地プロジェクトは15年に正式着工した。それからわずか数年の間に、近代的な大型の石油精製施設がそそり立ち、輸送用の埠頭(ふとう)が整備され、大型貨物船が絶えず行き交うようになった。国務院は20年に、「中国(浙江)自由貿易試験区の石油ガス全産業チェーンの開放発展の支援に関する若干の措置」に同意。さらに舟山エリアの石油ガス全産業チェーン発展の「早送りボタン」を押した。今では舟山エリアの精油やエチレン、芳香性化合物などの生産能力は全国第1位となった。 

浙江石化企業開発部の羅東昇マネージャーは、「舟山グリーン石化基地の加工原油は昨年3月22日、累計1兆に達しました。これは中国の石化工業の急速な発展を示すだけでなく、世界の石油化学業界の発展パターンにも直接的な影響を与えています」とその歴史的な瞬間を振り返り、興奮を隠せない様子だった。また羅マネージャーは、「グリーン石化は浙江自貿区が重点的に推進してきた生産額1兆元クラスの産業の一つです。舟山グリーン石化産業チェーンの波及効果により、浙江省東海岸にはより大規模な産業クラスターの形成が見込まれます」と期待した。

浙江省に隣接する安徽省でも自貿区を設立しており、テクノロジーの革新を通じて新興産業クラスターを作りあげることを重点目標にしている。 

安徽自貿区合肥エリアのハイテク企業が集まる雲飛路には、量子テクノロジーの企業20社余りが道路に沿って連なっている。その一つの「本源量子コンピューターテクノロジー社」のショールームに足を踏み入れると、そこには白い円筒形の物があり、人目を引いていた。「これはわが社の超伝導量子コンピューターで、独自に開発した量子チップを搭載しています」と同社量子クラウドセンターの趙雪嬌ディレクターが紹介。さらに趙ディレクターは、「われわれは自貿区の『ディープテック』企業リストにも選ばれました。いわゆる『ディープテック』企業とは、模倣しにくい技術を持ち、高度な科学的発見と重要なコア技術を備えた企業のことです」と胸を張った。 

安徽自貿区は20年9月に正式承認され、国務院が公布した「中国(安徽)自由貿易試験区の総合プラン」では、自貿区は科学技術の革新と実体経済の発展の深い融合を促進し、先進的な製造業と新興産業の集積発展を加速させるべきだと明確に打ち出している。 

この3年余り、安徽自貿区はこれを基本方針として、「テクノロジー革新+産業」の特色が日増しに明らかになっている。また、打ち出された一連の新たな枠組みや政策は、振興産業のクラスターを構築するために絶えず勢いを増し、力を付けている。 

浙江(省)と安徽(省)の自貿区だけでなく、山東自貿区はその強みを発揮して海洋産業という特色を絶えず打ち出し、中国の魚類養殖におけるスマート化とハイエンド化のレベルをさらに高めている。また広東自貿区は、広東香港マカオの深い協力モデル区構築を任務に、積極的にこのグレーターベイエリアの建設に貢献している。さらに海南(省)自由貿易港は、海口メディシンバレー(薬谷)国家級バイオ医薬品産業プラットフォームの育成を加速させており、生産額1000億元クラスのバイオ医薬品産業クラスターを作り上げた。こうして各自貿区に建設された世界をリードする、特色ある産業クラスター一つ一つは、世界に向けて中国の開放と発展の活気あふれる姿を示している。 

世界と発展の好機共有 

昨年、自貿区22カ所の総面積は国土面積の250分の1にも満たなかった。だが、全国の外資系企業の投資と輸出入の約5分の1に貢献しており、ますます多くの企業がここで政策の恩恵を発展のチャンスに転化している。 

中国初の外資系独資の自動車製造プロジェクトである「テスラ」上海スーパー工場は19年、上海自貿区臨港新エリアに完成。驚異的なスピードで「同一年内での着工竣工生産納品」という奇跡を成し遂げた。テスラの創業者であるEマスク氏は、「これは私が見た中で最も速い建築物だ」と驚嘆した。 

その後の4年、「テスラスピード」は絶えず更新され、100万台の目標達成まで33カ月、同200万台まではわずか13カ月と、上海工場はテスラ史上最も効率の良いスーパー工場となった。今やこの上海スーパー工場では40秒足らずで車両1台の組み立てが完了し、世界の自動車製造史上また一つの記録を打ち立てた。 

「テスラグローバル」の陶琳副総裁は、「中国は近年、対外開放のレベルを絶えず引き上げており、テスラはその証人でありさらに受益者です」と話した。中国の持続的な対外開放政策と先進的な発展理念、良好なビジネス環境は、企業に大きなチャンスを創り出しており、中国市場はテスラの発展にとって「必須の選択肢」となっている。 

日本貿易振興機構(ジェトロ)成都事務所の森永正裕首席代表は、「自貿区は、大手の国際的企業が中国で投資し市場を開拓するために、良いプラットフォームを提供しています。過去10年間の豊かな成果は、中国が他国との協力関係を拡大し、世界経済の発展を促進する上で重要な役割を果たしたことも世界に証明しました」と述べた。また森永代表によれば、自貿区はネガティブリスト制度を採用して外資を管理しており、金融分野における外資への規制は大幅に緩和している。これらの措置は、中国の発展への外資参入や、中国の国際貿易への積極的な参加を促進する役割を果たしているという。 

シンガポール国立大学リークアンユー公共政策学院の顧清揚準教授によると、「グローバル化の『逆風』が強まれば強まるほど、中国の開放のレベルを引き上げなければなりません。質の高い自貿区の発展を通じて、中国は世界が互恵協力の正しい軌道に向かうよう、推進に力を尽力しています」という。また、過去10年間の自貿区の建設は、中国の全面的な開放構造の形成を力強く推進した。今後、自貿区は中国の発展のメリットを世界と十分に分かち合い、共同の発展を推進するための新たな高地となるだろうと考えている。 

 

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