堅持し続ける安定と前進
段非平=文
3月5日に第14期全人代第3回会議が開幕し、中国の政治、経済、民生、外交など各分野の最新の動向も公開され、国内外から広く注目された。ますます複雑化する国内外の情勢に対し、中国はどのようにして安定した基礎を打ち固めるのか? 改革のいっそうの全面的深化の要の時期に、中国はどのようにして前進の勢いを効果的に続けられるのか?中国が出したプランを見てみよう。
5%の根拠は?
世界第2位の経済国である中国の経済の鼓動は世界経済の神経と結び付いている。毎年の全国両会期間中、海外は中国政府が発表する中国経済の状況と発展計画にとりわけ関心を寄せる。
「今年の主な所期目標として、GDP(国内総生産)の伸び率は5%程度とする」。政府活動報告(以下、報告)が提起したこの目標は、「安定は大局と基礎」「前進は方向性と原動力」という明確なシグナルを発している。そして中国経済の安定的かつ健全な発展は、世界経済の回復に原動力と自信を注入する。
なぜ5%程度なのか? この目標を達成する根拠は何か?
「客観的なニーズからいって、一定の経済成長を維持することは、第14次五カ年計画の円滑な完了と、民生の保障と改善に関わるだけではなく、国際環境の複雑な変化に対応し、世界競争力を向上させ続けるためにも必要です。現実的可能性から見ると、昨年の中国経済は国内外の多重のマイナス要因の影響を受けたものの、5%程度の成長を実現したため、今年の経済発展にとって良い基盤を築いたと言えます」。全国政協委員で中国社会科学院経済研究所研究員の黄群慧氏によれば、5%とは「ジャンプしなければ届かない木の実」のような成長目標であり、実現には多大な努力が必要だが、中国にはやり遂げる能力があるとのことだ。
拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏は、「中国が今年のGDPの伸び率を5%前後と決めたのは熟慮を重ねての結果であり、過度な制限を設けず実現可能性を確保したのは、安定と前進の間でバランスを取ることへの中国政府の重視が反映されています」と語る。英国の『ガーディアン』は、中国は世界的な動揺の中で自身の発展のペースを保っており、これは世界市場にプラスの影響をもたらすと指摘した。
中国経済の自信は多層的な優位性に対する理性的な判断に基づいている。中国は超大規模な市場と整った産業体系、豊富な人的資源を有しているばかりか、中国政府も長期的な発展計画と科学的調整・コントロール能力を備え、的確な施策(1)と上下の協働によってさまざまなリスクや課題に効果的に対応することが可能だ。人民を中心とする発展の思想も中国経済の自信の理由だ。今年の報告では「ヒトに投資」が初めて提起され、住民所得の伸び率を経済成長率と同ペースに保つことが強調され、民生への呼び掛けを具体化している。この発展のロジックは、人民の生活レベルを向上させるだけではなく、全人民の積極性と創造力をかき立て、複雑に変化する国際情勢の下で中国が奮って前進する原動力を終始キープさせる。言うなれば、世界経済の不確実性が日増しに高まる中、中国経済は複雑な環境の中でも安定しながら長期的に発展し、国際社会にプラスのエネルギーを注入している。
鍵を握る科学技術イノベーション
両会開幕前、モバイル機器見本市「モバイル・ワールド・コングレス」(MWC)がスペインのバルセロナで行われ、300社以上の中国テック企業が最新の商品を展示した。今年、ファーウェイやZTEなどは6Gの先行研究データ、AI通信などの最先端技術を展示し、シャオミやオナーなどはスマートデバイスエコシステムのイノベーションに焦点を当て、世界で活躍する中国テック企業の力強さを示した。同大会の開催地は両会の場所とあまりにも距離を隔てているものの、違った面から中国科学技術イノベーションの着実な歩みを映し出し、世界が中国の質の高い発展を見るための重要な窓口になっている。
昨年の報告では、科学技術イノベーションが主導的役割を果たす「新たな質の生産力」が初めて盛り込まれた。この1年で新たな質の生産力は概念から経済発展の身近な共通認識になるとともに、中国経済の新たなビジョンを描いた。今年の両会でも、科学技術イノベーションは話題となった。特に「DeepSeek」が世界的な議論の的になると、AI技術がさらに注目された。今年の報告では「AI+」行動を持続的に推し進めることを強調するとともに、現地の実情に応じて新たな質の生産力を発展し、バイオものづくり、量子技術、エンボディドAI、6Gなどの未来産業を育成するよう提起している。
全国政協委員でアンチウイルスソフトウエア360集団創始者の周鴻禕氏は次のように述べた。「報告は『大規模言語モデルの広範な応用を支援する』とし、演算能力などの分野で統一的な配置を行っています。これは国がAI産業の発展をあらゆる面から支援し、大規模言語モデル『能力』を発展の『原動力』に転じさせることを意味しています」
先日訪中した日本国際貿易促進協会理事兼事務局長の泉川友樹氏は、北京の亦荘自動運転モデルエリアで自動運転車に乗ったときの印象が残っていると語り、「科学技術イノベーションが産業のグレードアップを推し進め、質の高い発展をけん引する。これが中国の発展の大切な原動力です」と述べた。また今年の両会について、科学技術イノベーションと質の高い発展に基づく多くの政策措置が世界に新たな考え方を提供すると考える。
企業は科学技術イノベーションの主体であり、民営企業はイノベーションとクリエーションを推し進める重要な力だ。昨年、中国の「四新」(新技術、新産業、新業態、新モデル)分野で創設された企業は239万社を超えた。これらハイテク企業は中国の新旧原動力の転換を支える力であり、中国の新たな質の生産力を発展させる基本的な力でもある。
「今年の報告にあった『科学者精神を発揚し、模索を奨励して失敗に寛容なイノベーション風土の醸成を促進する』という一文にひときわ感動しました。これは科学研究の模索と創業イノベーションへの最高のエールです」。全人代代表でシャオミ創業者、董事長兼CEO(最高経営責任者)の雷軍氏は感慨深く述べ、「過当競争の総合対策を行う」という一文にも賛同を示した。「『反過当競争』の本質は、低レベルな同質的競争を絶対に回避するということです。イノベーションは質の高い発展の原動力であり、ハイエンド化と差別化を確固として推し進めれば、企業は質の高い発展の道を進み続けられます」
中国共産党中央政治局委員・外交部長の王毅氏が両会記者会見で述べたように、中国の奇跡の前半は史上例のない高速成長であり、後半はより素晴らしい質の高い発展になる。科学技術は共有されるべき財産であり、中国はより多くの国とイノベーションの成果を分かち合い、共に科学技術の夢を追い掛けることを望んでいる。
投資は減速せず
西側の一部が定期的に「外資撤退論」で耳目を引こうとしているが、そのような論調とは全く異なり、中国に投資する外国企業は日に日に増えており、その投資の範囲と深度も大きくなっている。
昨年に中国で新たに設立された外資系企業は前年同期比9・9%増の約5万9000社だった。この5年の外資系企業の対中直接投資収益率は約9%で、世界上位に位置する。これらのデータから、中国はまだ国際投資に魅力的な土地であり、多くの外国企業にとって「中国へ」が共通認識になっていることがうかがえる。
今年の報告は、外商投資を大いに奨励し、要素獲得、資格許可、規格制定、政府調達などにおける外資系企業の内国民待遇をしっかりと確保し、市場化・法治化・国際化した世界一流のビジネス環境を整備し続け、外資系企業のよりよい発展を後押ししなければならないと明確に打ち出している。これに対し、政府活動報告起草グループ責任者で国務院研究室主任の沈丹陽氏は、「海外の投資家が有利な時機を捉え、中国で長期的な事業計画を立て、積極的に投資や協力を行えば、中国というますます拡大する市場で新たな商機をさらに分かち合えるでしょう」と説明する。
「中国がイノベーションを奨励し、審査や認可の最適化などの力強い措置を取ってくれたおかげで、2020年に定めた5年の発展戦略目標を前倒しで実現できました」。武田薬品のシニアバイスプレジデントで武田(中国)総裁の単国洪氏は、中国が近年打ち出した一連の措置が対中投資事業をするグローバル企業にとって制度的保障となったと述べる。先ごろ公表された「2025年外資安定化行動方案」は中国で生産・経営する外資系企業の実際のニーズに応えているばかりか、開放拡大と外資誘致の誠意を示している。
外資系企業と中国市場は深く融合し、グローバル経済の持続可能な成長のために新たな原動力を注いでいる。特色ある発展をしている中国の十数の都市を最近訪れたマレーシア新アジア戦略研究センター理事長の許慶琦氏は、中国の質の高い発展が深く印象に残っている。世界の中でも特にアジア太平洋地域は中国の発展から利益を受け続けており、中国式現代化は周辺地域にさらなる恩恵をもたらし、アジア各国が共に現代化へ進むのを後押しすると許氏は考える。
「開放」の旗印
開放は全国両会の長年にわたるキーワードだ。先ごろの春節(旧正月)、贈答品として有名だったアメリカンチェリーが手頃な価格で市場に出回った。「今年は値下がりしたので、春節で一番売れました」と北京市朝陽区の果物卸売市場で十数年商売する張志広氏はアメリカンチェリーの「甘み」について語った。
張氏の店で売れているアメリカンチェリーの大半は南米チリ産だ。中国と直線距離で2万㌔以上離れた国から、生産量の9割以上が中国に出荷され、中国は7年連続でチリ産チェリーの最大の輸出先となっている。近年、中国が輸入政策を最適化し続け、税関の利便性が向上し、輸送コストが低下したことで、より多くの世界中の良質な商品が海や山を越えて中国の一般庶民のもとに届けられている。
「開放中国」の絵図の中、世界の良質な品々が中国という大市場で競い合う貿易ブームが巻き起こっている一方、「金曜日退勤後は中国へ」という人的往来の活発化も起きている。
中国は現在、54カ国にトランジットビザ免除政策を実施し、38カ国に見返りを求めないビザ免除政策を実施、トランジットビザなしでの滞在時間を240時間に延長した。昨年、中国の各出入国(出入境)検査所でビザなし入国した外国人は前年同期比112・3%増の延べ2011万5000人に上った。そして今年の春節を中国で過ごした外国人観光客は前年同期比150%増加し、新記録をつくった。「チャイナトラベル」ブームで、国内外のヒト、モノ、カネ、情報が流動し、「中国を見る」から「中国を好きになる」という外国人の認識の変化をもたらしている。
「開放中国」の絵図には、「引き込む」だけではなく「進出」も描かれている。
映画史の記録を塗り替えた中国アニメ映画『哪吒之魔童閙海』(ナタ2)は最近、海外でも上映されている。この作品は海外進出したばかりか海外を揺るがし、話題性という点では昨年のゲーム『黒神話:悟空』にも劣っていない。中国の映画やドラマ、オンラインゲームが海外でファンを獲得し(5月号の特集で詳細を紹介)、中国の家電、スマホ、新エネルギー車、はてはロボットまで海外市場で飛ぶように売れている。それらは世界が中国を知るための新しい窓口だ。
開放とは中国式現代化の鮮明な特徴だ。「一帯一路」共同建設イニシアチブなどの国際公共財や国際協力プラットフォームから、高パフォーマンスで無料商用利用可能なオープンソースのAI大規模言語モデルに至るまで、開放する中国は「世界が良くなれば中国も良くなる、中国が良くなれば世界はもっと良くなる」という互恵・ウインウインの道理を説明し続けている。