省区市の文化が世界を魅了
王朝陽 李家祺=文
大阪・関西万博では、世界各国の来場者に多面的で躍動感のある中国を示すために、中国の各省・自治区・直轄市、企業が数々の魅力的な展示やパフォーマンスを予定している。
禅の交流
古い絵が描かれた屏風、鮮やかに咲き誇る花々、骨董品を模した家具や食器が並ぶフェスティバルステーションには、古風で優雅な中国の息吹が広がり、にぎやかな館外とは別世界の雰囲気をつくり出している。ここでは「茶・禅・詩・文化芸術展」(以下、芸術展)が行われていた。
芸術展は中国国際貿易促進委員会江西省委員会、江西省人民政府新聞弁公室、中国外文局当代中国・世界研究院、撫州市人民政府が主催した。期間中は陶磁器、木刻、竹細工などの民間工芸品と現代中国の農村の生活を描いた農民画などを展示したほか、古琴の演奏や香道、茶道の実演、生け花や拓本の体験などを実施し、「見て、触れて、学べる」没入型体験空間をつくり出した。
優雅な古琴の調べの中、来場者たちは四方に設置された精巧な手工芸品に足を止め、スマートフォンを取り出して写真を撮っていた。また、生け花や書道などの体験活動に参加し、コツをつかむために真剣に学び、自分の作品を持ち帰り大切にすると語った。初めて生け花を体験した細川千恵子さんは完成した作品に喜んだ。「プロからこんな間近で中国の生け花を学べて、とても有意義な体験ができました」
芸術展で茶道、華道、香道の三道体験イベントを企画した撫州にある曹山宝積寺の聖空禅師はこう述べた。「13世紀に日本僧が入宋し仏法を学び、曹洞宗の禅法と禅の思想が溶け込んだ三道を日本に持ち帰った。今回のイベントは、三道が同じように盛んな日本で中日の文化交流と相互理解を深めたいという思いで計画した」
聖空禅師のもう一つの狙いは、禅文化を体現した生活美学を紹介し広めることだ。「会場には文化が近しい日本の来場者だけではなく、さまざまな国の人々が体験しに訪れた。国は違えど、文化には国境がない。禅に身を委ねているとき、あらゆる人々は美しい調和の魂を抱いている。これをきっかけに、曹洞宗発祥の曹山宝積寺を訪れて、禅文化に触れてほしい」
日本観光中に大阪・関西万博を訪れたドイツ人のベアーテさんとその夫は、この芸術展を見て中国文化に興味を抱いたという。二人は古琴の演奏に興味深く耳を傾け、古琴の仕組みを細かく見て把握し、講師に教わって実際に弾いてみた。「中国料理も好きですが、中国の伝統文化にはあまり詳しくなかったです。でも茶道などの日本文化の多くが中国から来ていたと知りました。今日の展示を見て、中国に行きたくなりました」とベアーテさんは述べた。
四川文化めじろ押し
省区市テーマイベントは中国パビリオンの特色であり見どころでもある。期間中、30の省、自治区、直轄市および深圳市がテーマイベントウイーク(デー)を開催予定。この万博は中国が省区市テーマイベントを最も多く行う海外の万博となる。四川はその先陣を切った省であり、四川ウイーク(4月28~30日)中は、武術、徳陽雑技、長嘴壺茶芸(注ぎ口が長い急須を使った芸)、変面など四川の特色あふれるパフォーマンスが次々に披露され、パビリオンの入館行列からも喝采が起こった。「変面が面白かった。さっき役者とハイタッチできました」と日本人来場者は四川について知っていることを語る。「劉備、あと『三国志』には四川に関係がある人物がたくさんいますね」
中国パビリオンには四川関連の常設展示品も多い。三星堆遺跡から出土した青銅神樹、青銅仮面、青銅獣首冠人像という国宝級文化財の複製品、さらに中国の古来のエコの知恵を示す都江堰水利施設の映像などがある。四川ウイークでは、蜀繍、漆器、竹細工、油紙傘など無形文化遺産や、同省に生息する希少動物であるジャイアントパンダとキンシコウをテーマにしたクリエーティブグッズも展示された。
常設展示品に引き寄せられた各国の来場者は、展示品の前で立ち止まり、スマホで撮影したり、もっとはっきり見ようと顔を近づけたりした。輝かしい古蜀文明や優れた構造の水利施設は、時空を超えて世界の来場者に四川の歴史の厚みを説明した。
増設された無形文化遺産コーナーでは、現代に受け継がれる四川文化を肌身に感じ取った。綿竹年画ブースでは、植物染料製の環境に優しい絵の具で木版年画をつくれる。徳陽潮扇ブースでは、竹製のうちわが若者に写真用小道具として人気が出てすぐに売り切れた。スタッフが機転を利かせて現場で「執扇礼儀十二式」を教えることで、来場者は「中国風」記念写真を撮影することができた。
四川ウイーク中の来場者の熱意と四川の歴史や文化を示す展示品が、日本国際博覧会協会事務局国際局審議役の永野ひかる氏の記憶を呼び覚ました。「1990年代に中国を留学中、成都や九寨溝、都江堰などに行きました。それまでは四川について学校で習った程度の知識しかありませんでしたが、実際にその地を訪れて、壮麗な歴史と美しい景色、そして中国のエネルギーを肌で感じました」。約30年の時を経て、大阪・関西万博で四川と再会できたことを永野氏は感慨深く語る。「成都の発展スピードは驚くべきもので、当時の私では想像し得ない大都市となっています。今回の四川ウイークで四川の今の姿が理解されてほしいです」
現代の二十四節気
大阪・関西万博では省区市テーマイベントで中国を多角的に紹介しているだけでなく、中日文化の比較研究的意義が大きなイベントも行われ、来場者は見学のかたわら、文明交流の美を味わえる。
中国パビリオンの入り口にある大型スクリーンには、「緑萌え立つ春の山、カモが遊ぶ川、悠然と飛ぶツバメ」「青々とした竹を背に段々畑で耕作をする人々」などの四季折々の風景と暮らしの息吹に富む水墨画が繰り返し上映され、入場したばかりの来場者が足を止める。
二十四節気は中国パビリオン「天人合一」ゾーンの重要な展示内容で、来場者の注目の的だ。グッズショップで売っていた二十四節気ポストカードは開館10日も待たずに完売した。二十四節気が表す四季の流転と景色の変化には、東アジア共通の農耕文明の知恵が込められており、日本人来場者の共感を呼び起こす。
上海に留学していた上ノ堀皓人さんは、大型スクリーンに表示された冬至の画面を見て思い出を語った。「子どもの頃は冬至が来ると祖母がゆず湯に入れてくれましたが、冬至が二十四節気の一つとは知りませんでした。留学時代の冬至に友人の家でワンタンをごちそうになり、中国にも冬至があるのだと知りました。日中は漢字を使っていますが、同じ漢字でも意味が違うことがほとんどです。節気も同様で、同じ節気でも文化や気候が異なる両国では違う風習ができます」
4月25日には中国外文局傘下の海豚出版社が主催した中日の節気文化を比較する交流イベントが京胡(京劇で使われる胡琴)の調べと共に中国パビリオンで開かれ、中日のゲストが節気文化の現代的意味を多次元的視点で分析した。中央大学の町田花里奈教授は両国の節気の変化、文化や生活に与えた影響を比較し、俳人協会終身会員で南山大学講師の王岩氏は文学的立場から俳句における節気の重要性を語った。
イベント後、上ノ堀さんは感想を語った。「日常生活には自然界の季節の移り変わりと密接に関係している風習がこんなにあったのだと気付きました。残念ながら私たちのような若者は二十四節気のことをほとんど知らず、二十四節気が起源の伝統的な生活習慣の一部は続けられないかもしれません」
都市に生きる現代人が二十四節気を軽んじることは、自然から離れてしまって「人は自然に属する」という哲理を忘れつつあるということだ。4000年以上前、黄河流域の先人は自然現象や変化の規則を観察し、四季の移り変わりを二十四節気に昇華した。気候変動や環境問題が人類の発展をおびやかしているいま、二十四節気に込められた意味を探求することが、自然に対する畏敬の念(10)を呼び覚ますことにもなる。
今回の万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」だ。中国パビリオンを見学した来場者は、人と自然が共生するグリーン発展の角度からそれについてより多くの知見を得ただろう。