便利と安全保証する観光業
李家祺=文
有り余る時間と日々改善される生活環境により、「ちょっとしたお出掛け」が中国の高齢者の老後における選択となりつつある。この遠くへのあこがれが中国のシルバー観光市場を全体的に「リニューアル」させている。
余裕ある観光プラン
パミール高原に夕日が完全に沈むと、カシュガル古城の夜がランプの光と共に目を覚ます。奥まった場所にあるマイマイティ大邸宅の前では、赤い旅行帽子をかぶった女性が焼き立ての羊肉の串焼きにかぶりつくポーズを取り、そばにいた同行者がとっさにスマホを構え、生命力あふれる瞬間を収めている。
写真を撮影しているのは、深圳から「シルバー観光専用列車」に乗って新疆ウイグル自治区を訪れた史さん(68)だ。彼女が同列車を利用するのはこれで5度目だ。「スケジュールも余裕があってゆっくり楽しめるし、車窓の風景も味わえるから、われわれのような年寄りにピッタリです」。この数日で彼女は列車で天山天池、サイリム湖、火焔山などの観光地を訪れた。カシュガルでの日程が終われば、一行はハミの「魔鬼城」(風食地形の奇観)へ向かう予定だ。

これまで高齢者向けツアーといえば「詰め込み式」「買い物の押し付け」などのレッテルが貼られていた。しかしいま、高齢者の旅行の需要がますます多元化する中で、シルバー観光市場は成長を続け、細分化と高度化の方向へ急速に発展を遂げている。特に近年、中国の発達した鉄道網を使ったシルバー観光列車が人気商品となっている。
「従来の観光ツアーは日程が埋め尽くされ、毎日へとへとでした。この鉄道専用列車ツアーはスケジュールに余裕があり、観光地での滞在時間もゆったりしているので、楽しく遊べて体を十分に休めることもできます」と史さん。価格面では、シルバー観光列車は交通・宿泊・食費および大半の観光地入場料などの費用を含めたオールインクルーシブ型を主に採用しているため、高齢者がルートを調べたり計画を立てる手間も省ける。
「生きている限り学び続ける」という言葉通り、最近は体験型学習旅行がシルバー世代の間で人気だ。
北京に住む王小英さんは今年5月に退職してすぐに「景徳鎮4泊5日高齢者向け体験型学習ツアー」に申し込んだ。「最も印象に残っているのは古窯民俗博覧区です。陶磁器作りの全工程を体験しました。泥の塊が自分の手の中で徐々に形となっていくのを見ながら、自らが創り上げる喜びを感じ、陶磁器文化をより深く理解できました」と王さんは振り返る。
高齢者向け体験型学習ツアーには無形文化遺産の技術体験、動画撮影・編集コーナーなどが設けられたり、地理や歴史などの授業なども行われ、観光客たちは楽しみながら学び、さらには技術まで獲得することができる。
王さんから見て、体験感と達成感を味わえるほか、強い「社交性」も同ツアーの魅力の一つだ。「他のツアーメンバーも基本的に趣味が近い退職者なので、道中、学んだ成果や旅行の感想を話し合って、何人もの友人ができました」
団体ツアーのほか、高齢者の個人旅行も多元化と個性化の傾向が現れている。中でもキャンピングカーでの旅がシルバー世代で人気の選択肢の一つだ。
ほかの旅行スタイルと比べて、キャンピングカーは移動手段であるとともに休憩や日常の場所でもある。飛行機やホテルを事前予約する手間も省け、比較的快適な環境で休憩や睡眠が取れる。
関連データによると、中高年は中国製自走式キャンピングカーの主要購買層だ。キャンピングカーブランドで売上トップ3に入る上汽大通(SAIC MAXUS)のデータによれば、購入者のうち中高年が7割近くを占め、最高齢のユーザーは80歳近い。
バリアフリー環境を整備
シルバー観光市場台頭の裏には、中国の人口高齢化という社会的な現実がある。
民政部のデータによれば、昨年末まで中国の60歳以上の高齢者はすでに3億2000万人を超え、総人口の23%を占めている。特に60~69歳の前期高齢者がその半数以上を占め、彼らは健康状態が比較的良く、お金と時間に恵まれ、また消費意欲も強い。
この背景の下、シルバー観光は徐々に中国の観光業の重要な成長エンジンとなっていった。全国高齢者事業委員会の統計によると、シルバー観光客数は全国の観光客総数の20%以上となっている。2040年までにこの規模は中国国内観光の半分に達する見込みだ。
拡大を続ける市場と高まり続ける高齢観光客のニーズは、文化・観光施設の公共サービスの高齢者対応の向上を加速させている。
遼寧省瀋陽市から内蒙古自治区アルシャン(阿爾山)市へ向かうシルバー観光専用列車「瀋水之陽号」内には、高齢者のための細やかな設計の数々が随所にあふれている。寝台は幅広で分厚く作られ、浴室の敷居は緩やかなスロープになり、つるつるしたタイルは滑り止め加工素材に代わり、さらに人感センサー付き照明、転倒防止アラームなども設置され、洗面台のそばには手すりも設けられている。さらに専用の医務室も置かれ、高齢者に必要な医療サービスを提供、食堂車チームは塩と油と糖分を控えた健康メニューを特別に考案し、高齢者の食生活のニーズに合わせている。

シルバー観光専用列車以外にも中国の多くの観光地では高齢者対応やバリアフリーを進め、シルバー層の旅行体験を着実に向上させている。中国初のバリアフリー山岳観光地である湖南省の莽山五指峰には8㌔に及ぶバリアフリー断崖遊歩道が設置されているほか、垂直エレベーター、車椅子用リフトなどによって、高い山と平坦な歩道をシームレスに結んでいる。これにより、歩行困難な高齢者も気軽に頂上まで登って景色を楽しむことができる。西安城壁では外骨格ロボットを導入し、常時貸出サービスを実施している。高齢者も歴史ある城壁の上で、体力を心配することなく悠々と散歩が可能だ。
「シルバー観光がもたらすのは、食事・宿泊・移動・観光・買い物・娯楽など多様なシーンを含んだ産業チェーン全体の高齢者向け改造です。このチェーンのあらゆる箇所は、高齢者がより安心かつ快適に楽しむためにはどうすべきか、という一つの問いに応えています」と北京第二外国語学院中国文化・観光産業研究院教授の呉麗雲氏は述べる。
デジタルで快適なサービス
目に見えるハード面の改善以外にデジタル技術も目に見えない場所で力を発揮している。最適化され続けるスマート観光サービスはシルバー世代により便利でぬくもりのある体験を届けている。
「息子が詳しい計画を立ててくれましたが、観光地の手前で混乱してしまいました」と山東省棗荘市台児荘古城東門で、南京から観光に訪れた趙鳳蘭さん(72)は戸惑っていた。
観光地のスタッフが駆け寄り、「60歳以上なら入場無料ですので、身分証をかざせば入場できます」と告げる。趙さんが身分証を出し、スマート改札機にかざすと、「ピッ」という音と共にゲートが開いた。
古城内には観光案内図や標識が分かりやすく設置され、観光スポットやトイレなどの場所が一目瞭然だ。またどの標識も大きな文字でコントラストの高いデザインが採用されている。
高齢の観光客が持つ「道に迷う不安」に対し、同古城は100カ所以上の案内図と標識を設置し、マルチメディア画面や音声放送を使ってリアルタイムで観光地情報を提供している。オンラインではリアルタイムマップを導入し、タップするだけで自分の現在位置と周辺施設を確認できる。台児荘古城観光集団総経理の呉斌氏は、「観光地の食事・宿泊・移動・買い物・娯楽の要素を『古城スマート観光プラットフォーム』に統合し、高齢の観光客がワンタッチで欲しい情報を得られるようにしています」と説明する。
昼になると、「古城スマート観光プラットフォーム」のナビに従って趙さんは麺屋に入った。食事を済ませると、持っていた旅行用バッグがないことに気付いた。
「どこかに置き忘れたんじゃないですか? あそこの柱の下にある赤いボタンを押してみてください」と麺屋の店長が近くの青い柱を指差す。
趙さんが「緊急通報」ボタンを押すと、管制センターから応答の声が聞こえた。10分ぐらいすると、スタッフが趙さんが落としたバッグを持ってやってきた。
「観光客が落とし物をすぐに見つけられるのは、観光地全体をカバーするスマートセキュリティーシステムのおかげです」と呉氏は語る。高齢者がはぐれた場合、システムが服装の特徴からすぐに特定する。落とし物をした場合、スマート認識機能や20日間の防犯カメラ映像を迅速にさかのぼることが可能だ。さらに緊急通報ボタンやAEDなどの設備を増やし、高齢者が安心して楽しく過ごせるようにしている。
質を向上し続けるシルバー観光は中国文化・観光産業にも新たな成長分野を生み出しているとともに、素晴らしい生活に憧れる数億人のシルバー世代の精神的需要をも満たしている。一人一人の高齢者が旅先の風景の中で「老いても楽しい」幸せな老後を手に入れられるようになった。
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