なぜ中国は高市発言に怒っているのか

2025-11-27 10:28:00

拓殖大学教授 富坂聰=文 

ついに、というか、やはりというべきか。高市早苗首相が台湾問題に絡み、日中間の地雷を踏んだ。 

11月7日の衆議院予算委員会における「戦艦を使って武力の行使伴うものであれば、『存立危機事態』になり得るケースだと考えます」という答弁(以下、高市発言)のことだ。 

高市発言に対し、中国は即座に強烈な反応を示したが、当然だろう。聞きようによっては、国家と民族の悲願達成を、日本が自衛隊を使って阻止すると宣言したにも等しい答弁だったからだ。 

防衛力増強の口実に 

日本が台湾問題に公然と介入することは、ある意味で米国が口を挟む以上に敏感な要素を{はら}孕んでいる。過去の侵略戦争が、台湾を入り口に始まったことを、中国人はよく知っているからだ。 

日本はここ数年、台湾・民進党との交流を深め、議員間の往来を質・量ともに拡大させてきた。その一方で、多くの自民党の政治家が「台湾有事は日本の有事」と繰り返し、台湾で独立を志向する集団を勢いづかせてきた。 

一連の流れは中国の目に、いわゆる欧米が対中批判で多用する「サラミ戦略」を使い、日本が台湾を中国から切り離す策動を試みていると映ったに違いない。中国としては、どこかの時点できちんと「釘を刺す」必要があったはずだ。 

日本国内の動きも気にしていた。「台湾有事」を防衛力増強の口実にし、平和憲法を軽視し、「専守防衛」の原則を骨抜きにし、「非核三原則」まで放り投げようとしている、と。 

そして今回、いよいよ国会で台湾海峡危機での自衛隊の役割について具体的に踏み込んだのだ。 

「台湾問題」は中国の内政 

そもそも台湾問題は扱いに慎重さを要する懸案で、だからこそ国交正常化の過程で日本と中国は日中共同声明を発し確認し合った。 

関連する部分を抜粋すれば、一つは、「日本国政府は、中華人民共和国政府が中国の唯一の合法政府であることを承認する」であり、もう一つが「(台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であるという中国の主張を)日本国政府は、この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」だ。 

後者に関して日本では、「理解し、尊重する」は「認めた」という意味ではないと、誤魔化すような解釈もあるが、現実はそうなってはいない。日本は台湾断交し、台湾は国際法人格を否定された。 

また日中共同声明には、「日本国政府及び中華人民共和国政府は、主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等及び互恵並びに平和共存の諸原則の基礎の上に両国間の恒久的な平和友好関係を確立することに合意する」とも記されている。なかでも中国が重視するのが「内政に対する相互不干渉」の一文だ。 

日中共同声明は後の日中平和友好条約にも反映されているため、台湾統一が中国の国内問題である以上、それに自衛隊を用いて介入する可能性に触れることは内政干渉であり、国際法違反を問われても不思議ではない。 

「無理解」と「確信犯」 

ただ気になるのは、今回の高市発言のような政治家の軽率な行いに対し、日本国内の反応がなぜか鈍いことだ。それ以前に、日中がどんな歴史をたどって、再び国交を正常化させたのか、多くの日本人は正しく理解していないのではないかと疑わせる反応も多々見られるのだ。 

身近な体験もある。私は昨年、某テレビ番組に出演して、言葉を失うほど驚いた。 

バラエティの討論番組で、テーマは「中国」だった。話題が台湾に及び、「この問題はそもそも中国の内戦ですから」と私が説明を始めたとき、突然スタジオがシンと静まり返ってしまったのだ。そして次の瞬間、女性の司会者がボソリと「内戦……、なんですか?」と訊ねてきたのだ。 

予想外だったのは、他の共演者も同じように黙り込んでしまったことだ。要するに、そんな初歩的な知識もないまま討論番組が進行していたのである。 

極端な例かもしれないが、今回の高市発言への日本社会の反応の鈍さの背景に、こうした「無知」と「無理解」があることを思い知ったエピソードだった。 

国会周辺でも、批判の声を上げているのは主に野党の政治家や一部の専門家だけで、首相に反省を促すほどの勢いはない。 

一部の専門家と書いたのは、専門家の中には、むしろ確信犯的に「一つの中国」政策に踏み込もうとする者もいるからだ。 

ほんの一例だが、あえて挙げれば「実業之日本フォーラム」に掲載された「米軍高官が示唆した『2027年に台湾有事』は起こらない」という記事だ。 

記事の中に登場する東京大学の教授は、中国の台湾統一について、こんな見解を披露している。 

私たちが中国を抑止し続ければ、中国側は今日はやめておこう、今年は無理だなと台湾侵攻を先送りしていくはずです。(中略)そのために、今私たちは防衛力を増強しなければならないと思います 

要するに日本は「台湾統一阻止」のために防衛力を増強すべきだ、と述べているのだ。 

繰り返しになるが台湾問題は中国の国内問題である。それに対し日本が在台邦人の安全確保の対策を講じること、場合によっては「平和的解決」に言及するのならまだしも、統一の阻止を目的に防衛力を増強するとなれば、中国との間で予測不能な緊張が高まっても不思議ではない。 

専門家が永田町でこのレベルのアドバイスを行えば、「一つの中国」政策を踏み越えようと虎視{たんたん}眈々と狙っている一部の政治家たちは背中を押されることだろう。 

こうしたプロフェッショナルとはいえない現実は別の意味での「平和ボケ」現象だが、高市発言後には中国国内でも日本社会のこうした{しゅく あ}宿痾に焦点を当てた批判記事が少なからず発せられた。 

例えば、11月14日の『人民日報』の国際論評「鐘声」だ。 

記事では、「台湾に関する高市首相の誤った主張は、決して単独の政治的妄言ではなく、その背景には、平和憲法の束縛を突破し、軍事大国の地位を追求しようとする日本の右翼勢力の偏執と傲慢さがある」と警戒心を露わにしている。 

いずれにせよ問題は根深いようだ。 

残念なことだが一度徹底的に日中関係を冷やし、その痛みを日本社会がきちんと認識しない限り、平和の配当は見えてこない。 

そして、その認識を起点として、中国との関係を日本が真剣に作り直すこと、それこそが真の友好関係への早道ではないだろうか。 

人民中国インターネット版

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