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日帰り講演会を決行~天津講演会

ジャスロン代表 笈川幸司

天津での講演は今回が二回目だ。

はじめて行った講演は、2009年3月。当時、天津外国語大学四年生だった朱奇瑩さんが、何度も大学側に申請して、ようやく実現したのが最初だ。

朱さんとの出会いは、その前の年の夏に、日経新聞社東京本社で開催された『中国人学生による日本語スピーチ大会』の会場だった。その後、ネットを通じて連絡を取り続け、「冬休みに、スピーチの訓練を受けたい」と言って、天津から清華大学まで足を運んでくれた。その行動力を見て、すぐに確信したわたしはこう言った。

「次の全国大会では、間違いなく朱さんが優勝するね」

その言葉を、朱さんはなかなか信じてくれなかった。

しかし、ひとつひとつの作業を丁寧に説明すると、彼女はそれをきっちりやっていった。その過程で、少しずつ感触をつかんでいく彼女の姿があった。

まず、作文を、わかりやすい言葉に改める。次に、発音・アクセントの問題をひとつずつつぶしていく。そして最後に、鏡を見ながら自然な表現を身につけていく。

それでも足りないところはビデオ撮影をして、おかしな動き、おかしな表情をチェックしていく。

朝8時から夜10時まで3日間、3分間のテーマスピーチを100回以上練習した。それでも完璧と言えるレベルに達することはないが、完璧でないとしても、人を感動させるようなすごいスピーチができるときもある。

テーマスピーチの練習を終えると、今度は即興スピーチの対策として、50ほど用意した予想問題をひとつずつ考え、発表していく。説得力のない内容ならやり直しだ。しかも、流暢に言えるまで何度でも繰り返さなければならないから本人はさぞ辛かったことだろう。

ここでやっていけないのは、問題数が多いからといって焦ってしまうこと。何事も、「ちりも積もれば山となる」を忘れちゃいけない。それが、いちばんの近道だ。

最初は、ゆっくりとしたペースで進んでいく。誰だってこれまでの人生、即興スピーチの練習などやったことがないのだから、すぐにできないのが当たり前。だから、焦ってはいけない。

しかし、問題も10を越えると、少しずつ答え方がわかってくるから面白い。それがわかってくると、ペースが一気にあがってくる。

最初はひとつの質問に答えられるようになるまで2時間かかっていたのに、3日も過ぎれば5分でできるようになる。たったの3日で特殊能力を身につけることができるのだから、こういう訓練はしないよりもしたほうが良いと思う。

さて、朱さんの結果がどうだったかはもう述べる必要はないだろう。

彼女は、後輩たちにも日本語の学習方法を知ってもらいたいと願い、その後、大学側に「天津外大・笈川講演会」を、何度も申請してくれたというわけだ。

あれから二年半。

今回は、一週間ぶっ続けで毎日1講演をこなした。

「え、何を言っているの?」

そう思った人がいるかもしれない。東北三省では一日3講演が当たり前で、ときには一日4講演したこともある。それに比べれば、一日たったの1講演は楽じゃないか、という意見があるかもしれない。

しかし、今回の天津講演会は、北京⇔天津を日帰りで実施した。日帰りより、宿泊したほうが安くつく。体力的にもそのほうが数倍楽だが、身重の妻を思って、気合いをこめて日帰りでの講演会を決行した。

今回、気づいたことがある。それは、一日1講演で行けば、いらいらすることが少なくなるということ。

たとえば、北京を出発し、天津科技大学に着くまでに片道4時間半もかかった。以前のわたしなら、「講演する前に疲れてしまうんじゃないか?」とネガティブ思考が働いてしまったかもしれない。それが今回は、4時間半、ずっとワクワクした気持ちでいられたのだ。

来年1月8日から、早稲大学北京事務所で鬼川特訓班がスタートする。

天津からも多くの学生が来てくれることになった。宿舎を自分で探してでも来たいと思う学生たちだ。きっと、わたしが思うよりずっと多くのものを学んでいくのだろう。

笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。

2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/

 

人民中国インターネット版 2011年12月17日

 

 

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