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すぐに発音がよくなる学生たち~廊坊講演

ジャスロン代表 笈川幸司

廊坊市は北京南駅から高速鉄道で20分のところにある、交通環境に恵まれた都市だ。天津へ行くにも20分というのだから、北京郊外に住むよりもずっと便利かもしれない。

前日の雪とはうって変わって、快晴だった。そして、駅には宮院長と藤玉英主任が出迎えてくださった。

廊坊師範学院へは、廊坊駅からタクシーに乗って10分で行ける。高速鉄道の料金を払うゆとりさえあれば、毎日でも通勤できる場所だ。

そこには、わたしと年が近い日本人の男性教師がひとりいるとのことだったが、残念ながらお会いできなかった。

実は十年前、中国で日本語を教える三十代の男性教師は非常に少なかったと記憶している。当時、一ヶ月の収入は2800元(約4万円)だった。年金を払うこともできないし、家族も養えない。だから、職業の選択肢に、「中国で日本語教師」はあり得なかった。

ところが時代は変わったようだ。ここ数年、日本国内では給料は増えないし、明るい未来も望めないからと、少ない収入で独身生活を満喫しようと中国に来る若い日本人男性が増えている。実際、全国を周遊しながら、何十人もの若い男性教師に会ってきた。全員、将来に対する不安を抱えながらも、その日一日を楽しんでいるように見えた。

さて、廊坊での一日に話を戻そう。

「うちの学生の日本語レベルは一流大学の学生ほど高くありませんが、教師も学生もみなまじめにやっているので、卒業後の進路は100%問題ありません」

先生方と一緒に昼食をとりながら、学校の状況を聞かせていただいた。卒業後の進路に不安を感じることなく勉強できるのだから、ここの学生たちはほんとうに幸せだと思った。

「今の学生は、何事もみな複雑に考えすぎてしまい、素直なところがほとんどない」

これは、講演マラソンの途中、多くの先生から聞いたセリフだ。

わたしはその考えを否定しないが、例外はあると断言できる。

少なくとも、吉林市、延辺市、四平市、遼陽市、鞍山市、保定市、そしてここ廊坊市に来てわかったことだが、省都でない都市で日本語を学ぶ学生、また教師はみな日本語学習を喜んでしてくれている。そして、みな、心から「日本語が好きです」と言ってくれる。これは、北京で過ごした十年間、ほとんど聞いたことのないセリフだ。

わたしの講演の中では、学生たちと一緒に日本語の発音を練習する場面がある。そのとき感じるのだが、同じセンテンスを発音するとき、大都市の学生たちは無表情で音読しているが、地方の小さな都市の学生たちはいつも笑顔で発音している。

わたしは常々、学生たちに向かって「あいうえお」の「い」の口の形で日本語を話せば、きれいな発音で話せる!と言っている。

これまで教えてきたほとんどの中国人学生は「う」の口の形で日本語を話す。その結果、話すスピードが遅れ、おかしな発音になってしまう。

ところが、笑顔で話せば自然と「い」の口の形になる。したがって、笑顔で音読する地方の小都市の学生のほうが、大都市の学生より速く発音を矯正できることは、言うまでもないことだ。

最後に、藤玉英主任からは次のような提案を受けた。

「北京や上海のような大都市にある大学の先生方は優秀で、日本人との交流も盛んなのではないでしょうか。しかし、地方都市で日本語を教えている教師は、自分の日本語能力を高めたいと考えています。ぜひ、わたしたちに力をお貸しください」

考えもしなかった。盲点かもしれないが、教師が知りたいのは「教え方」のみだと勝手に思っていた。しかし、中国人の教師が自分の日本語力を高めたいという気持ちを持つのはもっともなことだと思う。

これからの課題が、少しずつ見えてきた。

笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。

2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/

 

人民中国インターネット版 2011年12月2日

 

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