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中国人の日本語作文コンクール

ジャスロン代表 笈川幸司

このコンテストは今年で7回目。応募作文数は3200本で過去最高だ。実は、ここでもご紹介したことのある大森和夫・弘子先生ご夫妻が二十数年前に始めた作文コンクールを、段躍中先生が受け継いだものだ。そういうわけで、わたしにとっては、実に縁深い大会と言える。

さて、4年前に教え子がたまたま賞をいただいたときに表彰式に参加するため、湖南省の湘譚大学へ行ったことがある。今回は、そのとき以来の参加だ。

日本大使館広報文化センターで、6名の学生がスピーチをした。

彼らがスピーチを終えるたびに、涙を流し、声を詰まらせながらコメントする段先生の情熱溢れるお姿に元気をいただいた。さすが、大森先生の後継者だ。

あっ、申し訳ない。このように書いてしまうと、段先生だけが情にもろい、或いは少し変わった人なのでは?などと誤解されかねないのでひとこと付け加えておくが、来賓の方々も、山田重夫公使の目にも涙が溢れていた。

さて、この大会で3200本の作品の中から頂点に輝き、日本大使賞に選ばれたのは、国際関係学院の胡万程さんだった。テーマは、『がんばれ、ニッポン』。

彼は、北京講演(一)で読者の皆さんにご紹介した駒澤千鶴先生の愛弟子だ。

駒澤先生の学生は、みな深みのある作文を書く。それはなぜかと聞いてみたところ、学生たちは口を揃えて言う。

「『やり直しよ!』と言って何度も作文を返され、納得するまで受け取ってもらえないから」と。

駒澤先生は学生が書くウソを許さない。キレイゴトも許さない。苦しみの中から生まれる本当の気持ちが滲み出るまでペンを入れない。そして、駒澤先生は学生が書いたひとつひとつの作品をこよなく愛する。

「胡君の作文はね、書き方がうまいわけじゃないの。テクニックは知らないし、表現力なら他のクラスメートのほうがずっと上。でもね、彼が書いたことは、全部彼がやったこと、真実なのよ。彼は優しい。優しさから生まれた考え方、そして、優しさから生まれた行動。きっと、彼の優しさにみんなが胸を打たれたのよ」

では、胡万程さんの優しさについて、わたしもここで触れておきたい。

「ただ優しい男なんて、つまらない」

そう思う人がいるかもしれないが、最後まで聞いて欲しい。優しい男がつまらない、なんていうのは、本当の優しさを知らないからではないだろうか。

彼にはライバルがいる。最近、全国スピーチ大会で二位になり、活躍が目立つクラスメートの張越さんだ。

男同士、ライバルとは言え、彼は張さんの実力を認めはしても、嫉妬などしない。後輩がスピーチコンテストに出ることになったら、張さんと二人で協力し、スピーチの指導をしている。もし信じられないのなら誰かに聞いてみてもらいたいが、先輩が率先して後輩のスピーチ指導をするというのは、ここ中国では珍しいことだ。

そして、恥をさらして個人的なことを話せば、わたしが日本語講演マラソンのため、北京以外の都市へ行くことが多いのだが、身重の妻のため、野菜や果物を買ってわざわざ届けてくれるのも彼だ。

今年九月、日本から出版社の方が雑誌の取材にいらっしゃった際、アテンドをつとめ、北京の名所を案内し、日本からの来客の中国人に対するイメージを変え、「また中国に来たいわ!」と言わしめたのも彼だ。

先日、早稲田大学北京事務所で北京市日本語朗読コンテストを開催した際、「先生は、コンテストのときぐらい休んでいてください」と、クラスメートに声をかけ、司会を代行してくれたのも彼だ。

わたしが何を言いたいのか、もうおわかりの方がいるかもしれない。

賞を取ったから彼は牛人(すごい人)なのではなく、彼はもともと牛人なのだ。そして、こんなに大きな賞を取っても、彼は変わらない。そこが、すごい。

笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。

2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/

 

人民中国インターネット版 2011年12月12日

 

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