People's China
現在位置: 連載笈川講演マラソン

停電!~南戴河講演会

ジャスロン代表 笈川幸司

この一週間、河北省にある四都市を周遊してきた。

これまで北京に十年暮らしてきて、この四都市のうち、どこへも行ったことがないというのは恥ずかしい。ついでにもうひとつ恥ずかしいことを言えば、経済的な貯金はない。が、日本語講演マラソンを実施することで、心の貯金を蓄えることができるのだから、理解を示してくれた家族、そして、支援してくださったスポンサーの方々、そして何より、会場で大声を出し、涙を流して笑ってくれる学生たちや先生方に、ただただ感謝の気持ちでいっぱいだ。

さて、今回はタイミングが悪く、唐山に行けなかったのが心残りではあるが、少なくとも以前の考えを切り替え、小都市への講演を大事にするというやり方は、何とも自分らしく思えるので、アドバイスをくださった雑誌『一番日本語』の劉宇光先生に、ひとこと感謝の言葉を申し上げたい。

「事前に質問を集め、『学生たちとの交流会』というスタイルを提案してくれたこと、そして、小都市への訪問を重視し、目標訪問都市数40を100へと変えてくれたことに、こころより感謝いたします」

では、ようやくではあるが、ここで本題に入る。

秦皇島南戴河にある河北外国語職業学院での講演会。

この講演会は一生忘れることができないだろう。なぜなら講演中にはじめて停電という惨事(冗談ではなく)に見舞われたからだ。

前回ご紹介した通り、石家庄ではホテルが見つからなかった。それでも、河北師範大学の先生方、学生たちの暖かい出迎えによって気持ちを仕切りなおすことができ、何とか石家庄講演を成功裏に終え、へとへとになりながらも秦皇島へ向かう列車に乗ることができた。

移動は、高速鉄道で五時間。ほんとうに便利になったものだ。

十五年前、北京に留学していたときに、友人が72時間立ったまま新疆から戻ってきたという話を思い出した。

「五時間座ったままは、さすがに、きつい…」

そんなことがふと脳裏を掠めた瞬間、留学時代の友人を思い出せばいい。

久々のホテルは少し寒かった。エアコンをつけたまま寝たのがいけなかった。朝起きると、喉が異常に腫れていた。すぐに薬局へ行って『甘草片』を購入した。この薬をわたしは特効薬だと言って愛用している。朝起きて、唾も飲み込めないほどの痛みを感じたら、この薬をすぐに口に放り込む。十分もたたないうちに痛みから解放される。

講演は午後四時からだった。

日本語講演マラソンを始めたばかりの頃、夜八時になっても外はまだ明るかった中国が、今では五時前には真っ暗闇だ。

会場には入ると、全学年全学生が勢揃いしていた。

梁麗華主任の心暖まるご挨拶と学生たちの暖かい拍手を受けて講演に入らせていただいた。

考えてみると、河北省四都市での講演は、全てこのようなVIP待遇だった。

さまざまなトラブルに見舞われたが、それは人情とはまったく関係のないところで起きたもの。そして、極めつけは停電だ。

さきほど触れた通り、全学年全学生が揃った大ホールで停電発生。

ここからが人情劇場の始まりだ。

電気が点くまで待機するのが普通だが、そんなことをしていたらここまで積み上げてきた努力が台無しになってしまう。わたしは、叫ぶようにして話を続けた。

約20分の停電時間。

クライマックスをここにおきたい。わたしの願いが学生たちの胸に届き、全員の心がひとつになった。

わたしは、一瞬一瞬、喜びをかみ締めていた。

停電も五分もすれば目も慣れてくる。そのうち、誰もが不便を忘れ、マイクなしで叫ぶわたしの声に、学生たちはみな、しっかりと応えてくれるようになった。真っ暗闇の中、何度も笑いが起き、何度も拍手が沸き起こった。

「この人生を、誰にも取られたくない!」

突然電気が点いた。

気がつけば、これまで百回ほど行ってきた講演の中で、最悪に近い体調、そして最悪の条件だったが、中国人学生との心の交わり、心の触れ合いという点においては、間違いなく、最高の一講演だった。

笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。

2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/

 

人民中国インターネット版 2011年12月8日

 

同コラムの最新記事
まったく期待をしていない~深圳講演会(二)
中山講演会
中国人の日本語作文コンクール
天皇誕生日を祝って
停電!~南戴河講演会