People's China
現在位置: 連載笈川講演マラソン

まったく期待をしていない~深圳講演会(二)

ジャスロン代表 笈川幸司

「学校の先生に『有名な先生が来るから、真面目に話を聞きなさい』と言われても、そんなことは信じられない」

彼らの言い分はこうだ。

「先生というのは、小学校、中学校、高校、大学、大学院、博士…、とずっとエリート街道を歩んできた。勉強ができない人の気持ち、成績が悪い人の気持ちなんてわかるはずがない。いつもわたしたちに、『どうしてこんなこともわからないの?』と言うし、たとえ口ではそうは言わなくても、その表情を見ればわたしたちだってわかる。わたしたちとは住む世界が違うから、先生の話を信じられるはずがない」

最近、世の中は便利になった。中国版ツイッター新浪微博【笈川幸司】で、わたしは中国全土で日本語を学ぶ学生たちと毎日やりとりをしている。その中で、中国全土で日本語を学ぶ学生たちの率直な悩みを聞くことが多い。

さて、激動の一日を終え、深圳大学のお隣、深圳職業技術大学へ行ってきた。ここの学生は、日本語を二年学び、その後一年間会社でインターンシップをしてから卒業する。いわゆる「大専」と呼ばれている学校だ。日本の「短大」と似ていると聞いたが、男子学生も少なくない。

たまにでくわすのが、広い会場に着くとほとんどの学生が後ろの方に座り、前の座席がガラーんとしている状況。「実際の距離は心の距離と比例する」から、講演会が始まる前に彼らに声をかけ、できるだけ前に座るようにお願いした。みな、とぼとぼと前のほうの席に移動する。その表情を見れば、納得していないことがわかる。誰一人として、わたしの講演に期待をしていた学生はいない。

今回のうれしい初体験は、もともと100人くらい集まった講演会場に、最終的には300人ほど来てくれたことだ。時間が経つにつれ、笑い声が大きくなり、最後は会場がゆれるほどだった。

「いやあ、うちの日本語学科が始まって以来、はじめてのことです。講演が始まってから観衆が増えるなんて…」(深圳職業技術学院・韓勇主任)

韓先生にとって初めてのことだったかもしれないが、私にとっても初めての体験だ。

自分では割と良い話をしているつもりでも、途中で席を立って帰る学生がいた講演会も少なくない。特に、最初の頃は何度も辛酸をなめた。大連、ハルピン。その後の長春講演からは随分減ってきたが、たった一度味わった嫌な経験が思い出すたびに胸を刺す。

講演を重ねていき、考え抜いて出した答えがある。それは、すべての話に笑いの味付けをすること。なぜなら、いまどきの大学生は、深くて良い話をしても、すぐに飽きてしまうと感じたからだ。

一週間、広東省で講演を行ってきたが、手ごたえは河北省講演以上だった。

それは、携帯を見ればわかる。毎日一、二講演。移動に倍の時間を使うため、疲れのもとは車中での移動だが、移動中はスマホを使って、冒頭で紹介した新浪微博【笈川幸司】に入り、学生たちとやりとりをする。講演を終えて間もなく、深圳職業技術学院で日本語を学ぶ150人の学生からメッセージが飛び込んできた。

「ひえー」

そう叫ぶと、韓先生が、「笈川先生、それは『嬉しい悲鳴』って言うんですよね」とおっしゃった。その通り、ベストの表現だった。

 

笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。

2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/

 

人民中国インターネット版 2011年12月18日

 

同コラムの最新記事
まったく期待をしていない~深圳講演会(二)
中山講演会
中国人の日本語作文コンクール
天皇誕生日を祝って
停電!~南戴河講演会