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墓参り~福島県の被災地より

ジャスロン代表 笈川幸司

福島県双葉郡広野町に9年前に他界した父の墓がある。

今回、一時帰国の際に墓参りに行って来た。帰国するたびにそうしているが、今回は特別だった。というのも、昨年3月に未曾有の大震災が起きてからはしばらくこの地域に入ることができなかったからだ。それが昨秋には解除となり、いまは以前のようにそこで暮らす人々がいる。

母はいわき市湯本にある仮設住宅で暮らしている。今年71歳になる母は、籤で何度か落選し、気落ちすることもあったが、昨年入籍した妻のお腹に新しい命が宿ったことで、妊婦を優先する制度によって母も仮設住宅に住むことができた。

私は震災後、はじめてこの地に降り立った。生後3ヶ月の息子を連れて…。

日本政府が安全と証明した地域が、実際どのような様子になっているのか見てみたかった。この回では、私が見た被災地について書きつづっていこうと思う。

現在、福島県双葉郡広野町へは電車で行くことができる。以前は「いわき駅」から北上し、仙台まで行くことができたが、現在は「ひろの駅」が終点。そこから北へはいけない。福島第一原発の事故によって完全に分断されてしまったためだ。国道6号線も高速道路も「広野」から北へ行くことができない。

母が暮らす木造の仮設住宅はヒノキの香りがした。そのほかにも、避難民のニーズに応えるためにいろいろ工夫しているそうだ。また、近くには集会所があって、幹部たちがしばしば集まって会議を行い、小さなイベントを実施している。それはどんなイベントかといえば、仮設住宅に住む避難民を集会所に招いてヨガの講習を行ったり、散髪を施したりして、そこで暮らす広野町民の様子をフェイスブックで発信している。

住民の多くは放射能計量器を持っているらしく、私もいくつかホンモノを見た。南相馬市に住む叔父が持つ計量器はたいへん軽く、一見AIWAのプラスティックでできたウォークマンかと思った。(ウォークマンはソニー限定だっただろうか)

しかし、驚いたことに安そうに見えるその計量器は3万円で買ったばかりだと言う。その計量器によれば、いわき市湯本にある仮設住宅では0.08ミリシーベルト~0.14ミリシーベルトだった。それが広野町に行くと、だいたい0.23ミリシーベルトになるという。

父の墓参りに話を戻すが、津波の影響で周囲の建物はみな、跡形もなく消えていた。お寺の本堂も例外ではなく、最近寄付により建て直されていた。震災直後は、地獄絵図のようにほぼすべての墓石が倒れていたそうだが、私が見たときには半分程度元通りになっていた。あれから一年以上経つわけだが、相変わらず倒れたままの墓石を見ると、他人の墓ではあったが胸が痛んだ。幸い、父の墓石は倒れていなかった。

自分の息子が活躍するところを見ることもなく、孫の顔を見ることもないまま他界した父を思うと申し訳ない気持ちだけが残る。

昨年9月から約3ヶ月間、日本語講演マラソンを実施してみたところ、やる前に想像していたものとはだいぶ違っていた。具体的に書くと長くなるので簡単に説明するが、良いと思っていたこと、大丈夫だと思っていたことはほとんどうまくいかず、これは無理だろう、これはダメだろうと思っていたことが、見知らぬ誰かの助けによって救われた。

9月から再開される講演マラソンでは、前回の経験を踏まえ、慎重に、一歩一歩前に進めてゆきたい。それが、昔からずっと味方でいてくれた父へ誓ったことだ。

笈川幸司

1970年埼玉県所沢市生まれ。元衆議院議員公設秘書。元漫才師。

2001年に北京に来て、10年間清華大学、北京大学で教鞭を取る。10年間、中国人学生のため、朝6時に学生とのジョギングから始まり、夜中までスピーチ指導を無償で行い、自ら日本語コンテストを開催、中国全土の日本語学習者に学ぶ機会を提供している。また、社会貢献をすることで、日本大使館、日本国際交流基金、マスコミ各社、企業、日本語界から高い評価を得ている。2011年8月から2012年7月までの一年間、中国540大学で11万人の日本語学習者を相手に「日本語の発音、スピーチの秘訣」についての講演を実施する予定。「ジャスロン日语学习沙龙」のホームページ:http://neo-acg.org/supesite/

 

人民中国インターネット版 2012年5月

 

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