「中米対立」が長期化へ
トランプ政権時代に顕在化した「中米対立」は単にトランプ氏という個性によって起きたものではなく、深く、構造的なものである。経済のみならず国際的な影響力を含む、中国の国力の急速な崛起に対して米国が抱いた危機感、焦りがもたらしたものだ。
今年3月、米国の外交問題評議会の発行する「フォーリン・アフェアーズ」に寄稿した論稿では「地に落ちたアメリカの名声やリーダーシップへの信頼を再建し、新しい課題に迅速に対処していくためにアメリカと同盟諸国を動員しなければならない」と述べて「もう一度、アメリカが主導する世界を再現する必要がある」と強調している。
バイデン氏「フォーリン・アフェアーズ」に「アメリカのリーダーシップと同盟関係―トランプ後の米外交に向けて」を題する論稿を寄稿した
気候変動など人類の普遍的課題において中国と協力したりすることはあっても、政治・軍事的に中国をけん制、圧迫するために同盟国との連携を深める動きは強まると考えるべきだろう。加えて、5GやAI、量子コンピュータなど先端技術分野における、いわゆる「技術覇権」をめぐっては徹底して中国を排除する戦略を駆使することは想像に難くない。
バイデン政権が過去の「米国主導」に戻ろうという発想を捨てない限り「中米対立」は長期にわたって続くと考えなければならない。
「日米同盟」の更なる強化
バイデン政権においても日米同盟の一層の強化という基調は変わることはない。バイデン氏は「アメリカの未来を左右する地域で共有する価値を進化させるために、安保条約を締結しているオーストラリア、日本、韓国との関係に再投資し、インド、インドネシアなどのパートナーとの関係を深める」と述べるとともに「アメリカの安全保障コミットメントは取引ではなく、神聖なものだ」(「フォーリン・アフェアーズ」2020.3)と強調している。菅政権もこれに呼応、寄り添うように、日米同盟基軸の強化と「開かれたインド太平洋」構想(戦略)で米国との連携強化を目指す考えを示している。日米安保条約にもとづく同盟関係に加えインド・太平洋地域まで広げた安全保障観が目指すものは、中国へのけん制、中国包囲網に他ならない。日米関係に強く縛られた日本がその「くびき」の下で日中関係の発展をめざすという大きな矛盾をどう乗り越えるのか、日本は、バイデン政権の下で一層重い問題に直面することになるだろう。
未来の主流は多国間協力
しかし重要なことは、もはや世界は変わっているということである。米国が唯一の超大国として世界を主導する時代は終わりを告げている。ひかれた多国間協力によって平和で豊かな世界をめざすことこそがすべての国に求められる、すべての国がそこに参画することを迫られる時代に変わっていることを忘れてはならない。
それゆえに、これからの日米関係、日中関係を構想する「新しい発想」が必要になる。従来の安全保障観に縛られるのではなく、国の体制やイデオロギー、価値観をこえて多様な世界のあり方を認め合い、平和的に共存し協力と繁栄をめざす思想ということになる。その意味で、中国の習近平氏が提唱する「人類運命共同体」という理念がますます重要な意義を持つ時代になる。すなわち、理想を追求するわれわれの力が試される時代になるということである。(文=木村知義 元NHKアナウンサー)
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