南海介入を進む日本 その背後にある「新型軍国主義」
山口大学名誉教授、明治大学客員研究員 纐纈厚(談)
「南海仲裁判断」から見るダブルスタンダード
「南海仲裁判断」はフィリピンの一方的な申し立てで設置された裁判所で強行されたものであり、中国の領土主権と海洋権益を毀損する不当な判断です。
フィリピンは当初、中国への対抗と牽制を具体化するため、米国に押される形で申し立てを行いました。その後、ロドリゴ・ドゥテルテ氏が大統領に就任すると、中国との関係改善を志向し、この判断の不合理性を指摘して、判断を事実上反故にした経緯があります。
つまり、この判断は、米国のフィリピンに対する影響力の結果であり、フィリピンの自立性と自主性を無視したものです。フィリピンに再び親米政権が成立すると、同判断の結果が表に出され、中国を牽制する政治的な道具として持ち出されるようになりました。
国際海洋法から見ても、中国の領土主権と海洋権益は合法です。フィリピンは米国や日本などと組む形で、国際法秩序を貶めています。
一方、日本政府の姿勢は、いわゆるダブルスタンダードの典型事例です。日本は「南海仲裁判断」を支持しながら、他方では岩礁を埋め立て沖ノ鳥礁(日本名:沖ノ鳥島)を「島」とし、そこを基点に広大な排他的経済水域を主張しています。排他的経済水域を主張しながら、中国を批判する日本政府の姿勢には、大きな矛盾があります。
フィリピンを橋頭堡に進む南海介入
日本は現在、フィリピンを準軍事同盟国として位置づけています。米国、オーストラリア、フィリピンとともに「SQUAD」を形成し、フィリピンへのフリゲート艦や軍事用レーダーなどの武器輸出も活発化させています。
また、日本はフィリピンを橋頭堡として、中国との軍事的対峙を強行しようとしています。台湾からフィリピンに至るルートを確保し、「台湾有事」を口実として、フィリピンを自衛隊の活動拠点にしようとする意図も見え隠れします。
一方、現在のフィリピンは経済的に非常に厳しい状況にあり、米国や日本との関係を強化することで、軍事的支援だけでなく、経済的支援も受けようとしています。そのため、中国と張り合う姿勢を日本や米国に示し、米国の戦略的な枠組みに参入しようとしているのです。その意味で、フィリピンは「第二の日本」になろうとしているように思えます。
ただ、こうした動きを考える際には、日本の過去の歴史も忘れてはなりません。かつて日本は台湾を植民地化し、フィリピンやベトナムなどへの南洋侵攻を企てました。太平洋戦争開戦時には、タイや英領マラヤに強行上陸し、その後、英領シンガポールを陥落させ、「昭南島」と改称した歴史もあります。
今日、日本が再びフィリピンを軍事的な橋頭堡として利用しようとしていることには、極めて危険な思惑があります。「新型軍国主義」を具体的に示す動きが、南海においても表面化しつつあるのです。
軍拡の加速と揺らぐ文民統制
日本の軍拡、政治思潮の右傾化が急速に進んでいることは明らかです。長射程ミサイルの配備、武器輸出の解禁、さらには原子力潜水艦の保有や核兵器保有論まで飛び出しています。
その理由は、日本が米国の代替国家として、アジアでにらみを利かせる軍事国家となり、米国に貢献することにあります。戦後日本の保守政治は、米国の支援によって存続し、それは、いわば血となり肉となっています。皮肉を言えば、日本人の頭は「半アメリカ人化」していると言ってよいでしょう。
日本には多くの米軍人が駐留し、米軍基地で使用される水道代や電気代、基地労働者の給与なども日本政府が負担しています。日本の重要な海域、空域、土地も、米国に都合よく使用されています。アジアにおける米国の出撃拠点が日本なのです。その意味で、日本はとても「独立国」とは言えない状態にあります。
本来、日本はいつかこうした境遇から脱しなければなりません。しかし、その境遇を永続化させることも、「新型軍国主義」のもう一つの姿です。
また、自衛隊の中でも、文民統制の揺らぎが目立っています。本来自衛隊員は、文民統制の下で、政治家や国民の命令に従わなければなりません。しかし、特に安倍晋三内閣以降、高級自衛官が次々に政策に口を出すようになり、規律違反も目立っています。
この10年間、自衛隊の文民統制逸脱事件が次々に起こりました。そして3月には、現役自衛官が包丁を持って中国大使館に侵入するという衝撃的な事件が起きました。これに対して日本政府は、「遺憾なことだ」と言うにとどまりました。外務省なり、首相官邸なり、あるいは高市首相本人が、本来ならば中国大使館に出向いて謝罪をすべきなのです。しかしこれをしませんでした。いかに日中関係が冷え込んでいたとしても、外交上の大きな不始末を、ただ遺憾という言葉で終えてしまうのは、非常に大きな問題です。
そのほか、元海上自衛隊の海将が靖国神社の宮司に就任し、防衛大学校の学生たちによる靖国神社への集団参拝も定例化しています。かつてのように戦死した場合、靖国神社に合祀され、神として祀ることを想定しているのでしよう。いわゆる靖国思想が脈々と受け継がれているのです。さらにこうした思想が公然と語られ、自衛官だけでなく一般国民にも普及・教化されているのです。
「新型軍国主義」はそうした一連の思潮・思想動向を包括的に示した言葉で、戦前の「旧型軍国主義」とは確かに装いは異なります。自衛官が政権を形成しているわけでも、軍人が街中で軍刀を下げて歩いているわけでもありません。しかし、現在の政策選択や政治家、自衛隊関係者の言動には、現代風に形を変えながらも、「軍国主義」と指摘せざるを得ない内実があります。
こういう状況に対して、日本が平和国家としてせっかく勝ち得た信頼、尊敬を本当に維持するためには、憲法を守り、平和外交に徹しなければいけません。ですから、日中関係は日本にとって最大の安全保障政策だと私は思っています。日中関係回復への努力をしなければいけません。それが日本の主体的、自律的な外交であるべきだと思います。(李一凡=聞き手)
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