「キャンパス・アジア」、法的・政治的認識共同体の人材育成に向けて

2018-11-09 15:58:41

 「キャンパス・アジア」プロジェクト責任者
丁 相順 XIANG-SHUN DING 
(中国人民大学法学院教授)

 2018年4月19日午後、中国人民大学法学院会議室では、中国と日本、韓国からの留学生が一堂に会し「裁判に市民参加」というテーマで議論がなされた。このテーマを取り上げた理由は、最近、司法制度への国民参加が三か国の共通の動向になってきているからである。中国では司法の民主化を向上させるために、4月末に人民陪審員法を公布し、立法作業に着手しはじめた。日本では、2009年5月から裁判員制度が施行され、社会に定着しつつある。韓国も2008年から刑事裁判において陪審員制度的要素を導入してきた。

 もともと裁判員制度にしろ、人民陪審員制度にしろ、一国内で施行される国内法であるが、近年は交通手段の発達につれ、東アジア圏内同志の人的移動は容易になってきたので、隣国の人々を自国の制度によって裁かねばならない可能性が高まってきた。このような時代の流れの中で、今回北東アジア諸国の法学を学んでいる学生達が、お互いに特定の法的問題を取り上げ、カウンターパートの法律状況を勉強したことは、お互いに隣国の法律知識を身に付けることができ、この地域の人々のよりよく自由な移動と「ユス・コムーネ」(共通法)の形成に貢献することに寄与できたであろう。


「キャンパス・アジア」の日本人教員である松浦好治先生から特別講義後の記念撮影 

 このように中国、日本、韓国からの学生が一堂に会し、議論できるようになったのは、実は2011年に始まった「キャンパス・アジア」である。「キャンパス・アジア」とは、2009年10月第2回中日韓サミット(於北京)において、大学間交流の促進のために、中日韓三か国の大学間で単位互換や交流プログラムなどで、質の高い交流を行う共同事業であり、2010年4月に日中韓三か国の政府により立ち上げられたものである。

  
2018年の学生フォーラムに参加した中国の教員と学生たち

 法律の分野において、中国の中国人民大学、清華大学、上海交通大学と日本の名古屋大学、および韓国のソウル国立大学校、成均館大学校の6大学で、コンソーシアムを形成し、東アジア「ユス・コムーネ」(共通法)形成にむけた法的・政治的認識共同体の人材を育成するため、単位の相互認定や学位授与を行ってきた。このプロジェクトはグローバル化とローカル化のインタアクションを背景に始まったもので、グロカルライゼイションとはいえる。その主な目標は世界に目を向けて、ローカルに立脚できる法的な人材を養成する。換言すれば、東アジアに立脚して世界への「架け橋」の役割を発揮できる法律人材の育成を担おうというものである。

 東アジアは世界の一部であり、世界の舞台で重要な役割を演じている。「先進的・発展的、の両側面を持つ中国の実際はどうなのか、このような状態を内包している社会はどのような構造をしているのか、日本にいて謎は深まるばかりでした。これを、現地という、社会、文化、人に直接触れられる環境で、現地の授業を通じて理解を深め、さらにそれを肌で感じるために、中国への留学を決めました」と名古屋大学からの河本真緒さんがこのように留学のきっかけを述べた。

 キャンパスアジアプログラムは英語を共通言語とし、英語で東アジア比較法を教え、三か国にコミュニケーションツールを提供するだけではなく、全世界に東アジアを発信できるので、東アジアの法律事情について関心を持たせると同時に国際的視野とグローバルな意識も備え、国も東アジアも超え、世界に向けての知識と能力を培うことができるのである。


「キャンパス・アジア」の学生が欧米の学生同士と忘れられる権利について議論する

 一方、このプロジェクトを通して、中日韓三か国の六大学の優秀な法学学生たちはお互いにカウントパトナーのキャンパスで一学期或いは一学年を過ごし、一般人とも対面して交流することができ、法律が根づくその社会、文化及び伝統を深く理解することもできる。「自分自身でしっかり中国を見てみたいと思い、留学を決意した」と日本の名古屋大学二年生の南晴香がこう語った。

  
北京でサッカー試合を楽しんだ伊藤美月さんと河本真緒さん

 東アジア地域において様々な問題があっても、歴史、文化及び地理の繋がりとインタアクションだけあって、三国間がお互いに支援し合うことの重要性がもっと強く感じられる。「中国と日本には様々な問題がありますが、先生方はいつもまずは相互に理解することが必要だとおっしゃっています。たった1年で中国のことをすべて理解することは不可能です。まだどのような形になるかは分かりませんが、将来的にはより多くの人たちにその輪を広げていきたいと考えています」というのは伊藤美月さんの決意である。


中国人民大学にて秋の文化祭に参加した日本人留学生たち

 2011年から2015年の5年間で、キャパス・アジアの傘下で10件のパイロットプログラムが実施されたが、その高い功績がそれぞれの政府に認められ、2016年からは、本格実施プログラムとして17件のプログラムが開始している。 東アジア地域において最も規模の大きい大学交流プログラムで、アジア版のイラスムスとも言える。そのうち、法律分野のポロジェクトもすでに200名近くの三か国の学生がこのプログラムに参加したという実績ができた。


中国人民大学の研修団が日本の先生方との記念撮影

 「キャンパス・アジア」は中日韓サミット(於北京)において、当時の中国、日本及び韓国の指導者が提唱され、発足してからすでに7年間歩んできた。この間に、日中韓三か国の指導者がサミットを開催した。興味深いのは、今度中日韓三か国の指導者は、法政教育の背景を共有するリーダーたちである。弁護士としての文在寅大統領はもちろん、中国の李首相は北京大学の一期目の法学部卒業生で、安倍首相も成蹊大学法学部政治学科を卒業した。これによって、法学教育の重要性は中日韓三か国において、広く東アジア地域において、および世界において語ることだろう。ハーバート大学法学院院長ミノー教授はかつて、国際弁護士協会の年次大会で「未来を見通す最もいい方法は、未来を作ること」と発言された。「キャンパス・アジアプロジェクト」を通じて、法的・政治的共通認識共同体志向の法律人材を育成することは、将来のアジア共同体、あるいは人類運命共同体の形成に繋がると思う。責任者として、更なる発展、展開のために三か国の実情を踏まえつつ、精進をする覚悟である。

 中日ともには「郷に入れば郷に従え」という共通な諺があるが、キャパス・アジアは学生に「郷に入れる」機会を提供して、言語訓練や社会見学を通じて、その国の風俗を理解して、抽象的な法律条文を超えて、生きた法律生活と接触できるようになる。流暢な英語、上手な地元言語、法律形成・運用の背後にある社会、文化への理解、日常生活の中でできた友達、これらは全部キャンパスに参加した学生たちの計り知れない財宝になるだろう。

 

人民中国インターネット版

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