荒れ山からモデル樹林へ――内蒙古・旺業甸営林場の苦闘60年
周晨亮=文
北京の北東310㌔に位置する内蒙古自治区赤峰市カラチン旗(旗は行政単位)には、一面「緑の海」がある。これは、中国最大級の砂地の一つホルチン砂地が、南側の華北地域を侵食しないよう防いでいる重要な自然の壁だ。これが旺業甸実験営林場である。
(写真・徐訊/人民画報)
旺業甸実験営林場は1956年に設立された。延々と続く荒れ果てた山から広大な森林へと変わり、さらに広く知れ渡る多機能林業モデル林となった。旺業甸実験営林場は63年にわたり、歴代職員たちによる「緑のリレー」を実現してきた。
つるはし6本からスタート
新中国成立当初の50年代、カラチン旗の森林率はわずか3・3%。植生破壊と水土流失が深刻で、自然災害が頻発していた。植物の成長に適する日が年100日余りしかないという自然条件の下、小石だらけの荒れ山で樹木を育て、将来は一面の緑にしていこうという、その難しさは想像に余りある。
五つの部屋、6人のスタッフ、6本のつるはしで挑戦する10万ムー(1ムーは約667平方㍍)の荒れ果てた山肌……。今年90歳になる「林業第1世代」の邢玉林さんは、営林場の設立当初の状況を今でもはっきりと覚えている。「当時は何もそろってなく、とりあえず旺業甸生産隊から5部屋を借りて仕事をしていました。つるはしも現地の農民からの借り物でした」。貧しく遅れた現実に直面しても、「林業第1世代」たちは決して尻込みしなかった。
旺業甸実験営林場の前身の森林経営所は52年、初代所長の諶世祥を迎えた。極めて困難な条件の中、彼は森林区の作業員を率い、山あいに15カ所の育苗拠点を作った。翌年、1000万株以上の発芽に成功し、大衆動員で広範な造林活動を展開する道を切り開いた。
濃い緑の中に設けられた旺業甸多機能森林体験基地(写真・徐訊/人民画報)
旺業甸の山間部に寒さがぶり返していた64年の早春。当時、三十過ぎで営林場長を務めていた劉鳳翔さんは、林業隊の100人近い労働者を率い、柳条溝の山腹にアブラマツとカラマツを植えた。邢さんは、「当時はいったん山の上に行くと1カ月はいました。苦しかったですが、良い成果を勝ち取り、6000ムー以上あるアブラマツとカラマツの生育率は85%に達しました」と振り返る。
こうして57〜78年、営林場は年平均1万ムーの速さで計18万5000ムー余りの樹木を根付かせ、森林率は80%以上に達した。81年には、営林場全体のうち、植林に適した荒れ山と荒れ地を全て緑化した。
邢さんは今、見渡す限り緑の営林場を眺め、「水と土壌が守られ、村の皆さんが落ち着いた暮らしができ、言い表せないほどうれしいです」と感激している。
旺業甸実験営林場の美林苗畑で順調に成長する200万株のカラマツの稚苗。職員たちの丹精込めた作業が続く(写真・徐訊/人民画報)
技術者から巡視員まで奮闘
農林業における作業の重要性の比率は、俗に「作付け3割、育成7割」と言われる。旺業甸実験営林場の発展もまた、現代の科学知識を持つ若者と無関係ではない。彼らは広大な樹海に身を置き、厳しい自然条件の試錬に耐え、北部辺境の林業建設のために知識と知恵をささげてきた。
営林場の生産ニーズに基づき、技術者は、林木の優良品種の栽培や低生産・不経済な森林の改造など、多くの科学研究プロジェクトを相次いで展開した。このうち、チョウセンマツの移植技術などの研究成果は、国家林業部と内蒙古自治区政府の栄えある科学技術進歩賞にも輝いた。
優れた木材として知られるチョウセンマツは、非常に厳しい生育環境と気候条件で育つ樹木で、主に東北地方の小興安嶺や長白山の森林地帯に分布する。営林場の技術者は66年に移植テストを始めた。その後、十数年をかけ、土地選択や発芽促進、育苗、造林、育成という幾つもの難関を突破し、ついに旺業甸実験営林場にチョウセンマツを根付かせた。
このほか、標高1700㍍以上の山頂の火の見やぐらで十年一日のごとく警備を続けてきた監視員や、樹海を一年中巡視する森林保護員たちの、代を重ねた奮闘と貢献により、旺業甸実験営林場には旺盛な活力が注入されてきた。
間もなく引退する旺業甸実験営林場東局子営林区の易国新主任。その仕事に打ち込んだ42年は、大きく変化した営林場の歩みそのものだ(写真・陳建/人民画報)
持続可能な森林経営を求めて
旺業甸実験営林場でも農業式の人工林経営モデルを長期にわたって採用してきたため、森林機能のもろさなどの問題に直面したことがある。森林の持続可能な発展をどう実現するか――これが同営林場の新たな課題となった。
営林場の西北にある羊草溝樹林優良品種生産基地では、モンゴリマツやカラマツ、チョウセンマツが広範囲にすくすくと成長している。栽培区に入ると、1本1本の木々に番号が記され、接ぎ木の跡があるのに気がついた。営林場の多機能林業モデルプロジェクト管理室の馬成功主任は、「下の部分の台木は地元の普通のモンゴリマツで、上の部分の接ぎ穂はフルンボイル市から届いた優良種です。接ぎ木を通して私たちは元の母樹の優れた遺伝子を残し、採れた種子を育苗と造林に使います。森林全体の体積を示す蓄積量は、普通の種子で造林した場合よりも30%以上高くなります」と説明する。
旺業甸実験営林場は2011年、中国の提唱で設立された「持続可能な森林管理および回復のためのアジア太平洋ネットワーク(APFNet)」における、中国初の多機能林業モデル基地建設のパイロット事業となった。「私たちが一貫して守っている目標は、人工林を自然林のように育て、自然林の価値を高めることです。現在、営林場の森林率はすでに92・1%となり、植樹に適した土地がなくなるほどまで広がりました。数量の面ではもう飛躍が見込めないので、私たちは質の面でいっそう努力する必要があります。APFNetとの協力事業で導入した森林の自然林化経営は、一つの革新と模索です」と馬主任は語る。
どのようにして森林を持続可能な形で経営するか? 馬主任は樹木伐採を例に取り、次のように説明する。これまでの森林経営は木材利用を中心とし、木材が多ければ多いほど良いということを経営の評価基準にしていた。この基準の下、経営者は往々にして森林を全て伐採し、伐採されたエリアの生態環境は必然的に大きく破壊されていた。
一方、現代の「持続可能な森林経営」は、森林の多重的な機能を総合的に考える。持続可能な経営の選択的伐採モデルによって、目標となる樹木を選び育て、木材1本の価値をしっかり上げる。こうして森林の経済価値を生み出すと同時に、森林の生態的な価値を保証する。
森林の多機能経営は決してたやすく成し遂げられるものではない。8年近い努力を経て、旺業甸の数千ムーの人工林と天然二次林の多機能経営モデル林は一定の成果を上げた。また、事業で導入した先進的な理念により、営林場の作業者の視野は絶えず広がり、管理能力と技術水準は大いに向上した。
多機能林業モデル基地建設パイロット事業は、旺業甸実験営林場に全く新しい経営理念と技術、管理モデルをもたらし、営林場の管理レベルと持続可能な発展の能力は向上した。多機能林業は、すでに旺業甸の森林区で活発に行われており、中国北方地域、ひいてはアジア太平洋の同種の地域における多機能林業経営のため、参考にすべき模範となっている。
現地では旺業甸実験営林場の森林(35万ムー)と村民個人の森林(26万同)、農業用地(21万同)が複雑に入り組んでいる(写真・陳建/人民画報)
自然保護と貧困脱却を両立
旺業甸の森林区には計18の行政村がある。営林場の山地と村民の耕作地は複雑に入り組み、村民3万5000人は営林場の周囲で生活している。ここでは、どのようにして美しい自然を守るかだけでなく、どうやって貧困を脱却して豊かになるかが、営林場が多機能林業の経済効果を発揮する重要なポイントだ。地元村民の収入源を広げるため、営林場は木材以外の林業産品を村民に無償で提供している。例えば、さまざまなキノコや食用植物、薬用植物、木の実や種などの副産物を村民は採集してもよい。
美林鎮東局子村から来た張永華さんは、食用キノコ栽培協同組合を運営している。彼の栽培用ビニールハウスに入ると、ヤマブシタケやナメコが収穫を待っていた。今年のキノコ市況を尋ねると、張さんは「今年は500㌘当たりの出荷価格が去年より1元高く、とても満足しています。旺業甸の森林の気候環境が、特にキノコの成長に適しているためです。私たちの多くの農産品は日本や欧州に輸出しています」と満足げに答えた。
森林のさまざまな役割の重視や、経営の理念と手段の更新、地域社会と調和的に発展する好ましいあり方、豊かさをもたらし住民に還元する誠実さは、旺業甸の森林区にさらに多くのエコ面でのボーナスをもたらしている。林間ハイキングやキャンプなどの活動に、避暑やレジャーを目的とする観光客が毎年多く訪れている。
「森林資源の育成保護を重んじるという土台の上で、私たちはAPFNetの事業というチャンスをしっかり生かし、森林資源が豊かでサービス機能が整い、体験施設がそろった多機能な森林体験基地を建設すべきです。また、もっと多くのもっと優れたエコ製品を社会に提供し、人々により多くのエコの恩恵を受け取ってもらいたいのです」。こう語る旺業甸実験営林場の趙輝場長の顔は、自信に満ちあふれていた。
営林場では、キノコ栽培などさまざまな形でグリーン経済に取り組み、地元の農民の生活レベルは大きく向上した(写真・徐訊/人民画報)