高福氏に聞く ワクチン接種で疾病負荷を軽減
世界保健機関(WHO)は5月7日、中国医薬集団(シノファーム)製新型コロナウイルスワクチンを緊急使用リストに加え、コロナワクチンの公平な分配のための国際的な枠組み「COVAX(コバックス)」で当該ワクチンを購入できると示した。これは中国の新型コロナワクチンが世界に認められ、世界各国が共に新型コロナから抜け出すために前向きな役割を果たしていることを意味している。
中国外文局(中国国際出版集団)の調整の下で5月9日、中国科学院院士・中国疾病予防管理センター(CDC)長の高福氏は、リモートで日本の民間非営利団体「言論NPO」代表の工藤泰志氏のインタビューを受けた。高福氏は、中国の新型コロナワクチンの開発・接種状況を紹介し、中国製ワクチンに対する国際社会の関心事を巡って見解を述べた。
明確な目標 確実な方法
――中国は6月末までに国民の40%を占める約5億6000万人のワクチン接種を目指していますが、この目標は実現できるのでしょうか。もし実現できるなら、具体的にはどういう方法で実現するのでしょうか。
高福 ロックダウンによって武漢でのウイルス制圧を終えた後に、私たちは徹底した対策を実施してきました。一部の地域で、小規模な感染発生があったものの、大流行になったことは一度もありません。そして、実践で証明されているように、世界の一部の都市ではワクチンの接種率が高いことによって、非常によい効果を得られています。ワクチンは新型コロナを予防する上で非常に有効です。
従って、中国はこれまでの水際対策と国内の感染再発・拡大対策を引き続き徹底していき、ワクチンの接種を推し進めていきます。その結果、必ずこの目標を達成できると見込んでいます。
中国は国土が非常に広く、地域間の発展がアンバランスで不十分であるという実情があります。ワクチン接種が全面的に進められるよう、主に五つの措置を取っています。(下図表参照)
――日本のワクチン接種優先順位は、医療関係者の接種後、高齢者と基礎疾患のある人を優先しています。この優先順位について日中間で何か違いがあるのでしょうか。
高福 中国の接種優先順位は日本と違います。周知の通り、中国は新型コロナ対策を成功裏に進め、厳しい体制で新型コロナの制圧に努めたため、現在は地方レベルの大流行はありません。この状況を踏まえて、中国では、まず医療従事者、警備員、税関のスタッフ、CDCスタッフなどが最優先で接種を受けました。その後、外食産業の従事者、大学生、イベントのスタッフが接種を受け、その次に高齢者と基礎疾患のある方々が接種を受けました。
――現在、日本では自身がワクチンを接種し、ワクチン接種作業を行える医療従事者の不足が課題になっています。このような問題を解決するために、中国はどのような対策をとっているのでしょうか。
高福 中国で接種作業を行う医療従事者とCDCスタッフを確保できたのは、コミュニティー(社区)レベルの現場の方々の努力のおかげです。この1年間余り、大勢のCDCスタッフ、医療従事者、コミュニティーのスタッフ、ボランティアの方々が末端のコロナ対策の第一線で奮闘してきました。これは中国の新型コロナ対策の独特なところであり、現在の大規模なワクチン接種の実施に力強い保障を与えています。
ワクチンは最も有力な対策
――中国の新型コロナ対策計画の中で、ワクチン接種はどのように位置付けられていますか。
高福 感染症対策の中で、ワクチン接種は最も有力な措置です。現在、中国では、不活化ワクチン、アデノウイルスベクターワクチン、組み換えタンパク質ワクチンという3種類のワクチンの緊急使用か条件付き使用が承認されています。ワクチン接種は中国で集団免疫を実現するための唯一の選択肢です。
ワクチンの有効率に関するデータはさまざまありますが、ワクチンが人間に最も基礎的な防御力を持たせることができるということは否定できません。感染症ワクチン接種の歴史を振り返ってみれば分かると思います。例えば、インフルエンザワクチンの有効率は十分認められていますが、接種後100%インフルエンザウイルスを防御できるとは言えません。ただ、天然痘やポリオなど、物によってはワクチンが100%効きます。その一方、エイズなど一部の感染症についてはワクチンがまだ開発されていません。ワクチンが有望だという私たちの判断は、ワクチンに対するこれまでの認知に基づいています。
――国際社会では、感染症の最終的な収束を図るには、集団免疫を実現する必要があると認識されています。免疫力をつけるには自然な感染かワクチン接種かの二つのルートがあります。14億人の人口を持つ中国はどのようなワクチン接種方針を持っているのでしょうか。
高福 現在、中国をはじめとする数多くの国はワクチン接種によって、集団免疫を実現しようとしています。中国では、すでに3億回以上の新型コロナワクチン接種が完了しました。そして、来年までには、9億~10億人が接種を完了し、国際社会で認められている集団免疫実現の基準に達することができる見込みです。
WHOのテドロス事務局長は5月7日の記者会見で、WHOがシノファーム製新型コロナワクチンの緊急使用を承認したと述べた(新華社)
ワクチンで危機から抜け出す
――中国のワクチンは欧米のワクチンより、有効性が相対的に低いという声もありますが、それが事実であれば、この制約はどのように解消できるでしょうか。世界的な視野で考えれば、米国など一部の国が新型コロナワクチンの知的財産権を放棄すると表明しましたが、世界的な協力を通じて中国で欧米のワクチンを使用することはありえるでしょうか。
高福 人類がこのような大規模な感染症に遭遇したのは初めてのことです。これまで、重症急性呼吸器症候群(SARS)などの感染症のワクチンが研究・開発されましたが、コロナウイルスワクチンを人間に接種したことはありませんでした。目下、世界各国の新型コロナワクチンのテクノロジー・ロードマップは全部で七つあり、そのうち中国は五つのルートで精力的に開発を展開していて、この成果の重要性は言うまでもありません。新型コロナワクチンの開発がこのような成果を得られたのは容易ではなく、現在のところ、どのワクチンの効果がより高いか証明できるデータはまだありません。
メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの開発が現在世界で注目を浴びていますが、中国もいち早くその開発に着手しました。中国の不活化ワクチンがより注目されているのは、その開発が先に進展して、世界をリードし、効果を上げているからです。ちなみに、WHOが先日、シノファーム製新型コロナワクチンを緊急使用リストに加えました。WHOの判断によれば、当該ワクチンの有効性は約79%で、重症化や死亡を防ぐ効果に関しては100%に近いと言われています。
また、中国は世界各国と広範なワクチン開発協力を継続し、ワクチン開発の成果を共有しています。中国製薬大手の上海復星医薬(Fosun Pharma)とドイツのバイオ企業ビオンテック(BioNTech Ltd.)が昨年3月から、mRNAワクチンの共同開発を行っていることは、その有力な例証といえます。新型コロナワクチンは世界の公共財です。中国は、日本を含む世界の国々と技術面での協力を進め、より人間に適した質の高いワクチンを選び出し、団結して新型コロナに打ち勝とうとしています。
――中国のコロナ対策とワクチン接種はいずれも世界をリードしています。その一方、日本はまだ危機の真っただ中にあります。高先生には人類社会が新型コロナを封じ込めて、抜け出すという希望が見えているのでしょうか。人類はいつごろこのウイルスに勝てるでしょうか。
高福 インドにおける最近の新型コロナ大流行は、人類に警鐘を鳴らし、新型コロナウイルスに対する認識がまだ甘いことを知らしめています。その一方、これまでの1年間、新型コロナと闘ってきた経験を振り返ってみれば、希望の光は見えていると信じてもいいと思います。新型コロナを今すぐ地球から取り除くことはできないかもしれませんが、今後はワクチン接種で疾病負荷を減らしながら、ウイルスと共存していくことはできるでしょう。つまり、インフルエンザと同様に新型コロナと共存していく中で、ワクチン接種の最終的な目的も、医療の負担を軽減し、重症化や死亡を防ぐことになっていきます。ワクチンが世界中に行き渡った暁には、生産活動・社会活動・国際交流を再開できるようになると思います。
四川省眉山市では、体育館、コミュニティー(社区)サービスセンターなどに接種エリアを設置し、接種のニーズを最大限に満たしている(cnsphoto)
(徐崢榕 陳克=構成)