内蒙古自治区現地ルポ 美しい草原を守る人々の物語
高原=文・写真
7、8月は内蒙古草原の最も美しい季節だ。今回、記者は赤峰市カラチン(喀喇沁)旗やヘシグテン(克什克騰)旗、シリンゴル(錫林郭勒)盟の正藍旗、アバグ(阿巴嘎)旗を訪れ、美しい造林地(林場)や草原、湖沼、砂地を見て回った。そして、この土地を守り、その自然環境を回復するために、現地の人々が払った努力について知った。
✿風砂発生源から観光地に
内蒙古といえば、まずは果てしなく広がる草原を思い浮かべるだろう。だが実際には、内蒙古はとても広く、その地形はかなり複雑だ。赤峰地域は山々が連なり、起伏に富んでいて、いわゆる「七山一水二分田(山地が7割、川や湖が1割、平地が2割)」の地形で、山地と平地が入り組んでいる。ここで私たちは、1962年に創設された歴史ある馬鞍山造林地を訪れた。
樹木の種類が豊富で、景色が美しい馬鞍山造林地
カラチン旗に位置する馬鞍山造林地は、総面積が8300㌶近くある、管理・保護を主としたエコ経営型造林地で、アブラマツ、モンゴリマツ、シラカバなどが広範囲に植えられ、美しい山林の景観が広がっている。だが、新中国成立初期、赤峰の生態環境は非常に悪化しており、森林カバー率は5・2%しかなく、「風と砂によって畑と家屋がなくなった」というのが当時のリアルな状況だった。この状況を変えるため、馬鞍山造林地の人々は60年近くたゆまぬ努力を続けて、同地の森林面積を徐々に増やし、中国の北の辺境に防風・防砂の環境保護セキュリティーバリアを築き上げた。この5年間だけで、累計の人工造林面積は5000ムー(1ムーは約0・067㌶)余りとなり、森林カバー率は98・68%に達した。
造林地の柴樹嶺副場長は次のように語る。「今では樹木が増え、林産物も増えて、キノコや山菜などが人々に大きな利益をもたらしています。森林保護員が山を見回る際、ノロジカや野ウサギ、キツネなどの野生動物をよく見掛けます。野生のイノシシが出没することもあります。彼らはもう人を怖がっていません。周辺の優れた生態環境を利用して、付近の村民は農村ツアーを始めました。毎年6万人余りの観光客を迎え入れています」
✿目を守るように湖を守る
ダライ・ノール湖はダライ湖ともいい、モンゴル語で大海のような湖という意味だ。赤峰市のヘシグテン旗にあり、内蒙古第2の大きさを誇る内陸湖(低濃度の塩湖)である。湖の周囲は100㌔余り、タツノオトシゴのような形で、貢格爾川や沙里川など4本の川が流れ込んでいる。ダライ湖の北2㌔ほどの場所に山頂が平らな火山が見える。その山は以前、湖の中心にそびえていたと言われているが、現地の年配の人でもそのような光景を見たことはない。現在、湖水は南側に4㌔移動しており、広々としたアルカリ性の砂地を露出している。
同地は1987年、ダライ・ノール自然保護区を設立し、そこは10年後、国家レベルの自然保護区に昇格した。同地の人々は、川から水を引いたり、放牧を制限したり、アルカリ性の砂地の整備や植生回復を行ったりして、ダライ・ノールに再び「大海」の姿を取り戻した。
ヘシグテン旗の黄河常務副旗長は次のように述べる。「ダライ・ノールは草原の緑の肺です。現在、私たちは自分の目を守るように、それを守っています。これは政府のどの部門の仕事というのではなく、社会全体が共に努力すべきことです」
ダライ・ノール湖周辺の草原の生態系を守るため、同地はまず周辺牧畜民の家畜の飼育数を制限し、草と家畜のバランスをとった。比較的良い牧草地では、12ムーごとにヒツジ1頭、36ムーごとにウシ1頭を飼えることとし、各世帯が自分の牧草地の面積に基づいて、何頭の家畜を飼えるか計算した。砂漠化が進んでいる地域では、50ムーごとにヒツジ1頭というように厳格に規定された。このような規定は牧畜民の収入に影響するため、彼らを説得することは難しいはずだが、どのように実施したのだろうか?
ダライ・ノール保護区管理処の劉愛民主任は次のように説明する。「私たちは環境効率だけでなく、牧畜民の増収も求めています。そのため、私たちは彼らが良質な品種の家畜を飼うようにしました。例えば、ここの在来種のウシは、子ウシが3000元余りで売れますが、シンメンタール種のウシを売れば6000元余りになります。これまで10頭のウシを飼っていた家庭は、今では20頭のウシを飼っていることになります。牧畜民の収入は増え、環境への負荷は増えず、品質を高めて効率を上げることもできました」
このほか、アルカリ性土壌の整備もダライ・ノールの生態の回復にとって重要な効果がある。現地の人々は20~30年の模索を通して、マツナをうまく植え付ける方法を見つけた。劉主任は「これは実は昔ながらの方法です。以前、淡水を引き込んで木や草を植えてみましたが、あまり効果がありませんでした。結局、マツナを植えるのが一番良いと気付きました。マツナが枯れるとアレチタチドジョウツナギが生えてきて、それが枯れると今度はシバムギモドキが生えてきます。そうすると土地が生き返ります」と言って、目の前のアルカリ性の砂地を指し、また後ろの牧草地を指しながらこう言った。「10年後、この砂地はあのような草原になりますよ」
✿整備には持続的な投資が必須
シリンゴル盟に入ると、見渡す限りの草原が視界に現れる。これは人々が想像する草原のイメージにぴったりだ。車は真っすぐな道路を天に昇っていくかのように走る。緩やかな坂道を越えるとまた草原があり、さらにまた「天に続く道」があり、永遠に終わりがないようだ。「望山跑死馬(近そうに見えるが実際は非常に遠い)」という言葉があるが、ここではそれを十分に実感できる。
私たちがよく知る典型的な草原のほか、さまざまな種類がある。シリンゴル盟正藍旗はフンサンダク砂漠の奥地にあり、典型的な乾燥・半乾燥地域で、そこには草地と砂地が混ざった草原が多くあり、それらは北京・天津・河北地域の最も重要な自然のバリアになっている。
正藍旗林業・草原局の于桩局長によると、同地は2000年ごろから北京・天津の風砂発生源の整備を始め、高木や低木、草を組み合わせて植え、この20年間余りで、旗全体の植被率は13%から20%に引き上げられた。また、正藍旗の砂漠化した土地の封禁保護区では、植被率が10%未満から35%以上に引き上げられた。
于局長はさらに次のように説明した。「一般的に砂地の整備は植被率が45%に達したら成功と言えます。砂漠の場合は10%で十分です。私たちのこの封禁保護区の風砂発生源整備任務は、23年に順調に完了します。しかし、風砂発生源の整備は簡単に終わるものではなく、持続的な資金投入、不断の整備が必要です。これは人が肺結核にかかることと同じで、一回点滴をすれば、少しは効果があるでしょうが、完治させたければ、治療を続けなければなりません。正藍旗の一部地域の砂漠化整備はすでに20年以上続けられています。生態環境は依然として脆弱で、整備を続ける必要があります。そうしなければ、砂漠化が再び起こるでしょう」
目下、封禁保護区において禁牧を実施する政策の下、同地の牧畜民も保護区の検査・測定や管理・保護に加わっている。検査・測定はリモートセンシング技術を利用して植生のカバー状況を調べること、管理・保護は主に禁牧、防火、防虫、防鼠を指す。
「これから私たちは新しい整備の措置をとります。長期的な禁牧も良い方法とは言えません。草はウシやヒツジにかまれることで刺激を受けて成長し、それらの糞便から栄養を得ます。しかも、ウシやヒツジが草原を歩くのはかゆい所をかくようなもので、草がより良く生えるようになります。とにかく、過度の放牧も長期的な禁牧もどちらも牧草地を退化させます。重要なのは合理的な利用なのです」と于局長は語った。
✿一番良い牧草地は採草地
草原に来てこんな「豆知識」を得た――水辺の牧草地は見た目はよく茂っているが、乾燥地の牧草地の牧草の方がより栄養豊富である。しかも、最も良質な牧草地は往々にして採草地で、それに次ぐのが放牧用の牧草地である。
シリンゴル盟アバグ旗洪格爾高勒鎮のホイトンシロ採草地は、アバグ旗最大の天然の採草地で、面積は60万ムー、旗全体の牧草地の14%を占めているが、牧草の生産量は旗全体の3分の1を占めており、現地の人々が誇りとする良質な牧草地だ。
ホイトンシロ牧草地は付近のガチャ(村)10カ所の700世帯の牧畜民の牧草地を合わせて、ガチャによって統一的に管理され、通年禁牧で、毎年8月末~10月に統一的に採草を行っている。一部は出資した牧畜民に配り、家畜の冬の餌とし、残りは市場よりずっと安い価格で販売している。
アバグの牧畜民が観光客をハダクと馬乳でもてなす
鎮長によると、この牧草地は標高が比較的高く、毎年牧草が1回刈り取る分しか伸びないという。だが、アバグの他の牧草地が乾燥・少雨のとき、ここは豊富な降水量があり、牧草が高く密集して生え、1ムー当たり100㌔の干し草を刈り入れることができ、それはウシ1頭の10日間の餌に十分な量だ。「もし放牧の牧草地にしたら、ヒツジが根まで食べてしまいます。機械で草を刈れば一定の高さが残るので、採草地にするのが比較的経済的で、牧草地の回復のためにも良いのです」
しかも、この天然の牧草地は周辺の原始草原観光旅行業の発展をけん引し、周辺牧畜民の世帯当たりの平均増収分は1万7000元となり、草原資源の永続利用、人と自然の調和した発展を実現している。
親切で客好きなアバグの牧畜民が客にヒツジの丸焼きをふるまっている