コロナと闘い3年心躍る春節・団らん

2023-03-03 14:21:00

段非平 高原 続昕宇=文

中国の人々にとって春節(旧正月、今年は1月22日)は、一家団らんや新春を迎える大切な伝統的祝日である。だが、2020年の春節に新型コロナウイルス感染症が突然発生し、この3年間、多くの中国人は感染症との闘いのため、春節に家族との団らんを楽しむのをあきらめた。感染状況の変化に伴い、中国政府は今年、感染症に対する予防抑制政策を調整最適化し、春節に人々が帰省して家族と共に新年を迎えられるようにした。久しく抑えられていた一家団らんの熱い思いは、中国人の心の中でかつてないほど高まっている。 

帰心矢の如し――そんな思いを抱く数億の中国人を乗せ、列車や旅客機が、古里で待つ家族の元へ疾走し大空を駆けた。どの家も心を込めて年越しの品を準備し、新春のめでたさと暖かさを表す赤一色に染まっている。華やかな雰囲気が戻り、素晴らしい一年への期待が膨らむ中、生き生きとした「正月絵巻」が中国各地で繰り広げられた。 

 

活気戻った「春節の移動」 

春節を半月後に控えた今年1月7日、「中国億万人の大移動」と呼ばれる「春運」(旧正月前後の帰省ラッシュに伴う交通機関の特別輸送体制、今年は1月7日~2月15日の40日間)の幕が正式に開けた。交通運輸部門では、今年の「春運」期間中の旅客数は47億3300万に上り、前年同期比505%増と見込んでいた。 

春運初日、河南省の鄭州東駅の待合室は南北を行き来する旅行客でにぎわっていた。 57歳の劉さんは、片方の手に山芋、もう一方の手にはナツメを提げ、待合室のスクリーンに表示される車両の運行情報をじっと見つめていた。「今年は北京で働いている娘の家で年を越します。一緒に正月を迎えるのは2年ぶり。今回は古里の特産品を持って行きます。高速鉄道がスピードアップし、鄭州から北京までたった2時間なので、娘と会うのはますます便利になりました!」と劉さんは興奮を隠せない様子だった。 

一方、極寒の東北地方の黒龍江省では、ハルビン駅を始発とする観光専用列車が1両ゆっくりとホームを離れていった。「本当の大雪がどんな様子なのか、前から東北に行って見てみたいと思っていました。ここ数年、新型コロナのせいで遠出をしていませんでした。今年は政策が調整され、学校も早く休みになったので、両親と一緒にこちらに来て新年を迎えます」と話すのは、21歳の広州出身の王博文さんだ。窓外の雪景色をうっとり見つめる王さんは、「今回は雪景色とスキーの両方を楽しむつもりです」 と期待を込めた。 

中国各地の美しい景色を満喫するだけでなく、多くの観光客は春節休暇を利用し再び「世界を抱きしめる」ことを決めた。中国の大手オンライン旅行会社「トリップドットコム」グループによると、春節期間中の海外旅行の予約件数は前年比640%と激増。観光資源が豊富でホスピタリティーの高い東南アジアが、中国人観光客の第一候補となった。多くの国も、久しぶりに戻ってきた中国人観光客をさまざまな形で歓迎している。 

スキーリゾートのスイスユングフラウは、ケーブルカーの始発終着駅にうさぎ年の飾りや伝統的な赤いちょうちんを飾った。またインドネシアバリ島の空港では、中国の伝統芸能「獅子舞」が披露され、さらにモルディブのヴェラナ国際空港では、ウォーターサルートという旅客機の両脇から消防車両が放水してアーチを描くハイクラスのもてなしで中国人観光客を歓迎した。 

中国の文化観光部データセンターによると、今年の春節期間中、中国国内の旅行者は延べ3億800万人に上り、前年同期比231%増となった。また同期間中に中国の移民管理機関で確認された出入国(境)者は、延べ287万7000人に達し、このうち出国者は延べ144万3000人で、昨年同期比で1178%増だった。 

フィンランド経済研究院のアナリスト、ペイヴィプオンティ氏によると、春節期間中に多くの中国人観光客が海外旅行を選択することは、周辺諸国地域に経済的メリットをもたらすだけでなく、フィンランドやその他の北欧諸国にもプラスの影響をもたらす、とみる。またスリランカのパリタコホーナ駐中国大使も、「観光業は経済回復の中で重要な役割を果たしており、中国人観光客はその中で非常に重要な役割を担っている。中国人は世界最大のアウトバウンド資源であり、その回帰は世界の観光業や世界経済の自信を押し上げてくれる」と語った。 


春節休み中、全国各地の市場は供給・販売とも好調だった。広西チワン(壮)族自治区の防城港市の市場は、新鮮な魚介類を求める市民でにぎわった(新華社) 

  

安全で便利、快適な移動 

観光地へのアクセスや移動がスムーズになるには、関連部門の総合的な保障が欠かせないものだ。 

「こんなにスムーズに進むのは久しぶりです」。北京大興空港のターミナルビルで帰省の便を待つ30代の男性さんは、こう感嘆した。この2、3年、冉さんは感染症対策のためにいつも出発3時間前には空港に着き、列に並んで健康コードをスキャンし、検温などを行っていた。「今は、かつてのチケットレス搭乗が復活し、本当に便利ですよ」 

今年の春運期間中、中国の交通運輸部門は各輸送方式の情報共有と輸送力の連結を強化。同時に、オンラインでのチケット購入や電子チケット、セルフ検札などのサービスを積極的に進め、ペーパーレスやタッチレスサービスを拡大した。これにより、移動効率が向上しただけでなく、旅客は春運の移動中により多くのリラックスと満足を得られた。 

旅客に対し、いかに便利で速いサービスを提供するか。それと同時に、感染拡大のリスクを減らすことが交通運輸部門には、喫緊の課題となっていた。そこで同部門では、▽旅客がピーク時を避けるよう積極的に呼び掛ける▽継続的に旅客の流れをうまく誘導し、できる限りタッチレスサービスを提供する▽重点箇所の清掃消毒換気を行い、旅客の感染リスクを低減する――ことで旅客が安心して移動できるようにしていた。 

「毎年の春運は交通運輸部門にとっての『大試験』ですが、今年の『試験問題』はさらに難しい」と交通運輸部の徐成光副部長は話す。しかし、「全ての交通関係者はすでに十分な準備を整えています。われわれは最大の能力と最良のコンディション、最高のサービスで、無事で健康、便利で快適な春運を構築します」と言い胸を張った。 

  

春節の消費回復くっきり 

毎年、春節前後は中国人の消費の最盛期だ。中国は、感染症の予防抑制対策の最適化と調整後、初めての春節を迎えた。休みの期間中の国内の消費状況は、通年の経済を見通す一つの窓ともなっている。国家税務総局によると、今年の春節期間中、中国の消費関連産業の売上収入は、昨年の春節連休期間と比べ122%増えた。また食糧食用油食品などの基本的な生活関係商品の売上収入は同315%増、酒類や飲料などの商品需要は旺盛で、同187%増だった。中国マクロ経済研究院の王蘊研究員は、「休日消費の活況が再び戻ってきたことは、消費マインドの再上昇をある程度示している。春節消費の盛り上がりは、1年を通した経済の活性化に向けて良いスタートとなった」と分析した。 

業種別では、オフラインの飲食業の回復が最も顕著だ。家族での食事や友人たちとの集まりは、外食消費の主力となっている。中国の大手フードデリバリープラットフォーム「美団」のデータによると、春節休み期間中、全国での大人数の飲食コースの注文数は、前年同期比で53%増えた。中でも上海の飲食店消費が一番盛況で、注文数は昨年と比べ240%も増えた。成都や長沙、北京などの有名観光都市のネットで人気のレストランでは、入店待ちの行列が1店で1000卓分を超えるという驚くべき現象も起きた。 

映画市場も春節期間中、いつもと違う状況だった。天津出身の24歳の鄭直さんや友人にとって映画鑑賞は春節休み中のメインの娯楽で、「『流転の地球2』と『満江紅』(張芸謀監督作品)を見て、あと『無名』も見るつもり。これも一つの長い間できなかったことの埋め合わせだな」と話した。昨年の春節は、感染症の影響で天津の映画館はほとんどが閉鎖状態となり、鄭さんと友人たちは久しぶりに映画館を訪れたのだった。だから今年公開される春節映画の公式発表を見て、鄭さんは「失われた時間を取り戻すんだ」と考えた。データによると、春節期間中の国内映画館チェーンの総興行収入は67億5800万元に達し、前年比84%増で、春節の興行収入としては中国映画史上第2位となった。 

また、若者の休日消費は多元化の傾向を示している。ウェイクサーフィンやアイススレッジなど、もともとはマイナーだったレジャーに人気が集まっている。また、たき火で茶を入れるのはキャンプ愛好者の春節休みの新たなお気に入りとなった。さらに、温泉浴やスパ(保養癒やし目的の入浴施設)でのマッサージ、茶館で茶を味わうことが人気となっており、カーシアターや博物館の展示、テーブルゲームなどが目的の事前のチケット予約購入はいずれも倍増している。 

春節4日目、江蘇省蘇州に住む楊さんは、上海博物館で人気の新年初の展示イベント「ボッティチェリからゴッホまで――英国ナショナルギャラリー所蔵品展」を見にやって来た。楊さんは、春節期間中はピーク時を避ければじっくり見られると考え、事前に入場予約しチケットを買っていた。ところが、「まさか、こんなに多く若い人が来ているとは思いませんでした」と驚き、「博物館人気は戻ってきましたね」と話した。 


春節休み中、中国各地の消費や観光市場は活況を呈した。天津の古文化街を楽しむ家族連れ(新華社) 


大人気の「健康」正月用品 

正月用品は春節消費では欠かせない要素だ。一般的には、休みの期間中に食べる肉や魚、酒や油、落花生などの炒った各地の菓子、甘いドライフルーツなどの他、正月に親類や友人を訪ねる際の手土産も準備しなければならない。中国人の正月用品購入で今年の新たな現象は、医療健康用品が購入リストに入ったことだ。 

浙江省の杭州市では、多くのスーパーマーケット薬局の出入り口の目立つ場所に、マスク消毒液ハンドソープなどの感染予防グッズが並べられ、これを買い求める市民も後を絶たなかった。そんな市民の一人で、里帰りして春節を過ごすという韓さんは、「実家まで遠いので列車内では十分な防護対策が必要です。ついでに少しでも多く買って、皆への『ヘルシープレゼント』にしたいです」と語っていた。 

杭州天生堂医薬チェーン店の従業員によると、最近、感染者の「隠れ酸欠」の問題に注目が集まってきており、薬やマスクなどの通常の予防用品の他に、血中の酸素飽和度を測るパルスオキシメーターや人工呼吸器などの医療機器も「ヘルシー正月祝い」の人気商品になっているという。杭州のあるネット会社で働く女性社員の楊さんは、実家に送る準備をしていた正月用品の中にパルスオキシメーターを何個か加えた。「診察が間に合わなくて最良の治療時間を逃してしまった人もいると聞いているので、実家の高齢者のためにパルスオキシメーターを買いました」 

健康志向の高まりに伴い、多くの人が健康診断コースを春節の贈り物として家人に贈っている。広州市のある健康診断機関のスタッフは、春節に「ヘルシー正月祝い」を贈るのは新たな流行になっていると説明する。「春節前後に健康診断を受ける人がどんどん増えています。その多くが、都市で働く子どもが両親のために予約した『親孝行コース』です」という。 

浙江省の麗水出身の若い女性黄さんは、父母それぞれに健康診断コースを用意したと言う。「正月は例年、ナッツや赤ワインといった正月祝いを両親にあげていましたが、今年はちょっと違うものを贈りました。そばにいられないときは、両親の健康と無事を一番に願っています」 

越境ECコマースの大手天猫国際(Tモールグローバル)の春節消費レポートによると、春節前の約1カ月、免疫力を高めるビタミンCの販売数は前年同期比で900%の増加。心臓の健康を保つコエンザイムQ10カプセルも同期比700%増、輸入プロバイオティクス(善玉菌)や深海魚の高純度肝油なども爆発的な売り上げ増を見せた。天猫が発表した現代の新正月用品の9大トレンドは、「健康への配慮」がトップだった。 

 

一番大切な団らんの喜び 

中国人にとって、どこで働こうと、またたとえお金がなかろうとも、古里に戻って家族と共に春節を過ごすのが一番大切だ。一家で食卓を囲んでごちそうに舌鼓を打ったり、にぎやかにお年玉を贈り合ったり、パチパチと花火や爆竹を鳴らしたり、土産を手に親戚回りをしたり……。 

北京から東北地方の実家に帰省したネットユーザーの「職場の華」さんは、今年の春節休みを「春節の夢」という言葉で表現した。 

家では老若男女20人余りが三つの大テーブルを埋め尽くし、杯を交わしながら満面の笑みで、あれこれおしゃべりを楽しむ。お酒をたくさん飲んだらお茶に代え、昼から夜中まで愉快に大騒ぎ。SNSのウイーチャットの家族グループでは、お年玉配りも始まった。早い者勝ちの「ネットお年玉」10袋がたった4秒で開けられ、笑い声が部屋中にあふれた。 

「職場の華」さんは、北京でわざわざ買ってきた老舗菓子店のギフトセットを手に、親戚や友人を回った。家族愛と暖かな空気が部屋に流れ、一瞬、屋外の零下20度を超す寒さを忘れさせてくれた。「家に戻った数日はまるで夢のよう。そう、にぎやかな春節の夢でした」 

一方、中国南部江蘇省宿遷市の泗陽県では、40代の男性呉良宝さんとその兄弟姉妹がそれぞれの子どもら18人を連れて帰省し一家団らん、にぎやかなうさぎ年の春節を過ごした。 

旧正月の元日に当たる1月22日。呉さん一家の昼の食卓には、鶏肉のシイタケ煮込みや豚肉の角煮や魚のしょうゆ煮、手羽先のコーラ煮込みなど年越し料理がずらりと並び、どれもおいしそうな匂いが食欲をそそる。4家族がテーブルを囲み、ごちそうを堪能しながらおしゃべりを楽しみ、和気あいあいとした雰囲気だ。食事の後、子どもたちは鬼ごっこやゲームをして遊び、大人たちは歌を歌ったり、トランプに興じたり、おしゃべりをしたりして家族団らんのひとときを楽しんだ。 

「新型コロナが3年間も続き、家族もそれぞれの仕事や勉強で忙しく、普段は顔を合わせるのがなかなか難しい。今年の春節休みは、みんなで集まることができて本当に幸せです」と呉さんはうれしくて笑いが止まらない様子で、「一家団らんができてこそ大きな喜びを味わえるんです。こうして集まって楽しく遊べば、一年の疲れやストレス全てから解放され、休み明けにはまた元気いっぱいに働けます」と続けた。 


今年1月21日は一家団らんを楽しむ大みそか。貴州省遵義市正安県のある家では、家族一同そろって年越し料理を楽しんでいた(新華社) 

  

愛情が詰まった「トランク」 

一家団らんの楽しい時間はいつも短い。春節休みの終わりが近づくと、つい1週間前に古里の家族への贈り物を「見せびらかし」ていた帰省者たちが、今度は田舎の土産をスーツケースやマイカーのトランクにパンパンに詰め込んで帰途に就く。「トランク、まだまだ入るよ」という両親に対し、「もうパンパンだよ」と言いながらも、その幸せな愛情という「重荷」に共感を覚える人は少なくない。 

旧正月の3日目、40代の女性さん一家は浙江省州の実家から同省の省都杭州市に戻った。出発前、彼女はぎっしり詰め込まれた車のトランクの写真をウイーチャットのモーメンツ(フェイスブックのタイムラインに相当)に投稿した。「小分けして凍らせた豚肉や豚骨、アヒル肉などを、父が発泡スチロールの箱にきちんと詰めてくれた。みずみずしいいろいろな野菜は、母が朝市で買ってきてくれたものだ。杭州に戻ったらすぐ食べられるよう焼いてパックし、後は温めるだけにしてくれた。それに、お餅やおやつなどもたくさん持ち帰った」。両親が持たせてくれたおかずを片付けるのに、鄒さんは半日もかかった。 

実は数年前まで鄒さんは、「杭州でも売っているから、こんなにたくさん持って行く必要はない」と断っていた。ところが自分が母親になってからは、親の子どもへの愛情や心配をだんだん実感するようになった。「それは両親の気持ちの表れなので、私たちが受け取れば、きっとうれしくて安心するでしょう。子どもはそれを受け入れ、感謝することを覚えなければならない。これが『愛のトランク』なのです」と話した。 

旧正月の5日目。湖南省瀏陽市出身の30代の男性彭さんは、早朝の便に乗って昼前には上海に到着し、翌日の仕事再開のため準備を整えた。彼の荷物の中には、特に思い入れのある古里の特産品――祖母の手作りのヨモギ餅が入っていた。「祖母の家から出るとき、ヨモギ餅を大きい袋いっぱい持たされました。ぼくは少しだけもらい、あとは両親に残しました」と振り返った。 

上海に出て来てから毎年、彭さんは帰省の度に実家からヨモギ餅を持って上海に戻る。砂糖をつけて食べるのが長年変わらない食べ方だという。「上海では一人暮らしなので、蒸しものの朝食を作ることもあります。口の中は甘いけど、心は古里を思い出して切なくなります。これが大人の郷愁なのかもしれませんね」と、言って彭さんは笑った。 

中国人にとって、おいしい食べ物が多ければ多いほど、家族に対する恋しさや心配もいっそう募るようだ。これは単に食べ物ではなく、他郷にある子への親の深い愛情である。 

1週間という春節休みはあっという間に過ぎ去った。仕事に戻った筆者の同僚の一人も、思わずSNSでこうつぶやいた。「実家に戻ったばかりのときはゆっくりできると思ったが、いつの間にか過ぎてしまった。親戚や友人とたくさん会ったが、会えなかった人もいる。次もこのように素敵な帰省になるよう願っている」 

 

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