中国初の世界SF大会 成都で未来と会おう!

2023-10-16 16:30:00

王哲=文 成都世界SF大会組織委員会=写真提供

 

中国初の世界SF大会開催は成都の誇りであり、アジアの栄光でもある。「世界は一つ」と信じている世界中のSFファンの心に最高の思い出を残すに違いない。  

 

マスコットの「科夢」 

  

広大な宇宙で、シルバーブルーの巨大なメカパンダが三次元の時空を巡っている。それに搭載された流体未来金属メカの「クルーザー」は、映画『2001年宇宙の旅』に登場する宇宙船にインスパイアされたものであり、耳についている「太陽神経伝達装置」は、成都市にある殷周時代の遺跡金沙遺跡の太陽神鳥のトーテムを表している。腕のイチョウの葉の形をした「静脈ハイテクスイッチ」は、エネルギーの流れと分岐を制御する、メカの核となる制御システムだ。その手に握られた「創造のつえ」は、成都市から30離れた広漢市にある新石器時代から周代の遺跡三星堆遺跡から出土した金のつえをモチーフにしており、エネルギーを放出し、治癒し、創造する機能を持っている。パートナーの「星の使者」は、三星堆の青銅鳥に由来し、さまざまな惑星間を自由に移動し、情報を集め、分析することができる。星が生まれる星雲からエネルギーを吸収し、このクールな装甲から無限の力を得て宇宙の深淵を訪ねることすら可能……これが、2023成都世界SF大会のマスコットで、想像力と感性に満ち近未来感あふれる星の冒険家科夢(Kormo)の全容だ。 

世界SF大会「成都までのカウントダウン」はすでに始まっている。世界SF大会(The World Science Fiction Convention、通称WSFC)は世界で最も注目され、最も歴史が長く、規模が最大で最も影響力があるSF文化がテーマのイベントで、10月18日から22日まで成都市郫都区の成都科学館で行われる。大会は世界SF協会から開催権を譲り受けた2023成都世界SF大会組織委員会が主催し、成都市SF協会が運営する。中国初の世界SF大会は、「中国SFの都」を打ち立てようとしている成都に新たな出発点をもたらした。 

 

世界SF大会、アジアへの再来 

 

世界SF大会の歴史は80年以上にも及ぶ。1939年にニューヨークで第1回大会が催され、ルクセンブルクのSF作家であるヒューゴーガーンズバックが、世界初の本格的SF雑誌『アメージングストーリーズ』を創刊。「SF」という概念を初めて提唱した。53年の11回大会以降は「SFのノーベル賞」として知られ、ヒューゴーガーンズバックの名を冠したヒューゴー賞が毎年発表されている。 

2015年8月、米国ワシントン州スポケーンで開催された第73回大会では、宇宙飛行士チェルリングレンが地球のかなた350万に浮かぶ国際宇宙ステーションから、中国の作家劉慈欣氏がヒューゴー賞を受賞したと世界に向けて発表した。劉慈欣はヒューゴー賞創設以来初のアジア人受賞者となり、「中国SFを世界レベルに引き上げた」と称賛を浴びた。 

21年12月18日、フランスのニース、米国のメンフィス、カナダのウィニペグと競った成都は、今年の第81回大会の招致に成功した。成都市SF協会代表団は、シカゴで開催された22年大会に次回開催都市代表として訪問、5日間の成都プロモーションを展開し、古蜀神話と西洋のSFがテーマのフォーラムを行った。 

 

2022シカゴ世界SF大会で、成都市SF協会の代表団が設置した2023成都世界SF大会のブース 

 

5日にわたる成都世界SF大会は「共生の時代」をテーマに、開閉会式、ヒューゴー賞選考、テーマ展、テーマサロン、ビジネスミーティングなどを展開。「サイエンスフィクションシーズン」「シティーツアー」などのイベントも行われる。 

小説、絵画、ドラマなどの多部門からなる今年のヒューゴー賞は、会期中に成都で発表されるが、アジアの作家が食い込めるかに注目が集まっている。 

約5000平方の敷地面積を有する会場では、テーマ展示、テーマサロン、パーティーなどの公式イベントも企画され、世界的SF作家、科学技術関連の学者、SF関連企業や機関などが招待されている。過去の開催地は主に北米だったが、のちに英国、ドイツ、オーストラリアなどでも開催されるようになり、07年には初のアジア大会として日本の横浜で開催された。アジアでの開催は成都で2度目となる。 

横浜大会に参加したSF作家の韓松氏は、「本当にSF尽くしの大会で、SFファンとして登壇した横浜市長のスピーチも、短いがユーモアのある内容だった。成都は中国の歴史、文明、技術、未来が凝縮された都市だ。三星堆と金沙、秦代の水利事業、三国時代の武将と策略家、唐代の詩人、青城の道士、そしてパンダ……SF大会も必ずや、世界に驚きをもたらすだろう」と期待を語る。

 

「中国SFの都」の地位築く 

 

世界とのより盛んな交流が期待される大会は、成都にとっても「中国SFの都」の地位を築くまたとないチャンスだ。 

 

81回世界SF大会の本館―成都科学館(写真孫浩) 

 

成都市は市西部の郫都区に世界レベルのSFパークを建設。成都世界SFパークプロジェクトの総面積は約1314ムー(1ムーは約0067)で、菁蓉湖公園の再開発プランとして設計。生態学とテクノロジーを融合し、SFと古蜀文化による没入型のインタラクティブコンテンツが主眼となっている。メイン会場の成都科学館は、世界トップクラスのデザインチームZAHAの設計で、世界のSFのランドマークとしてファンの憧れの場所となるだろう。 

世界クラスのイベントを開催することで、成都の都市としての価値は確実に高まるはずだ。郫都区はこれまでもハイテク産業開発区や温江区と協力して「清水河ハイテク産業回廊成都SFセンター」を建設している。先進的な製造業をメインコンテンツに、SFを地域の特徴に、住みやすく働きやすい町づくりを目指し、「デジタル情報の新たなエンジン、未来のSFの新たな中心、公園都市の新たなモデル」を打ち出すことは、成都が「中国SFの都」となる手掛かりとなるだろう。『科幻世界』誌の編集長である拉茲(ラズ)氏は、SFとひも付いた都市は、無限の可能性を秘めた未来都市に変貌するだろうとかつて語った。

 

SFブームの新たな波に乗って 

 

劉慈欣氏のSF小説を映画化した『流浪地球(流転の地球)』は、中国の「SF映画元年」の幕開けとなった。映画の公開後、SFファンはこぞって秘蔵の「宝」(『流浪地球』が初めて掲載された成都発行の『科幻世界』の2000年第7号)をインターネットに投稿した。劉氏は公の場で成都への愛をたびたび示しており、「成都は中国のSFが発展し世界へと羽ばたいた、まさにSF都市だ。伝統の落ち着きと現代の活力が共存する成都の今と未来は魅力に満ちている」と称賛する。 

四川省科学普及作家協会理事長の呉顕奎氏は、成都を「中国SFの都」に築き上げようとしている第一人者で、『勇士号、台風に向かう』で、1986年に開設された第1回SF銀河賞の第1級 (最高位) 賞を受賞した。「成都は地理的にはくぼ地だが、中国SFにおいてはまさに高地だ。『科幻世界』誌は成都での創刊から44年にわたって3700人以上のSF作家を育て、3代にわたるSFファンに影響を与えてきた。将来はSFの都になるだろう成都を、世界に注目してもらえるのが楽しみだ。SFは人間の想像力の表現方法であり、想像力は生産性を生む。そしてSFの発展は想像力の発展にもつながる」と、SFの無限の可能性について語った。 

「そもそも成都という町自体がSF的気質を持っている」と語るのは、成都出身で大会の共同主席を務めるSF作家の何夕氏だ。成都は数千年にわたる歴史と文化の遺産を数多く持つことで独自の魅力を生み、その蓄積がSF文学の発展に大切な役割を果たしていると言う。「中国のSF文学の広がりは、中国人の強い想像力と創造性のたまものだ」と語る何氏は、「中国のSF産業の発展は、中国の新たな姿をも体現していると言えよう」と評価する。 

 

2019年11月に開催された第5回中国(成都)国際SF大会は、14カ国から招かれた約60人のゲストと300人余りの中国の有名SF作家、そして科学者やSF産業のエリートが参加した(紅星新聞)

 

成都はまた、30年以上の歴史を持ち、中国のSF界で権威ある銀河賞も生んでいる。成都国際SF大会が2017年から隔年で開催されており、SFは人々の世界観を豊かにし、イノベーションと起業家精神に無限の可能性をもたらした。 

SFは主導産業として将来の発展をリードしていく。成都ではすでにそれが形になっている。19年12月20日11時22分、SF団体にちなんで命名された世界初のAI衛星「科幻世界号」(星時代―8号)が、長征4号乙キャリアロケットに搭載され、太原ロケット発射センターから打ち上げに成功した。この衛星は成都国星航空宇宙技術有限公司や北京微納星空科学技術有限公司などが共同開発したものだ。 

成都国興航空宇宙技術有限公司の最高執行責任者(COO)である王瓏氏は、「科学技術産業とSF産業は相互に補完していて、SF作品は人類の科学技術発展のさらなる可能性探求へのインスピレーションを与えてくれる」と語る。「SF+(プラス)」は、成都の産業が多角的に発展する推進力となり、成都はSF創作の地からSF産業の集積地へと変わりつつある。

 

今年4月25日、2023成都世界SF大会の記者会見が成都で行われた。記者会見後には、「われら」の世界SF大会と題したサロンが開かれた

 

成都は文化クリエーティブ、映画、ゲーム、アニメーションなどのSF関連事業も盛んだ。成都ハイテク産業開発区に支所を設けたMORE VFXは、映画『流浪地球』で800以上の特殊撮影を担当。興行収入49億7200万元を記録した『哪吒之魔童降世(ナタ魔童降臨)』は、成都でSFの影響を受けた人材がクリエーティブチームに起用され、最近ネットで話題の成都太古里ショッピングエリアの巨大な3Dスクリーンを作成した中心メンバーは、いわゆる「95後(1995~99年生まれ)」のSFファンだ。  

雑誌『科幻世界』元編集長ですでに傘寿を迎えた譚楷氏は、中国が四つの近代化に向けて科学技術への歩みを速めていた1980年代にティーンエイジャーの間でSFブームが起こり、多くのSF雑誌が創刊したと話す。成都発の『科幻世界』は今も存続し、成都のSFブームの源となっている。 

米国の著名なSF作家のジェームズガン(1923~2020年)は、世界SF大会の会場でビルゲイツを何度も見掛けている。「ビルゲイツは大のSFファンで、自宅には数千冊の小説があるという。SF大会では本を山のように抱え、作家を見つけてはサインをもらっている」と譚氏は語る。 

世界SF大会の成都開催は、中国全土に新たなSFブームを起こす可能性を秘めている。ファン層が分厚くなれば新たな作家が現れ、中国全土でのSF産業の多様化もあり得る。それは中国の科学技術イノベーション産業と結び付き、アジア太平洋全体を巻き込んでさらなる高みを目指すことができるだろう。 

16年の時を経て、世界SF大会が再び海を越えアジアに降り立ち、中国のSFファンに興奮と喜びを与えた。「成都で未来と会おう」は今大会の合言葉だ。成都世界SF大会は世界のSF産業の供宴であり、中国の強力な科学技術力の縮図でもあり、さらには成都の誇りでもあり、アジア全体の栄光でもある。 

成都世界SF大会は、「世界は一つ」と信じるSFファンの心に最高の思い出を残すことだろう。 

 

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