『人間失格』から「人間的成長」へ

2023-12-07 12:04:00

王鳳  武漢大学  

 

「よべ酒充ちて我ハートは喜びに充ち、けささめて只に荒涼、いぶかし一夜さの中、様変りたる此気分よ」という葉蔵の悩みを読んだ途端、私の心の弦が揺れた。ちょうどその時、雷が鳴り、激しい雨が降り出した。私は風に雨が吹きつけられる様子を窓越しに見て、『人間失格』の葉蔵の悩みを悩んでいた。

葉蔵と同様に、私も感情のブラックホールに陥り、「敏感な気質」で苦しんでいる。私は人の感情の変化をすばやく察知し、表面的な調和を作るために「装う」ことを学んだのだ。両親の歓心を買うために、私は両親からの要求を一回も拒否したことはない。友人の前でも、私はその特殊な「技能」を生かし、いつも素早く友人を慰めたり、助けたりする。しかし、ある日、私は突然今までの自分に疲れを覚え、これ以上の無駄話はしたくないし、人を笑わせる演技もしたくない。ガラッと変わった私の態度に、友人たちは「あなたが変わったね」と冗談まじりに言った。

私が変わった。しかし、自分の本心と向き合いたくてたまらない私は、悩み始めた。今までと違った道を選んだ自分はどうすればいいだろうか?今までの自分と今の自分、どちらが本当の自分なんだろうか?

無数の夜、孤独な苦悩を心に秘め、必死に無邪気な楽天派の姿で心の憂鬱と敏感を隠そうとしている。光が見えない真っ暗の世界で一人でうろうろしている私は、葉蔵と出会った。その時、私はもう一人の自分を見ているような気がした。悲観的で、敏感で、自分の本心を誰にも見せたくないと思いながらも、心の底では救いを求めている私は、葉蔵と一緒にもっと深い淵へ、破滅へとむかっていくような気がした。葉蔵も私も誰かが自分を引っ張り出してくれることを願ったり、救いの希望を誰かに託したりしていたのだ。それが分かった私は、突然、自分を救うことができるのは自分しかいないと気がついた。

窓の外から雨がしとしとする音が聞こえ、ときおり稲妻が空を走っていた。図書館の隅に座っている私は、気持ちが暗くなったというよりは、むしろある種の救いというか、妙な慰めを得たような気がした。

雨の音がだんだん薄れてきて、静かな図書館の中で、今はぱらぱらとページをめくる音だけが聞こえる。死が救済や解脱を意味しているかどうかは分からないが、葉蔵も太宰治も自分を救うため死を選んだ。しかし、この悲しい作品の中の涙は、私にもっと自分を愛することを、もっと世界を愛することを教えてくれた。

図書館閉館予告の放送が流れてきた。私は心の中で、静かに葉蔵に会釈をし、「さようなら」と言い、『人間失格』という本を閉じた。澄み切った月の光に照らされ、宿舎に向かった私は、かつてないほどに自信と勇気がついた。これからの自分の「人間的成長」を楽しむようになってきた。

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