信頼する心は尊いもの
杜暁駿 中国人民大学
『走れメロス』は、処刑されるのを承知の上で友人のために戻ったメロスが、人の心を信じない王に、信頼することの尊さを悟らせる物語である。
主人公のメロスは単純で正義感が強い若者である。
ある日、メロスは妹の結婚式に必要な衣装などを買うため、村から十里離れたシラクスの市に買い物にやって来た。すると、街は様子が寂しく、妙な雰囲気が漂っている。
街で出会った老婆から、王が人を信じられなくなって次々に身内を処刑し、臣下の心も疑い出し、派手な暮らしをしている者には人質を命じ、拒否すると十字架にかけるという事を繰り返しているのだと聞き出す。
人を疑う心が大嫌いなメロスは、激怒して城に乗り込んでいく。しかし、すぐに警護の者に捕まり、王の前に引き出され処刑を言い渡された。
処刑される覚悟があるメロスは、妹の結婚式を挙げるため、3日間の日限を与えてください、と王に頼む。また、それまで無二の親友・セリヌンティウスを身代わりにしてほしいと提案する。
それを聞いた王は残虐な気持ちでほくそえみ、提案を受けた。
メロスが3日後の日没までに戻ってくると言った言葉を、王は全く信じてはいなかった。
結婚式は無事終わり、翌日、メロスは目覚めると「オレは殺されるために走るのだ」と胸に誓い、十里の道を再び歩み出す。
まだ、時間に余裕があったはずなのであるが、途中、3度も危機に見舞われてしまう。
まず、雨で増水した川が氾濫していた。濁流で橋が破壊されていたので、泳ぎ切るしかない。
何とか泳ぎ切って対岸に追くと、今度は山賊に襲われる。3人を殴り倒してこの危機も切り抜けると、今度は灼熱の太陽の暑さでめまいを感じ倒れてしまう。
メロスは、ここでとうとうあきらめてしまった。
ふと目を覚ますと、足元を見ると、岩の裂け目から清水が湧き出ていた。そして、その水を一口飲むと、夢から覚めたような気分になった。
メロスはほとんど全裸で、血を吐きながら走る。
とうとう太陽が沈む直前にたどり着くことができたメロスは、「私だ、刑吏!殺されるのは、わたしだ。メロスだ。」
メロスは、再会したセリヌンティウスに自分を殴れと言う。一度だけあきらめてしまったのだと自分を恥じているのである。その一方、セリヌンティウスも自分を殴れと言う。一度だけ、メロスを疑ったことがあったのだと言った。
そして、二人はひしと抱き合い、おいおい声を放って泣いた。
最後に、王は「真実とは、決して空虚な妄想ではなかった」と告げ、自分も仲間に入れてくれと頼む。
『走れメロス』から、メロスが自分自身を犠牲にしてでも、信頼の大切さを貫こうとする姿勢は素晴らしいと感じ取った。また、メロスがいかなる困難に遭っても、自分の信念を曲げずに最後まで立ち向かう様子にも感動させられた。この作品を通して、私が置かれた環境や社会について考える機会を得られたと思う。