「艱難なんじを玉にす」――『海辺のカフカ』の読後感

2023-12-07 16:17:00

劉金玲  江蘇海洋大学

 

少し黄ばんだページにライトが当たって、私はもう一度『海辺のカフカ』を開き、考え込んだ。成長という言葉が小説全体を貫いており、この小説のテーマの一つであるように思われる。主人公のカフカ少年は「父を殺し、母と姉と関わる」という呪いを父親にかけられる。呪いから逃れるため、15歳の誕生日の前夜に家を飛び出し、「世界でいちばんタフな15歳の少年になる」という旅に出た。家出四週間足らずの間に、遠くの知らない町で暮らし、いろいろな人や物事に出会い、父親が刺殺され……最後に東京の家に戻っていく。結局、カフカ少年は成長して、「世界でいちばんタフな15歳の少年」になった。

小説の冒頭でカラスと呼ばれる少年がカフカ少年に、「君はこれから世界でいちばんタフな15歳の少年になる」と言う。「カフカ」はチェコ語で「カラス」を意味する。

このカラスと呼ばれる少年はカフカ少年の分身だと思われる。続いて、「その砂嵐が終わった時、どうやってそいつをくぐり抜けて生きのびることができたのか、君にはよく理解できないはずだ。いや、ほんとうにそいつが去ってしまったのかどうかも確かじゃないはずだ。でもひとつだけはっきりしていることがある。その嵐から出てきた君は、そこに足を踏み入れたときの君じゃないっていうことだ。」 

嵐の中を抜けたカフカ少年は、すでに新しい世界の一部となっている。この本を読んで私は、12歳の時の自分が思い出される。初めて親元を離れ、家から400キロも離れた学校に通い、すべてを一人で解決しなければならなかった。駅で両親が見送ってくれて、中学時代の一人暮らしが始まった。慣れることのできない環境では、親の保護もなく、思春期の興奮や不安にさらされ、私は限りない孤独を感じていた。いくら頑張ってもわからない理科などで、他の人との埋められない格差を見せつけられる。生活の苦しい時や気持ちの落ち込んでいる時に、慰めてもらう人もいない……

この経験は、幼い私にとっては激しい嵐のようなものだった。私はよろけたりしながら、歩き続けていた。やっとのことで、ある日、激しい雨がやんで、黒い雲が消えて、遠くの空に虹が鮮やかにとかかってきた。嵐の中を抜け出してきた傷だらけの私は、目には毅然としたものがあり、心身ともにこれほどの力をいままで感じたことはないと微笑みながらつぶやいた。この暴風雨こそ、私に前向きに成長する勇気を与えてくれ、さらに力強く恐れを知らない自分に変えてくれた。これは私にとっての成長というものだと言える。

カフカ少年は「世界でいちばんタフな15歳の少年」に成長したが、私も無謀で熱い少女時代に、自己成長のための救いの道を見出した。折られたページを一枚、一枚と広げていくうちに、「艱難なんじを玉にす」という言葉が心に浮かんできた。

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