システムへの破壊――『1Q84』を読む

2023-12-07 16:19:00

宋禕佳  中央財経大学財経  

 

 1995年3月20日、日本のカルト組織「オウム真理教」は、教祖麻原彰晃の指示のもと、東京の地下鉄でサリン事件を引き起こし、少なくとも12人が死亡5,000人以上が負傷した。この事件に極度の衝撃と怒りを感じた村上春樹は、多数の被害者や一部のオウム真理教信者に聞き取りを行い、オウム真理教信者の裁判を傍聴し、事件の真相を知った。現代人の心のジレンマをテーマに、物語という形で人々に伝えた。

 村上が最も懸念しているのは、「犯人は誰なのか」ということだ。彼らは、罪のない人々に向かってどのような動機があったのだろう?その結果は予想外で、どこから見ても普通の人間で、個性もなく、親に逆らうことはほとんどない。しかし、ある時点から現実に躊躇し、他人とは違うということを証明したいと思うようになった。「彼らは社会そのもの目的を失ったことに気づいた」と村上は指摘した

 そんな思いを込めて、村上は小説『1Q84』を創作した。作品は全3巻からなり、最初の2巻はヒロインの青豆と主人公の天吾の二重の視点から展開した。青豆は暗殺者、天吾は家庭教師兼ライターのアルバイト。物語は青豆による暗殺から始まり、その暗殺中に青豆は誤って異世界に入ってしまう。その世界には日本語の「9」の発音が「Q」に似ていることから月が2つあること、そしての世界の謎(質問)、そこで青豆はの世界の1984年を1Q84と呼ぶようになった。一方、天吾は、芥川賞新人賞を受賞するために、才能ある少女の作品『空気さなぎ』を磨くのを手伝うことを計画している。しかし『空気さなぎ』の物語はフィクションではなく現実の出来事であり、天吾もまた『1Q84』の世界に巻き込まれていくことになる。

 20年前、小学校の同級生だった青豆と天吾は、家族のせいでクラスで疎外されていた。ある日の午後、二人は教室で手を取り合い、元の家族から離れる努力を助け合うとともに、双方に友の種を蒔いた。こうして、20年後の『1Q84』の世界に入った二人は、お互いを償い合うようになる。

 しかし、この壮大な世界観に比べると、ようやく二人が出会い、1984年の世界に戻るという物語の結末は少し急ぎ足な印象もある。村上は、この本に登場する他の人々の結末や、『1Q84』の世界の真実については何も語っていない村上読者に新たな謎を残した。二人は実際に1984年の世界に戻ったのではなく、全く新しい世界に入ったのではないかとほのめかした。まるで登場人物、組織、出来事は、すべて主人公とヒロインが出会うためだけに描かれているようだ

 実はこのような工夫こそが、「高い壁」、いわゆる「システム」に囚われず、そのシステムを打ち破り、本当の自分を追求するという村上の言いたいことなのだと思われる。この作品の中にある見慣れない世界は「高い壁」であり、二人が出会ったとき、二人は自分自身を見つけたのだ自分自身を見つけたので、この「高い壁」の混乱は何の関係もなくなる。そして「高い壁」は当然で壊れてしまうのだ。人々の心が徐々に閉ざされつつある今の時代、自分自身を見つけて壁を打ち破ることを忘れてはいけないと思う

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