競枝と友誼の大会

2023-05-22 16:56:00

一九六一年四月十四日の夜、北京(ぺイチン)の労働者体育館は、歓喜と希望にあふれ、青春のエネルギーと激情にわきかえつた。第二六回世界卓球選手権大会は、最後の激戦の幕を閉じた。万雷の拍手と歓呼につつまれながら、中国と日本の混合ダブルスの二組の選手たちはかたく手を握り合う。巨大な北京労働者体育館の天井にとりつけられた数百コの照明燈がいつせいにともり、館内を昼間のように明るく照らし出す。ブラスバンドが雄壮な曲を奏で、第二六回世界卓球選手権大会の勝利と成功に歓呼する人びとの心のひびきをつたえる。

盛大な、おごそかな賞杯授与式。世界卓球選手権大会の優勝者たち―一九六一年度の新たな世界選手権獲得者、第二位獲得者をはじめすぐれた卓球選手たちが、整然と隊を組んで議長団席の前に進み出、世界卓球運動の元老、国際卓球連盟のモンターギユ会長らの手から賞杯と賞品を授与される。優勝者のうち、男子シングルス世界選手権獲得者はわずか十九歳の中国選手荘則棟(チワンツオトン)、女子シングルス世界選手権獲得者は二十五歳の中国選手丘鍾恵(チユウチユンホエイ)、男子ダブルス世界選手権獲得者は日本の全国選手権獲得者星野と日本の若い新人木村、女子ダブルス世界選手権獲得者はルーマニアのアレクサンドルとピチカ。それから男女混合ダブルスの世界選手権をまたもや獲得した日本の選手荻村と松崎の姿も見える。

これは四月四日に大会がはじまつていらいの、ことに男女団体戦の終了した九日いらいふたたび迎えた最高潮の日であつた。九日の夜、人びとは同様に忘れがたい歓喜の時をむかえた。あの日、男子団体戦の世界選手権をかくとくした中国男子チーム、第二位の日本男子チーム、第三位のハンガリー男子チームと女子団体戦の世界選手権をかくとくした日本女子チーム、第二位の中国女子チーム、第三位のルーマニア女子チームの選手たちは、その賞杯授与式で、人びとから熱情あふれる祝福をうけた。そしてこの日は、数種目の個人戦の優勝者たち、世界選手権の獲得者たちが、満面に喜色をたたえて、彼らの当然うけるべき栄誉をうけた。九日の団体戦の終了時とおなじように、館内の一万五〇〇〇人をこえる観衆、テレビとラジオを前にした無数の人びとが、優勝者たちを祝福し、彼らに歓呼をおくつた。人びとは、新しい世界選手権獲得者の誕生を祝福し、また世界卓球運動史上に新たな輝かしい一頁をしるしたこの大会に歓呼をおくつた。


周恩来総理は国際卓球連盟のモンターギユ会長とその他の指導者および各国、各地域の卓球チームの団長等と会見した。
周恩来総理は国際卓球連盟のモンターギユ会長とその他の指導者および各国、各地域の卓球チームの団長等と会見した。

新しい世界的レベルをしめした競技

人びとは第二六回世界卓球選手権大会が世界卓球史上の最高レベルをしめす競技大会であつたと絶賛しているが、これは少しも誇張した形容ではない。大会に参加した三一の協会の二四〇名あまりの選手の中には、イングランドのバーナ、リーチ、デイアンニ·ロー、チエコスロバキアのアンドリアチス、ハンガリーのシドなどの古豪もいれば、中国の容国団(ルンクオトワン)、王伝耀(ワンチワンヤオ)、丘鍾恵、孫梅英(スンメイイン)、日本の荻村、星野、松崎、伊藤、岡田、ハンガリーのベルチツク、コチアン、スエーデンのラルソン、メルストローム、ユーゴスラビアのボゴリンチ、マルコビツチなどといつた今日のもつとも優れた卓球選手たちがいる。彼らはここ数年間の国際試合でチヤンピオンの栄誉をかくとくした人びとである。このほか、日本の木村、三木、関、ハンガリーのペータフイ、マト、ルーマニアのネゲレスク、アレクサンドル、ピチカ、チエコスロバキアのスタネツク、イングランドのハリソン、ブラジルのコスタ、ソ連のアベリン、中国の荘則棟、李富栄(リーフールン)、徐寅生(シユイインシヨン)、張燮林(チヤンシエリン)、韓玉珍(ハンユイチエン)、王健(ワンチエン)らのようなこの二、三年のあいだに輩出した新進の選手たちもいる。彼らは国際試合のなかで、すでにその鋭鋒をあらわし、優れた成績をいくつもおさめていた。

国際卓球連盟のモンターギユ会長は、今度の世界選手権大会は「卓球運動史の転換点」だと指摘した。この評価は、十日間競技をみてきたわれわれには容易に理解できる。われわれは日本、ハンガリー、イングランド、チエコスロバキアといつた長い間盛名をになつていたチームの選手たちのすばらしい技術を見ることができたばかりでなく、ソ連、朝鮮民主主義人民共和国、ガーナなどといつた、はじめて世界卓球選手権大会に参加したチームが、かなり高いレベルをもつていることも知つた。ヨーロツパのシエークハンドの選手にせよ、アジアのペンホルダーの選手にせよ、いずれも技術のうえに新しい発展と創造のあとが見られた。カツトによる守備に長じたヨーロツパの名将たちは、防御の面にいつそうの堅実さをくわえているばかりでなく、攻撃力をも大いに強めていた。攻撃力をもつて鳴るアジアのペンホルダーの選手たちは、攻撃技術の面にいつそうの多様化をみせているばかりでなく、サーブや球のコントロールといつた面でも、新しい成長をとげていた。攻勢の強化と戦術の多様化は、試合の所要時間を普遍的にちぢめた。初期の卓球競技にしばしばみられた「マラソン競技」はもうほとんど見られなくなつている。二〇〇〇セツトに近い試合のうち、二〇分という制限時間いつぱいに打つたのはわずかに一セツトだけである。かつて話題となつた、アツプ技術の発展形としてのループ球は、日本の選手の間で広く用いられたばかりでなく、一部のヨーロッパのシエークハンドの選手たちの間でも用いられた。それぞれことなつたスタイルと技術の間にくりひろげられる熱戦は、あたかも春の花園にさきほこり、好をきそいあう花々の大展覧会といつた観を呈した。一セツト、一セツトの試合、一点、一点の争奪は、技術と戦術と意志体力の総合的な戦いとなり、戦いは青春と知恵と力をしめす感動的なシーンを各所にないまぜながらすすめられた。世界各国のすぐれた選手たちは、卓球運動というこの競技が、人びとに生活の楽しみをもたらし、健康に有益であるばかりか、人びとの機知と勇気と勝利をめざす闘争精神をつちかうものであることを見事にしめしてくれた。

モンターギユ会長はこう言つている。「こんど北京で催された世界選手権大会が全面的、驚異的な勝利をおさめたのは、若々しさ、勇気、人格的修養、体力、進取の気性、主動性、果断、そしてまた友好的な闘争精神の勝利である」モンターギユ会長はまたこう語つている。「各国の若者たちは自分の結論を出しつつある。そして今後は、新たに卓球運動にくわわつた国ぐにの卓球運動に新しい生気がうまれるばかりでなく、比較的に古い歴史をもつ、一時卓球界でなりをひそめていた国ぐにでも、新たに生気はつらつとした現象が生まれるであろう」第二六回世界卓球選手権大会は、世界卓球運動の新しい里程標となり、すでに世界の卓球技術をさらに新しい段階にひきあげていることがみてとれるのである。

めざましい新人の進出

十日間にわたるはげしい熱戦のなかで、人びとは各国の選手たちのすばらしい技術に目をみはつた。日本の選手たちは、世界卓球界の強力チームの名にはじない。一九五二年いらい、日本の選手は世界選手権大会でますます重要な地位を占めてきた。今度の世界選手権大会では、彼らは七つの主要種目中、三つの世界選手権をひきつづき保持したほか、二位一、三位二の成績をおさめた。彼らは各国のもつとも優秀な卓球選手たちの最強の敵手となつている。彼らはベテランと新人をとわずひじように高いレベルをそなえている。彼らは世界卓球運動の発展にすぐれた貢献をしている。

ルーマニアの若い女子選手たちも、今度の大会で、大きな才能を発揮し、アレクサンドルとピチカは、女子ダブルスのもつとも有力な優勝候補と目されていた日本選手と中国選手をつづけざまにうちやぶつた。


国務院副総理、体育運動委員会主任賀龍氏は、宴会をもよおして各国からの来賓を歓迎した。
国務院副総理、体育運動委員会主任賀龍氏は、宴会をもよおして各国からの来賓を歓迎した。

ハンガリーの選手たちは、つねに各種目の世界選手権の有力な争奪者であつた。彼らは中国と全世界の広はんな卓球フアンの賞賛の的となつた。

今度の世界卓球選手権大会で、中国の選手たちは各方面の人びとの注目をあつめ、各種目の競技に、新しい成果をおさめた。中国の男子チームは、群雄と力戦して男子団体戦の世界選手権をかくとくした。中国の若い選手荘則棟、李富栄、徐寅生、張燮林が、それぞれ男子シングルスの一位、二位、三位をかくとくしたが、これも世界卓球運動史上にまれな現象であつた。丘鍾恵と王健はそれぞれ女子シングルスの一位と三位をかくとくした。そしてその他の種目では、男子ダブルスで三位となつているほかは、みな二位をかくとくしている。若い中国の卓球選手にとつて、これは大きな勝利である。

一九五三年、中国の選手が最初に世界卓球選手権大会に出場していらい、わずか八年あまりの時間しかたつておらず、世界選手権大会に出場したのはわずか四回である。このような短期間に、水準の比較的低かつたチームが一躍世界卓球運動の前列に立つということは、けつして容易なことではない。それは刻苦奮闘の過程であつた。若い中国の卓球選手たちは、失敗のなかから教訓をくみとり、挫折のなかから経験をつみ、各国の優秀選手との接触と試合をつうじてすすんだ技術を学び、それを自分の特徴と結びつけ、真剣な研究と鍛練をつみ、はじめて今日の成果をおさめることができたのである。世界の人びとが日をみはつたのは、中国の選手が世界選手権をいくつかかくとくしたということばかりでなく、かなり高い技術的レベルをもつた中国の若い選手たちがあんなにも多勢国際的な卓球競技場で活躍したというその点であつた。しかも、それらの選手たちの中には、まだ子供つぽさのぬけきつていない少年も少なくなかつた。

中国の各種のスポーツは、「体育運動を発展させ、人民の体位を増強せよ」という毛沢東(マオツオートン)主席の呼びかけのもとに、わずか十数年で、急速な発展をとげた。他の種目のスポーツと同じ様に、卓球は中国で、広く愛好され、経常的に卓球をやつている人びとの数は、すでに一〇〇〇余万人にたつしている。こうした卓球愛好者こそ、才能ある新人をうみ出す無限の源泉である。今度の大会で男子シングルスの一、二、三位をしめた若い選手たち、荘則棟、李富栄、張燮林はいずれも、もとは中国の都市、農村で活躍している何千何万という普通の「豆卓球フアン」の一人にすぎなかつた。彼らは、体も立派、学習も立派、活動も立派という三好(サンハオ)の目標を達成するために、積極的に体育活動に参加した。彼らは課外の時間や業余の時間を利用して、国家の手でたてられた数多くの青少年業余体育学校に卓球の練習に通つた。そしてそこで、有名な卓球選手やコーチヤーの指導をうけ、励まされながら、その才能をのばし、しだいに国内試合、国際試合で頭角をあらわし、勝利をおさめるようになつた。彼らのこうした成長過程は、今日の中国の圧倒的多数の新人選手たちに共通した経歴である。広はんな大衆的基盤、これこそ中国の選手たちが急速に技術的レベルを高め、国際的な試合で優勝をかくとくすることのできた基本的な原因である。しかし、中国の選手は、畢竟まだ年若く、経験が浅く、技術的にも、戦術の運用の面でも、まだいろいろな欠点をもつている。


中国の選手と日本の選手はいつしよに万里の長城に遊び記念写真をとつた
中国の選手と日本の選手はいつしよに万里の長城に遊び記念写真をとつた

中国ではじめて女子シングルスの世界選手権をかくとくした丘鍾恵も、新しい男子シングルスの世界選手権獲得者荘則棟もこう語つている。自分たちが今度の試合で勝利できたのは、若いスポーツマンにたいする中国共産党と人民の教導と養成の賜物である。自分たちは今後とも各国の選手たちから学び、学習と鍛練をおこたることなく、仲間たちとともに、祖国のためにさらに大きな栄誉をかちとるようにしたい、と。

友誼のタネをまく

第二六回世界卓球選手権大会は、世界の卓球運動の発展のために卓越した成果をおさめたばかりでなく、また各国の人民、選手たちがおたがいの友誼を深めるうえに大きく寄与した。はるばるアフリカからやつてきたガーナ卓球チームの団長メイソン氏は「わたしたちはカップよりも、友誼を大切なものと考えている」と言つているが、まさにそのとおりで、この言葉は世界選手権大会に参加するため北京をおとずれた各国の選手たちの共通の気持をよくあらわしている。ヨーロツパ、アジア、アメリカ、アフリカ、オーストラリアの各州からやつてきた各国の選手たちは、言語と皮フの色をことにしているとはいえ、その願いは共通していた。それはつまり、試合と接触をつうじて、お互いの間の理解と友誼を深めたいということだつた。

今度の大会の開催期間中に、おおくの感動的なシーンが見られた。競技場では、互いにゆずらず、はげしく競り合う敵味方も、競技場外では、肩を並べて座り、膝をまじえて語り合い、互いに卓球運動の経験を交流しあい、それぞれの国の人民の生活や風習について語り合つた。中国と日本の選手たちは、どの種目でも、ほとんど力量の伯仲する好敵手同士で、もつともはげしい熱戦をくりひろげたが、試合が終れば勝者も敗者も互いに将来の試合で新しい成果をおさめるようにと祈り合つた。彼らは杯をあげて友誼のために乾杯し、彼らは中国の万里の長城やその他の名勝古跡にともに遊び、仲むつまじく北京で快適な二週間をすごした。キユーバチームの団長オスカ·ナバロ氏はこう語つている。「わたしたちは自分たちの祖国や家にいる時と同じような気持でくらしました。わたしたちの友誼は山より高く、海より深いのであります」

中国の国家の指導者と広はんな人民大衆は、選手権大会の進行に終始熱情あふれる関心と支持をよせた。董必武(トンピーウー)副主席、周恩来(チヨウエンライ)総理その他の国家の指導者も試合を観戦し、賀龍(ホーロン)副総理兼国家体育運動委員会主任と彭真(ポンチエン)市長はそれぞれ盛大な宴会をひらいて、大会参加のために北京をおとずれた世界卓球連盟の責任者や各国チームの人びとを歓迎した。北京の市民は、まごころをこめて各国の選手を歓迎し、各国選手間の友誼の増進のために貢献できたことをほこりとしている。

第二六回世界卓球選手権大会の開催は、各国の人民、選手たちの間にかさねて友誼のタネをまいた。それはやがて海山をこえてひろがり、諸国民の間の平和なまじわりのために、諸国民の間の友誼の増進のために、うつくしい花々を咲かせるであろう。

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