若者が熱いエールを送る 脱サラ青年のバーガー屋

2018-05-22 12:32:46

 

  20144月初頭から、「なぜ僕は仕事をやめて煮豚バーガーを売るようになったのか」という文章が、微信(モバイルメッセンジャーソフトで、LINEに類似)によって、若者たちの間に急速に広まった。この文の内容は以下の通りである。 

 主人公は北京の一流IT企業でプログラマーとして働く名門大学出身のある人物である。彼は他人もうらやむ高給取りで、両親も我が子を誇りに思っていたにもかかわらず、昼も夜もなく働き、毎日満員電車に揺られて通勤をし、百万行ものコードを入力してもまったく達成感のない生活に、嫌気がさしていた。米国で製作されたドキュメンタリー映画『二郎は鮨の夢を見る』に感化された彼は、思い切って仕事をやめて、友だちと一緒に、ふるさとの陝西省の名物である「肉夹馍」(丸くて平たいパンの間に煮豚を細かく切って挟んだ中国風のハンバーガー。以下、煮豚バーガーと表記)を売る軽食店を開くことにし、若者の間で「宇宙の中心」といわれる五道口に店舗を構えた。これが「西少爺煮豚バーガー」である。 

「宇宙の中心」の小さな店 

 五道口は北京市の北西部に位置する。北京北駅を起点とする北京─包頭鉄道の5番目の道路との交差点がここにあるため、この名が付いた。「宇宙の中心」と呼ばれているのは、地下鉄13号線の五道口駅のそばにあるショッピングモールの大型看板に「U-CENTER五道口」と書かれていたためで、「U」をユニバース、すなわち宇宙の頭文字と考えれば、「宇宙の中心──五道口」となるわけだ。 

 この五道口付近には北京大学、清華大学、北京語言大学、北京航空航天大学、中国地質大学など8校の名門大学があり、この10年間はさらにハイテク企業の集中地区にもなっている。グーグル、百度、新浪など国内外の大手ネット企業はみなこの地域に拠点を持っている。中国各地から北京大学、清華大学などの大学に入学した学生たちは五道口で北京生活を開始し、このあたりにずらりと並んでいる小さな店で服を買い、夜食を食べ、買い物を楽しみ、映画を観て、時にはドリンク1杯で夜じゅう喫茶店に居座って、試験勉強をした。卒業後も付近の会社に就職し、近くのマンションを借りて住む。五道口は彼らにとって、北京ないしは世界のすべてであり、この意味からすれば、これらの上京青年たちにとっての「宇宙の中心」であると言っても過言ではない。 

 「西少爺煮豚バーガー」が「宇宙の中心」で開店したのは、4人の創始者がみなここで生活、仕事をしたことがあるためだけではなく、「宇宙の中心」で暮らす青年たちが、起業によって固定化した生活から脱却し、達成感を得たいという気持ちを誰よりもよく理解してくれるからだ。4人の創始者の経験が凝縮された「なぜ僕は仕事をやめて煮豚バーガーを売るようになったのか」を読んだ五道口で生きる若者たちは、彼らの痛いところを深く突かれたように感じた。そのため、みんなこぞってここのハンバーガーを買って彼らにエールを送った。特に創始者の1人がかつて中国の大手ネット企業の百度(バイドゥ)に勤めていたため、百度のジョギング同好会のメンバーは、百度の本社ビルから8㌔離れた「西少爺煮豚バーガー」店までジョギングし、ハンバーガーを買って元同僚の起業を応援するという活動も行った。 

 これに対し、創始者の1人である孟兵さんは、「こうした反応は理想を追い求める心を持ち続ける人への賞賛だと思います。この時代には、多くの人の理想が抑圧されています。それでも私たちのような身の程知らずの者は、やはり何かをやりたいと思うのです」と語った。 

ハンバーガーを売る「ネット企業」 

 「西少爺」の創始者はみな西安交通大学出身で、2011年にオートメーション科を卒業した孟兵さん、同年コンピュータ科を卒業した羅高景さん、2010年に化学工業科を卒業した宋鑫さん、2013年に管理学科を卒業した袁澤陸さんの4人である。彼らは「西少爺」を最初から一般の軽食店ではなく、ネット企業と位置づけていた。ネットや微信の大きな影響力を利用して宣伝を行い、感動的な物語であっという間に多くの人の好感を獲得し、さらにその物語をシェアすると1回限りでハンバーガー2個をプレゼントするというキャンペーンを行った。さらにグーグル、百度、テンセントなどのネット企業の社員は、在職証明書を提示するとキャンペーン期間中に1回限りでハンバーガーがプレゼントされる。一方、彼らはネット企業のコンセプトで商売を行っており、「品質第一」主義を貫き、いくらコストが高くついても、良いもの作りにこだわり続ければ、必ず報いられると信じている。 

 「多くの業界では顧客の満足度を追求していますが、私たちは『顧客のビックリ度』、つまりみんなの予想を超える製品を追求しています」と孟さんは言う。そのため、いろいろな面でコストを惜しまずにやっている。本場の煮豚バーガーを作るために、彼らは一度西安に戻り、その道のプロに師事して腕を磨き、電気オーブンでいかに直火焼きに近い食感を再現できるかについて研究を重ねた。また、工科出身の特長を生かし、繰り返し実験を行い、すべての調理過程における厳格な基準を定めた。それは一般の軽食店にありがちな大雑把なやり方とはまるで異なり、調味料の使用量をミリグラム単位まで正確にコントロールするものである。また、ハンバーガーを入れる袋は輸入材料で作られており、普通使われるポリ袋のコストに比べ10倍かかる。それは持ち帰ってもパンの皮がカリカリとした歯ごたえを保てるよう、通気性があり、油がにじみ出ないものを選んだからである。その上、彼らはハンバーガーの価格を1個7元(1元=約16円)とした。西安よりも1元安く、物価が高い北京においては、確かに人々の予想を裏切る安さと言えた。 

人気を保ち続けるために 

 ネット上で十分宣伝したため、「西少爺」は4月8日のオープン初日にびっくりするほどの好スタートを切った。この程度の規模の店は普通、1日に五、六〇〇個売れればいいほうだろうと考え、「西少爺」はオープン前日に1200個を準備したが、なんと午前11時前にすべて売り切れてしまった。あわててもう少し作り、これであと2日くらいはもつかなと思っていたら、それも午後5時までに売り切れてしまった。 

 それから1カ月の間、テイクアウト窓口の前には、ほぼ毎日長い行列ができている。「お一人様につき2個までの購入をお願いしています」という張り紙があっても、待ち時間は平均して十数分にもなる。顧客は付近の住民、学生だけでなく、この店の話を聞いて遠くからわざわざ買いにやって来る人もいる。あるおばあさんは、孫娘が朝食にはこれしか食べないと言って、一気に4個買い求めていた。毎回多めに買って冷蔵庫で保存しておくのだそうだ。「西少爺」は現在大人気だが、この品質をどのくらい保っていけるかは、まだ分からない。しかし、孟さんらは自信満々だ。「私たちは単なる煮豚バーガー店を作ったわけではありません。インターネットの従来型産業への浸透は世界的なトレンドであり、多くのチャンスが秘められていて、私たちは最もやりやすいところを足がかりとしたに過ぎません。ハンバーガー店を経営するなんて恥ずかしいと思う人もいるようですが、世間の評価は、いかに経営するかによって変わります。中には屋台で終わる人もいるでしょうが、われわれはこの店を高級チェーン店にしたいと考えています」と孟さんは語る。 (高原=文  馮進=写真)

 

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