地域に根ざす総合診療医師 若手の優秀人材獲得が急務

2018-05-22 12:37:58

高原=文  馮進=写真

  44歳の董煒さんは北京市海淀区北太平庄コミュニティー衛生サービスセンターで、総合的に病気やけがを診る診療医。董さんは同センターに勤務する14人の医師と共にコミュニティーに住む22万人に健康管理や医療のサービスを総合的に提供している。 

  診察室で患者と向き合う時、この15人の医師たちはとても親切に、辛抱強く、そして真剣に患者が訴える病状や最近の悩み事に耳を傾ける。そして、適切な処方をし、精神的にもプラスへと導く。ところが、カメラのレンズを通してみると、この医師たちはみな内気で控えめにしか写らない。董さんは診察の時には必ずマスクを着用するという規則に従い、始終マスクをしている。しかし、取材カメラマンがいる時には休憩時間になってもマスクを外さない。その理由を董さんは次のように話す。自分はやるべきことをやっているだけで、ほかの職業の人たちと何の変わりもない。それなのに、総合診療医の代表として取材されるだなんて恥ずかし過ぎるから。 

患者の真意をくみ取る能力を 

  董さんが勤務するセンターでは2001年から総合診療医の養成を開始した。現段階では15人が総合診療医としての免許を取得した。この15人はセンターで学ぶ前はほとんどが内科の医師だった。そのため、余暇を利用して北京市の規定に基づいた育成コースに通った後、試験を通過し、やっとのことで総合診療医の免許証を手にしている。センターの甄冬雲副主任の話によると、ここ数年、中国では総合診療医の育成が重視され始めると同時に、その資格取得試験も難しくなってきているという。そのため、董さんが医師免許を取得した当時のように、3、4カ月の育成コースが終われば診察を始められるなど、今では考えられないことだという。現在では準医師として3級(中国の病院は3段階で評価される。3級が最高級)病院で1年間の研修を終え初めて資格取得試験に参加できる。一方、医学学校の本科生に対しては、病院各科での研修が計3年に満たないと資格取得試験への参加すらできない。また、すでに総合診療医であったとしても、1年に1度の定期研修に参加することが義務付けられている。 

  総合診療医になるための比較的新しい科目として、コミュニケーション能力が挙げられる。これは総合診療医と専門医との違いだと董さんは説明する。「大きな病院の専門医は毎日多くの患者と向き合います。専門医にとって大切なのは一人一人の病気の場所や器官がどこなのかを見極めるということです。診察し終わると、患者との接点は無くなります。しかし、総合診療医は違います。私たち総合診療医は頻繁に来る患者さんととても親しくなります。そのような患者さんには診察をするだけではなく、その人の心理や精神状態にも気を配り、常に言葉をかける必要があります。特に年配の患者さんは診察が本当の目的とは限りません。診察室に入ってすぐはどうやら風邪をひいたらしいと言うんです。症状を詳しく聞いていくと昨日はよく眠れなかったと言い始めます。その後でやっと最近家庭内で何が起こったかを話し始めるんです。つまりは、愚痴を言いに来るんですね」。このように、総合診療医には高いコミュニケーション能力の訓練が必要となる。 

24時間体制で医療を提供する 

  北太平庄コミュニティー衛生サービスセンターに勤務する医師は、毎朝8時に出勤してから、40~50人の患者を診察し、24時間以内に各患者のカルテを作成しなければならない。このような業務の他にも、1週間に4~5軒は貧困家庭を往診する。 

  往診には医師と看護師の2人で行く。患者の家が近ければ徒歩で行くが、この北太平庄コミュニティーは比較的広いため、患者の家まで遠いこともある。そのような時には自転車をこいで往診に行く。患者の家に着くと、まずは医師が診断し指示を出す。そして、看護師が注射や点滴、導尿カテーテル挿入などの作業をする。このように医師と看護師の仕事ははっきりと分担されている。 

  この日、董さんは3人家族の家へ往診に出かけた。70歳を超えた父親は糖尿病のため床に伏している。母親は心臓・脳血管障害を持っているため、定期的な診察が必要。この2人の高齢者は普段から息子の看病に頼っている。しかし、その息子も体が丈夫なわけではなく、両親に付き添い病院まで行くには限度がある。そのため、往診サービスを利用しているという。今回は母親から頭痛がすると電話があったため、董さんは定期的な往診ではなかったにもかかわらず、診察にやって来た。往診料はいつもと同じたったの20元(約400円)。「例えば突発性の病気や尿道カテーテルが原因の尿漏れなど、患者さんが私たちを本当に必要とする時にはいつでも往診に行きます。また、私たちは24時間体制で携帯による診断もしています。携帯番号は当然コミュニティー内に貼り出されています。こうすることで診察時間外に突然体調が悪くなったとしても、直接私たちに電話できます」 

  董さんたちは基本診療以外にもコミュニティー内で健康相談セミナーをたびたび開いている。そこでは血圧や血糖値の測定が無料でできる。この他にもコミュニティー内の禁煙や腫瘍性疾患患者の追跡、死亡原因などの各健康調査を実施している。この調査のために医師たちはサンプリングされた一戸一戸を訪問する。この仕事は派出所にまで出向いて調査することもあり、とても細かい作業となる。しかし、だからこそ総合診療医と住民との関係は広く深く築かれているといえよう。董さんが往診に行く時にはいつも親しげに声をかけてくる人に出くわす。「董先生、今度時間作って会いに行きますからね」 

給与が少なく新卒確保は困難 

  総合診療医は仕事量が多い上に内容が細かく複雑なため人手不足がたびたび問題に挙がる。「現在、新卒者を採るのは本当に難しいんです。このセンターでは自分の能力が発揮できないと考えるようで、誰もが大きな病院への就職を希望します。ここでは手術をするという業務がありません。急患だとしても病状を診て応急処置をするとこ ろまでが私たちの仕事で、その後は大きな病院へ搬送することになります」と董さんは言う。 

  この他に、給与が安いことも新卒者が総合診療医の道を歩もうとしない大きな原因となっている。北京市の衛生サービスセンターは収入の分配制度を導入している。センターの収入はいったん政府に全て提出する。その後、センター建設のニーズや従業員の人数によって再度分配される。この制度は郊外にある農村地域に従事する医療関係者を奨励するためのものだと考えられる。しかし、仕事内容に関係なく一律に支払われるこの制度は若者の熱意に応えることはできない。例えば、董さんが所属しているセンターは海淀区の中でも比較的規模が大きく、毎日400~500人の患者を診察し80人以上に注射をしている。一方、農村地域にある比較的規模の小さいセンターでは、毎日二十数人を診察するに過ぎず、注射を必要とする患者が20人を超えると、看護師は忙しいと感じてしまう。このような仕事量の差があるにもかかわらず、手にする給与はどちらも同じなのだ。 

  ここ数年、中国では総合診療医の養成を加速させ、コミュニティーの衛生サービス部への投入を増加させてきている。引き続き、優秀な若い人材をどのように確保するかという問題に取り組むことが政府および衛生機関の急務となっている。 

 

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