元東京新聞論説委員が語る:中国は日本の敵ではない
名古屋外国語大学名誉教授、日中関係学会副学長、国際アジア共同体学会理事
日本の安全保障政策の大転換が中日関係に影響
現在の中国が直面する国際環境は非常に厳しいものがある。ロシアとウクライナの紛争は1年も続いており、未だ収束の気配がない。米国もまた、中国を包囲するための主導権を握り、その力を強め続けている。このような状況で、中国はロシアや欧米との外交政策をどのように定め、緊迫した安全保障情勢にどのように対処するかに、各国からの注目が集まっている。個人的には今年の両会の記者会見で、新任の秦剛外交部長がどのように話すかに注目している。
北東アジアの安全保障情勢の変化に対し、日本政府は昨年「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」という3つの安全保障政策の文書(以下、安保三文書)を正式に採択した。しかしその内容をよく読んでみると、岸田内閣は歴代政府の中で初めて敵基地攻撃能力(反撃能力)を認め、平和憲法の重要な理念である「専守防衛」から逸脱している。国防予算の倍増は国会審議をせず、政府の閣議で決定された。これは議会制民主主義の原則に反するもので、非常に深刻なことだ。
安保三文書はまた、中国を仮想敵とみなすことを明確に述べており、昨年10月に米国が中国を「最大の戦略的挑戦」と位置付けたのに完全に従ったものだ。残念ながら、多くの日本人はことの重大さにまだ気づいていない。日本が中国を仮想敵とみなすのは、日米が同盟関係を結んでから初めてのことであり、日中国交正常化後も初めてだ。将来、日中の関係が残念ながら悪化した場合、過去を振り返ると、すべてがこの「初めて」から始まったことに気付くのではないかと非常に心配している。しかし、それではもう遅いのだ。
実際のところ、中国は決して日本の敵ではない。経済と貿易の面では、中国は日本にとって最大の貿易相手国であり、大企業から中小企業まで、約3万社の日本企業が中国市場で経済活動をしている。文化面でも中国と日本は長い交流の歴史を持ち、共通の文化的土壌を共有しており、精神的なきずなは日米同盟をはるかに超えている。経済的にも文化的にも日本と切っても切り離せない国を仮想敵とみなすことは、深刻な問題だ。
日本は平和の懸け橋となるべき
日本は米国と同盟関係にあり、地理的にも中国と隣接しており、2000年以上にわたる交流の歴史がある。激変する情勢の中で、日本が自国にとって有益な国際秩序を確保するために必要なのは、まさに地理的優位性を柔軟に活かし、米中の中間にしっかりと立ち、平和のために全力を尽くす、ということだ。
私はこれに関して具体的な提案をしている。現在、アジア太平洋地域と北東アジアには、東アジアの地域包括的経済連携(RCEP)、包括的かつ先進的な環太平洋パートナーシップ(CPTPP)、米国主導のインド太平洋経済枠組(IPEF)の3つの広域経済連携協定がある。日本はこのすべての協定に参加する国なのだから、その利点を最大限に活用し、RCEPで中国、韓国との連携を深め、中国と韓国の CPTPP への参加を促進し、共同協力を実現する必要がある。と同時に、IPEF で日本は米国と中国の懸け橋として機能するべきだろう。
日中国交正常化の10年前に当たる1962年、高碕達之助と廖承志は「日中長期包括貿易協定」に調印した。当時高碕は「貿易を阻害する政治は善政ではなく、貿易は最良の平和使者である」と述べたが、この言葉は今日の北東アジア、さらにはアジア太平洋地域においてかつてないほどの重要性を持っている。「対中経済のデカップリング」や「中国を排除するサプライチェーンの構築」など、近年見られる米国主導の一連の行動は、世界経済を分断し、平和を維持するという世界の主流に逆行している。よって私たちは小さな経済圏にまとまるのではなく、より多くのメンバーを積極的に経済連携協定に参加させ、緊密な経済と貿易関係で、米中や日中間の安全保障上の緊張と安全保障に対する国民の危機感を緩和する必要がある。これこそが、北東アジアとアジア太平洋の平和と安定に対する日本の真の貢献と言えるだろう。
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