デジタル分科会 共通のAIガバナンスを
高原=文
今年、生成的人工知能(生成AI)が新たなコンテンツを生み出す革新的技術として、世界にセンセーションを巻き起こしている。OpenAIが開発したAIチャットボット「ChatGPT」は、史上最速でアクティブユーザー数1億人に到達した消費者向けアプリとなり、関連資本市場も急速に成長している。生成AIという新たな現象と議題を巡り、今回のデジタル分科会のパネリストは「目指すべきデジタル社会とAIの共同ガバナンス」をテーマに踏み込んだ議論を行った。
デジタルガバナンスの原則
「北京―東京フォーラム」開催前夜、中国は第3回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムで「グローバルAIガバナンス」イニシアチブを発表し、各国が関心を寄せているAIの発展とガバナンスについて建設的な解決策を打ち出し、AIを巡る国際的な議論とルールづくりのよりどころを提供した。
北京大学法律AI研究センター顧問の高紹林氏は、11項目からなる同イニシアチブはAIグローバルガバナンスの基本原則とすることができると語った。デジタル分科会の準備期間中、日本側パネリストはAIガバナンスに関する4原則のイニシアチブを次のように提起した。①透明性の原則②制御不能になることを予防する制御可能性の原則③多様性の原則④人間中心の原則。高氏は、この4原則の趣旨が中国政府が打ち出した11項目イニシアチブの趣旨と極めて一致しているとした。
フューチャー株式会社取締役で日本銀行金融市場局長、元国際通貨基金(IMF)日本理事代理の山岡浩巳氏は東京都の事例を紹介し、東京都が大量の公的医療データを公共財として公開し、企業と個人がこれらのデータの活用に創意工夫を凝らすよう奨励していると語った。また山岡氏は高氏の考えに賛同し、人間中心のデータ活用が非常に重要だとした。人間中心のAIガバナンスは、当日の分科会で中日パネリストの共通認識の重要な基礎となった。
ファーウェイ日本株式会社副社長で対外広報本部長の林嘯氏は、デジタル化は人々の生活向上のためのものであり、国民の幸福な生活を実現するとの考えを示した。
中訳語通科技株式会社副総裁の張暁丹氏は自社が開発した雅典娜(アテナ)紡織インダストリアル・インターネット・プラットフォームを紹介し、それを通じて紡績業に従事する女性の労働環境が改善されたことに言及した。そして、デジタルガバナンスでは、人々の気持ちや幸福感を重視するのが大切だ。また、AI倫理委員会の設置などにより、AIによる意思決定が人間に悪影響を与えないよう確実に保証すべきだと述べた。
包摂性・慎重性・安全性
日本側パネリストはこれまで同様、議論の中でAIガバナンスの見通しに対する懸念を示した。株式会社NTTデータグループ相談役の岩本敏男氏は、偽情報や大量失業、人間とAIの関係が人間関係に取って代わることなどAIが及ぼすマイナスの影響について述べた。株式会社野村総合研究所未来開発センター長・研究理事の神尾文彦氏は、生成AIが倫理・モラル、知的財産権侵害、データ・個人情報漏えい、アルゴリズムのリスクという四大リスクをもたらすことに言及した。
株式会社日立製作所フェローの矢野和男氏はAIを犬に例え、「きちんとしつけをし、訓練してこそ、警察犬か盲導犬になり、プラスの役割を果たすことができる」と述べた。
一方、中国側パネリストはAIの未来を楽観視し、「AIガバナンスに対して包摂性・慎重性・安全性の原則を持つ必要がある」と強調した。
センスタイム(商湯科技)アジア太平洋業務事業グループ日本業務総経理の衣闖氏は、日本側パネリストはニューテクノロジーの「光」と「影」について語ったが、われわれは「光」についてもっと話したいと述べ、こう語った。われわれが接した多くの顧客はニューテクノロジーに対して非常にオープンな姿勢を持っている。中日とも少子高齢社会の経済モデルチェンジと経済成長の試練に直面している。デジタル社会を構築する上で、両国は多くの分野で協力し合えると確信している。
PingCAP(平凱星辰)テクノロジー有限公司副総裁の劉松氏はこう述べた。長期的に見ると、AIのコードとアルゴリズムはオープンソース化され透明性のあるものになり、データが公開・共有される。AIに対する当面の不安はクローズドソースとブラックボックスによるものだ。3~5年以内に、オープンソースAIが透明性や解釈可能性などの問題を解決できるとみられている。
清華大学戦略および安全研究センター特任専門家の朱栄生氏は次のように提言した。中日両国は東アジア一体化のニーズに合わせたAI発展計画とガバナンス原則を提起し、さらにそれをRCEPに盛り込み、RCEPを充実させる。双方は、仕事の仕組みを構築し、AI協力の基本原則を基礎的な枠組みとし、将来書面化して政策の参考とし、デジタル経済の協力が両国の新たな成長ポイントとなるよう後押しする。