デジタル分科会:共にAIの発展と規制促進
袁舒=文
AIガバナンス体制の構築に向けた取り組みが深化する中、相互信頼・互恵・平等・協力を基盤としたサイバースペースが徐々に形成されつつある。急速に進化する次世代AI技術がもたらすチャンスと課題を前に、いかにして適切な規制の下で技術の健全な発展を促進すべきか。この問いを巡り、中日両国のパネリストがデジタル分科会で率直かつ建設的な議論を交わした。
リスクに向き合い解決案を模索
中日双方のパネリストは、AIが引き起こすさまざまな問題に対処するには、リスク情報の共有が極めて重要であるとの認識で一致した。
株式会社NTTデータグループ相談役の岩本敏男氏は、AIの発展が短期的には人類社会にフェイクニュース(5)の拡散や失業の増加といったリスクをもたらす可能性があると指摘。さらに、AIが自己複製の能力を備え、人間を超える「知能」を持つ未来が現実化すれば、人類がAIに支配される可能性も出てくるとし、こうした長期的リスクに対する警戒が必要だと強調した。
鵬城実験室上級技術顧問で中国工程院院士の丁文華氏は、現在のAIガバナンスにおいて、理念の細分化や具体的な実施計画に関する国際的な意見の相違が顕著であると指摘。倫理はAIなどのテクノロジーを発展させる上での価値理念および行動規範であり、AIの倫理的課題への取り組みが不可欠であると述べた。同じく、科技日報社総編集長の許志龍氏も、AIが革命的な技術であるがゆえに、技術進歩と安全・倫理の均衡を図り、AIが人類社会の発展に資する存在であり続けるように規制すべきだと強調した。
また、北京智源人工知能研究院院長の王仲遠氏は、AI技術の健全かつ秩序ある発展を促すため、国際社会が早急に合意を形成する必要性を提唱。具体的には、AIを利用した生物・化学兵器の製造や大規模なサイバー攻撃の実行、詐欺、権力の奪取などを禁じるべきだとした。
さらに、株式会社野村総合研究所未来創発センターのセンター長・研究理事の神尾文彦氏は、各国が独自にルールを制定することで生じる問題を指摘。国際的な基準の欠如は、他国のAI製品やサービスへの信頼を損ね、両国間の製品流通を妨げるだけでなく、企業の対応コストを増加させる恐れがあると述べた。
統一基準とガバナンス体制の構築
デジタルの世界に国境はなく、AI技術のガバナンスには国際的な協力が求められる。特に、国際基準の策定や倫理フレームワークの構築において、中日両国は積極的な役割を果たすべきである。
北京大学法律・人工知能研究センター顧問の高紹林氏はAIガバナンスの基本原則、すなわち「人間中心」「科学技術の善用」「イノベーションの奨励」「安全性の確保」「透明性の維持」「公平性と包摂性の追求」、そして「段階的な発展」といった理念を改めて強調した。
国際医療福祉大学特任教授で元財務官の山崎達雄氏は、中国と日本がそれぞれAIガバナンスに関する一定の基準や規範を形成しているとした上で、中国はAIの社会的応用において日本を大きくリードしており、法制度整備への試みも進んでいる。日本には中国から学び、参考にできる点が多いと述べた。
中国民営経済研究会副会長で零点有数董事長の袁岳氏は、規制モデルの視点から中国の経験について説明した。袁氏は、政策の選択は国家の技術発展の現状と目標に基づいて慎重に判断すべきだと指摘。中国では、規制の方式として「事後対応」を採用する傾向があり、まず技術の発展に自由な空間を与え、問題が顕在化した後に遡及的にガバナンスを行う手法を取っている。こうしたやり方は事前規制と比較して、企業にとって発展しやすい環境を提供しつつ、リスクへの効果的な対応も可能にしている。また、AI技術の進展は明確な段階性を持っており、初期の探求、中期の課題解決、後期の応用と、それぞれの段階で予測困難な問題に直面する可能性がある。日本側パネリストは中国で積極的に活用されている「規制のサンドボックス」について、技術革新の自由度を確保しながら、潜在的リスクにも柔軟に対応できる点に大きな関心を示した。
互いの強みを生かして協力を深化
双方のパネリストは、中日間におけるAI分野での協力の可能性は非常に大きいとの見解で一致した。鵬城実験室主任で中国工程院院士の高文氏は、現在AI技術が医療、教育、司法など多くの分野で広く応用されていると述べ、スマート医療は誤診率を下げ、スマート教育プラットフォームは個人ごとの学習プランを策定し、スマート法廷は科学的な調停案を提供できるといった例を挙げた。これらの技術は業務効率を大幅に向上させており、健全な規制の枠組みの下で、世界中で普及・共有されるべきだと提言した。
自民党副幹事長で衆議院議員の塩崎彰久氏は、厚生労働省ではハローワークにAIを導入する試みを進め、業務効率向上を目指していると紹介。この取り組みは、中日両国が公共サービス分野におけるAI応用で協力する上で示唆を与えるものだとした。
開発者や規制当局の間で幅広く深い交流を行うことは、情報共有を促進し、協力を深める鍵となる。神尾氏は、国際基準の導入を共に進めるだけでなく、NPOが主導する形でオープンソースのコミュニティーを構築し、AI評価システムについて共に議論する場を設けることを提案した。また、フューチャー株式会社取締役で元日本銀行金融市場局長の山岡浩巳氏は、中日のAI発展のスピードや進展段階は異なるが、こうした建設的な議論は距離を縮め、認識を統一する助けになると評価した。
中日間の具体的な協力の道筋について、袁氏は、日本が介護やアニメーション制作の分野でAI応用において世界をリードしている一方で、中国はAIを活用した新素材の研究開発などに強みを持っていると指摘。中日両国がそれぞれ特化した分野の強みを生かしながら、相互補完的な協力を深めることで、新たな産業の成長と発展を促進できると提案した。