安全保障分科会:メカニズムの早急な構築を
王焱=文
近年、北東アジアの戦略的環境には複数の不安定化の兆候が見られ、地域の安全保障と安定に試練をもたらしている。中日両国がいかにして相互信頼と協力を堅持し、北東アジアの平和と安定を守るべきかということは、このたびの安全保障分科会でとりわけ注目を集めたテーマとなった。
大国関係の不均衡による影響
国観シンクタンク首席研究員の張沱生氏は現在の北東アジアにおける戦略的環境を系統立ててまとめ、北東アジア地域の大国関係の深刻な不均衡は地域の安全保障環境に影響を及ぼす最大の要因であると述べ、その例として主に以下の点を挙げた。中国、米国、ロシア、日本の4カ国は比較的長期にわたって協力と協議を主とし、摩擦と対立を副とする状態が続いてきたが、競争と対立を主な特徴とするように変わってきた。台湾海峡と朝鮮半島の安全保障情勢がより緊張を増してきた。朝鮮は核戦力を大いに強化し、韓国においても自国で核を持つべきとの主張がより多く現れ、北東アジアは世界で核拡散リスクが最も深刻な地域となった。地域内の多くの国家間に長きにわたり存在する領土主権と海洋権益に関する争いがたびたび生じている。ロシアと朝鮮の同盟が復活するとともに深まる一方、米日・米韓の軍事同盟が米日韓3カ国の軍事同盟へと発展する傾向にある。北東アジア地域の軍備拡張競争が非常に際立っている。
また、北東アジア地域では多国間の安全保障対話・協力メカニズムが依然として欠如している。張氏は東南アジアが冷戦終結後に東南アジア諸国連合(ASEAN)を中心としてさまざまな安全保障対話・協力メカニズムを打ち立てたのに対し、北東アジアには現在もなお多国間の安全保障対話・協力メカニズムが存在せず、そのことは各国が重要な共通利益を有する非伝統的安全保障分野でも同様であると指摘し、かつて開催されていた6カ国協議が長年にわたり中断されているのは遺憾なことだと述べた。
ただし、北東アジアの戦略的環境にはポジティブな面もあると張氏は指摘し、北東アジアは依然として世界で経済・科学技術の発展が最も目覚ましい地域の一つであり、経済協力は安全保障面での協力を進める上での重要な基礎であると述べた。さらに張氏は、中日韓が互いに主要な経済・貿易・科学技術協力のパートナーであることは地域の安全保障面での協力にとってプラスであると語った。
安全保障面で協議
張氏の発言は中日のパネリストの幅広い賛同を得て、双方は数々の具体的な問題について相次いで交流を行った。北京大学国際関係学院副院長の帰泳濤氏は、安全保障分野のいくつかの部分で中日は互いに協議し、コンセンサスに達することが可能であるとの考えを述べた。また、帰氏は日本側パネリストの「一般的な日本人は冷戦思考(7)によって日本外交を捉えることはない」との発言に同意したが、現在の米日韓関係が3カ国軍事同盟に変化しようとしている傾向について、一部の国が推し進める冷戦思考に基づく国際戦略に日本が巻き込まれることへの懸念を示した。さらに帰氏は、冷戦期に日本は経済重視・軽武装の路線を取り、米国主導の東西対立に巻き込まれることを避けたと指摘し、今日の日本がこのような歴史から経験をくみ取り、自国の利益と立ち位置をはっきりと見定めるよう希望すると語った。
核問題について、中国社会科学院日本研究所政治研究室副主任の張暁磊氏は、「拡大抑止」は冷戦期の思考および政策手段であり、米日韓の「拡大抑止」メカニズムは北東アジアの安全保障に資することはなく、むしろ地域の安全保障上のジレンマを深刻化させるとし、現在の北東アジア地域は早急に危機管理メカニズムを打ち立てる必要に迫られているとの考えを述べた。
歴史問題に関しては、日本側パネリストから中国側に、中国の人々は日本政府が「お詫びの姿勢」を示していることを知っているのかという質問があった。中日友好協会常務副会長・元駐日本中国大使の程永華氏は、中国の人々は1995年の「村山談話」を広く知っており、その姿勢は比較的明確で分かりやすいが、それ以降の日本政府の歴史問題における謝罪の姿勢は次第に弱まり、中国の人々の間で疑問が生じていると語った。さらに程氏は、広島平和記念資料館でここ数年、先の大戦がなぜ引き起こされたのかを紹介する第一章の部分がますます短く、内容が少なくなっていると述べ、日本が戦後歩んできた平和的発展の道を堅持するよう呼び掛けた。
ある日本側パネリストは中日両国間の領土主権と海洋権益の争いが危機を引き起こす可能性への憂慮を示した。それに対し、北京大学国際関係学院教授の賈慶国氏は、領土問題は非常に敏感なテーマであり、民間感情の対立を容易に生じさせるが、そのために中日が衝突することがあってはならず、対立は両国間のより大きく重要な利益を損なうだけであると語った。
台湾問題について、日本側パネリストは関心を示す一方、中国側パネリストも中日関係の政治的基礎である「一つの中国」原則を明確にした。中国社会科学院日本研究所総合戦略研究室副主任の孟暁旭氏は、台湾海峡地区の平和と安定は非常に重要であり、いずれにせよ台湾問題は中国の内政問題であると述べた。
安全保障分野での相互交流
東アジア地域で平和と安全を確保するための国際的なメカニズムを打ち立てる上では数多くの困難と大量の手を焼く敏感な問題が存在するが、張沱生氏は悲観的になりすぎる必要はないとの考えを述べ、危機・対立の管理とコントロール、衝突へと向かうのを防ぐことこそが解決の方法であると指摘した。そのほか、中日は気候変動や世界規模で流行する伝染病への対処、災害救助、人道主義に基づく援助、海上捜索救助といった非伝統的安全保障の面で引き続き協力と対話を強化できると張沱生氏は語った。
パネリストたちは中日両国の学術交流を強化する必要があるとの考えを示した。張暁磊氏は同じく安全保障分科会にパネリストとして出席している慶應義塾大学名誉教授の添谷芳秀氏の著作を以前拝読し、大いに得るものがあったと述べた。添谷氏はそれに応えて、安全保障分野には多くの日本の学者による優れた論著があり、中国側パネリストにそれらの観点を中国国内に紹介してほしいと語り、それと同時に日本側も中国の優れた学者の文章をいっそう学ぶことで相互理解を深める必要があるとの見解を語った。