異国の友ーー中国人実習生との交流
吉田 師己
私は地方の自動車会社で働いている。ある日突然、私と中国人との交流が始まった。製造ラインの班長からの誘いにより、班内でのバーベキューに参加することになった。その時期はちょうど5月で新入社員も多い時期だった事もあり、中には顔を知らない人も含まれていた。
そんな中で、一人の新入社員が会話の輪に入れていないことに気付いた。彼は困ったような表情をしており、私は思わず声をかけてみることにした。「こんにちは、名前は何? 仕事は慣れた?」と尋ねると、彼は困惑した表情で「わからない、僕は中国人」と、カタコトの日本語で答えた。彼こそ、私と中国を繋ぐきっかけをつくった存在で、新入社員では無く、中国から来た外国人実習生である。
初めての出会いに戸惑いながらも、彼の淋しげな表情と私の日本語を何とかして聞き取ろうとする熱意ある姿を見て、このままコミュニケーションをとろうと決意した。ただ、私は中国語が全く分からず、彼も日本語が得意ではない。そこで、翻訳アプリを駆使して、お互いの言語を超えてコミュニケーションを取る事にした。
「名前は?」「何歳?」「なんで日本に来たの?」
彼は大学を卒業したばかりで、派遣会社を通じ3ヶ月間だけ日本語を勉強した後に日本に来たらしい。日本に長く住んでいる中国人と知り合った事はあるが、日本に来たばかりの中国人に会うのは初めての経験だ。
その翌日からも私たちの交流は途絶えず少しずつ深まっていった。工場内を歩いていると彼は笑顔やジェスチャーで意思疎通を図ってきた。そして彼の日本語は、次第にお互いの文化や趣味、仕事について話せるほど上達し、いつしか彼とその仲間、私の家族や友達と一緒に食事をしたり出かけたりする関係になっていた。彼らの中国人視点から見た日本の文化に触れる機会が増え、私たちの考え方や視野が広がっていくのを感じ、会うたびに清々しい気持ちになった。
帰国の時期が迫ってくると、彼らから「最後にお礼がしたいから寮で食事会をしましょう」とお誘いを受けた。当日、彼らが手作りした彩鮮やかな料理と共に、日本での思い出を語りながら楽しい時間を過ごした。まるで家族に限り無く近い友達のような存在だとお互いに感じていたのかもしれない。しかし、本場の中華料理の味を噛みしめながら彼らが「異国の友」である事を再認識させられ、いよいよお別れだという実感も湧いてきた。
食事会の最後に、お互いに深々とお辞儀をしながら「日本にいる間はお世話になりました」とお礼を言って、約10か月間の日本での生活を終えて帰国した。
彼らと出会う前の私は、言葉が通じない中国人に冷たい態度で接していた。恐らく潜在的に言語に対する恐怖心が壁となり、誰かに刷り込まれた中国人に対する偏見により壁の向こう側が曇って見えていたのだと思う。だけど実際の中国人は私たちが思っている以上に礼儀正しくまじめで優しい。今まで何人もの中国人と仲良くなれる機会を見過ごして来たのかを考えると後悔してしまう。私は相手の事を理解しようとする熱意と少しの勇気を持てば、言語の壁があっても「異国の友」は作れると彼らから学んだのである。
彼らが帰国し5年以上経った今、私は中国語の勉強しながら中国人との交流を続け人脈も増えつつある。しかしながら、中国で生活していた外国人実習生は、言語が壁となり大半の人たちは日本人と友達以上の関係にならぬまま帰国する。
だからこそ多くの人に些細なきっかけからでも彼らと交流してみてほしい。偏見の無い彼らの真の姿を見れば、日中関係は良くなると信じているからだ。