出会い
加藤 麻子
「起立!老师好。」「你们好。」
今日はどんな学びがあるだろう、どんな文化に触れられるのだろう。私はこの挨拶をする度、心が弾んだ。
高校2年生の春、第二外国語の選択授業で中国語を選択した。全く触れたことのない言語を学ぶのは不安だったが、私は抱えていた不安を一瞬で楽しみに変える事ができた。なぜなら、中国語を話していると歌を歌っている気分になるからだ。当時、合唱部に所属していた私は、声調をすべて音符として捉え、歌うように中国語を学習した。また、授業では中国の文化や歴史、アニメや映画などを通して中国の魅力を教わった。私は努力家でとても穏やかな先生が大好きで、中国語の授業が毎回楽しみで仕方がなかった。そして、いつしか先生はわたしの尊敬する存在になった。
そんな先生から、高校3年生の秋、中国語のスピーチコンテストの出場募集があった。幼い頃から人前に出るのが苦手な私。しかし、私はその時、迷うことなく出場することを決心した。出場しようと思った動機は思い出せないが、コンテストに出れば何かが変わると思った。そのコンテストは予め決められた文章を読み、発音や表現力などが問われるものだった。私は必死になってA4の用紙いっぱいに書かれた中国語の課題文を何度も音読し、全て暗記した。その際に先生や中国人の大学院生の方がとても熱心に指導してくださり、発音について猛特訓した。
当日、先生方が見守る中、大勢の方たちに囲まれてコンテストが始まった。結果は優秀賞で3位。私は今までに味わったことのない達成感で満ち溢れていた。幼い頃から極度の緊張症で、中国語を習うまでこれと言って得意なことがなかった。ましてや、今まで大会に出て賞をいただくという経験はなかった。その私が5分ほどにわたる中国語の文章を原稿を見ずにまっすぐ前を見て読み切ったのだ。コンテストが終わった時、新しい自分に出会えた気がした。そして、ありきたりではあるが、「努力は報われる」ということを身に沁みて感じることができた。
時は流れ、高校を卒業。私は医療の現場で活躍したいという想いがあり、臨床検査技師の専門学校に進学した。入学後は思いの外忙しく、大好きな中国語を勉強する時間はなかった。あっという間に1年が経とうとしている時、私は地元のギタリストのコンサートへ足を運んだ。偶然にもそのギタリストの方は以前、長期間中国に滞在していたそうで、流暢に中国語を話せるという。私は、彼に「何か中国語を喋ってみてください」と言われ、中国語で簡単な自己紹介をしてみた。すると、彼に言ったことが全て伝わり、中国語で会話をすることができた。ブランクはあったものの、その時、私は自分の中国語でコミュニケーションを取れたことに大きな喜びを感じた。そして、彼が後日、中国の伝統楽器「二胡」の演奏者とコンサートをするという話を聞き、授業中に先生が二胡の話をしていたのを思い出した。私は久しぶりに先生に連絡し、一緒にコンサートへ行くことになった。先生も私も二胡の奥深く優しい音色に魅了され、一瞬にして虜になった。そして、先生は以前から二胡をやりたいという願望があり、今はその二胡奏者のお教室に行って習っているそうだ。私は先生と二胡奏者の方を繋げることができてとても嬉しかった。
先生とのかけがえのない出会い。中国語との出会い。音楽との出会い。私はこの出会いを忘れることはないだろう。今後医療の道に進むが、これからも何らかの形で中国語に携わりたい。卒業する時に先生が言った。
「人生に迷った時は中国語が得意だということを思い出し、進む道の選択肢として中国語を活かす道があるということを忘れないでね」と。私は人生の岐路に立たされた時、この言葉を思い出し、前に進んでいきたい。