撃ち抜かれた日

2023-10-23 15:42:00

中根 ひかり


人生の変わり目はいつも突然にやってくる。そして偶然。

高校2年生のある日まで私は毎日をのほほんと生きていた。この時期は、大人でもなければ子供というわけでもなく、自分の将来について真剣に考えたり、考えずに夢を思い描いたり。なんとなく毎日が過ぎて、いつの間にか一年が過ぎているーそんな日常を送っていた。あの日までは。

私の人生が変わったのはコロナ渦に入ってしばらくした頃だ。この頃になると、段階的に学校に通えるようになってきた。コロナが流行って、学校に通えなくても、特段私の人生に大きな影響は与えていなかった。今までも授業は教科書に沿った内容だったし、家でも学校でも学ぶ内容に大差なかった。友達とはteamsでつながっていたから、寂しいとも感じなかった。しかし、圧倒的に何かが欠如していた。私の人生を構成するために必要なパズルのピース、あるいはひとつの歯車といってもいいかもしれないもの、とにかく何かが足りなかった。しかし私はそれが何かわからなかった。

分散登校日。私は久々に会えた友達と歓談していた。勿論マスクは着用していた。しかし、私と彼女の表情は決定的に異なっていた。なぜかはわからなかったが、なぜかその時、「負けた」と思った。そして彼女は言った。「ねえ、ひかりって推しとかいるの?」と。「推し」という概念自体は知っていた。だがそれが何か全くわかっていなかった。というのも、私は生来飽き性なもので、何かに熱中することがあまりなかったからだ。正直、私には必要のないものだと思っていた。続けて、彼女は口を開いた。「ひかりも見てみてよ、JO1。」友達によると、オーディション番組出身の男性アイドルグループだそうだ。JO1の曲を聞こうとしたときー今思えばこれは神様のひそやかないたずらだとしか思えないがー、マウスがおすすめ表示に出ている別の動画をぽちっとしてしまっていた。急いで戻ろうとしたが、次の瞬間、息が止まった。

「フェンファンのファンファンになってください」という声とともに満面の笑みの、とんでもなく可愛い男性がいたのだ。彼の名前は許豊凡。中国人だが、日本のINIという、JO1の弟グループに所属するメンバー。きっかけはJO1推しの友達との何気ない会話からだったが、この数秒で、私は確実に撃ち抜かれた。その日から私の人生は変わった。私の人生にとって必要な1ピースが増えた瞬間だった。フェンファンは日本語、中国語、韓国語、英語を全てネイティブレベルに使いこなす。中国語は彼にとって母国語であるから当然といえば当然だが、普段は日本語を話すため、たまに出るフェンファンの中国語は美しかった、というより尊かった。そんな中国語を聞いて何もせずにいられるだろうか。否、中国語を勉強しなければ気が済まなくなるのだ。幸いにも私の高校では中国語かフランス語を選択できたため、迷わず中国語をチョイス。一つ単語を覚えるたびにフェンファンに近づけたような気がして幸せだった。私はその日に覚える単語の量を決め、それが達成できたらフェンファンの動画を見る、もしくは歌を聞くということをしていた。毎日フェンファンに会うために必死に覚えていた。そしてとうとう、HSK2級に合格した。

ちなみに、例の友達にフェンファン推しになったことを報告すると、彼女にとって彼は二推しだったらしく、「かっこよくて可愛いよね、フェンファン!」と、2人で話が盛り上がったのを覚えている。バレンタインデーにお互いにチョコ替わりに自分たちの持っているフェンファングッズを交換するほどだった。そして受験期を乗り越え現在私は大学で中国語を学んでいる。今の目標はHSK4級まで取ることだ。私はこれからもフェンファンを推すために、いや、フェンファンの故郷である中国もすべて推すためにこれからも中国語を学び続けようと思う。

 


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