シャンシャンに捧ぐラブレター

2024-01-25 15:01:00

遠藤英湖

 

 東京・上野動物園のジャイアントパンダ「シャンシャン」。5歳になった彼女が2月21日、四川省に渡航することを人々は「シャンシャンの中国留学」と表現する。そこには「中国で赤ちゃんを産んで、いつかまた家族で“実家”の東京に戻ってきて欲しい」という日本のファンの期待と願いが込められている。

 私がシャンシャンと出会ったのは2020年秋。「帰国する」とのニュースを見て急いで会いに行き、一瞬で恋に落ちた。「パンダを見にいく」という気持ちは、すぐ「シャンシャンに会いにいく」に変わり、今ではすっかり「上野の姫様に謁見する」になってしまった。

いろいろな「専門用語」も覚えた。パン活(パンダの推し活)、パン友(パンダつながりの友人)、隙間産業(大勢の人の頭の隙間からパンダを撮影する)、シャンモック(シャンシャンのハンモック)、そしてシャンシャンの親友・カラスの「カ太郎」の名前まで。

シャンシャンはパンダをアイドル化した。彼女の動向はメディアで大きく報道され、その内容に日本人は一喜一憂する。書店にはシャンシャンの写真集やDVDが並び、『パンダ自身』という雑誌も大人気だ。上野動物園内のギフトショップに行けば、女性タレントが歌う「ありがとうシャンシャン」が流れる中、みんな次々と発売されるシャンシャンの新商品を手に取り、目を輝かせている。「商品を買うとシャンシャンのステッカーや缶バッジをもらえる」とのお知らせがインターネットで発表されると、多くの人が上野のデパートや駅ビルに殺到、記念品をもらって嬉しそうな笑顔があちこちに溢れるのだ。七五三(子供の成長を祝う日本の伝統行事)ではシャンシャンの成長をみんなで祝い、クリスマスには上野駅にシャンシャンのクリスマスツリーまで登場。毎年シャンシャンの誕生日には上野駅の発車案内版にお祝いメッセージが表示され、5歳の誕生日にはシャンシャンに会うためファンは240分並んだ。現在、上野の老舗デパートの入り口はシャンシャンの写真920日分を使って制作された大きな懸垂幕が飾られ、館内もシャンシャン一色だ。その他各種写真展やファンから寄せられたメッセージなど、上野の街全体でシャンシャンにラブコールを送っている。

シャンシャンはどうしてこれほどまでに私たちを夢中にさせるのだろう。上野で生まれた彼女の成長を娘や孫のように見守ってきたこと、インターネットの発展で彼女の日々の様子を目にすることができたこと、コロナ禍での「延長」で5年8カ月も日本にいてくれたこと。このような理由に加え、「宇宙一の美少女」なのに、面白い表情をし、お転婆で奇想天外なことをするギャップが私たちの感情を大きく揺さぶるからではないだろうか。

シャンシャンの魅力にとりつかれた私たちは長時間並ぶことも厭わない。遠くから夜行バス、新幹線、飛行機で来る人も。自由観覧できる最終日(1月20日)が近づくにつれ、開園前から動物園の前に並ぶ時間はますます早くなり、人の列もどんどん長くなっていった。

私も他の人たちと同様、レジャーシートや折り畳み椅子などを持参して何回も並んだ。5時に行った日は空が真っ暗で心細かったが、徐々に太陽が昇ってきてホッとした。静謐な朝の大気に響く雅楽の笛の音や、ラジオ体操に参加したことも深く印象に残っている。9時半になり、警備員さんの指示に従い、期待を膨らませながら入園。寒さに震えながらシャンシャンと会えた喜びはひとしおだった。

とうとうやってきた1月20日。午前3時に窓を開け、冷たい雨に肩を落とす。冷凍庫の中のようで早く行くのはあきらめた。始発電車の前から自転車で行った人や、前日夜から並んでいた人の話を後で聞き、絶句した。最終観覧の受付締切は12時30分。前後に並んだ数人と中国やシャンシャンの思い出などについておしゃべりし、足腰が痛くなったら励まし合った。270分後に会えたシャンシャンは、閉園の「白鳥」の曲が流れる中、幸せそうな笑顔で寝ていた。彼女らしいユーモラスなしぐさに、涙を流しながらみんなで笑い合い、再会を約しながら家路についた。

現在、シャンシャンは抽選で当たった人だけ見られる。きっと多くのファンが、シャンシャンに会えても会えなくても、彼女と同じ空気を吸いに出発の日まで動物園に集まるだろう。

一頭のパンダをこんなにも深く愛する日本人の心を中国の方々に知って頂きたい。そして、日本の方々にはシャンシャンをきっかけに中国にもっと興味を持って頂きたいのである。

人生でこんなに行列に並ぶことはもうないかもしれない。今は寂しいけれど、時が経てばシャンシャンに夢中になり、熱狂的な日々を過ごせたことは、忘れられない宝の思い出となるに違いない。

あと一日、あと一日と、私は今日もまたシャンシャンとの永遠の思い出をつくっている。この「Panda杯」に寄稿したのも、長年パンダが大好きなだけでなく、シャンシャンというかわいいパンダの物語を通じて、パンダたちの明るい未来、そして日中の友情が末永く続くことを願いたい。

 


パンダが大好きな作者は、日中友好への深い思いと、自身の経験を通して皆に共通のシャンシャンの思い出(集合的記憶)を記録するために、この文章をPanda杯に寄稿しました。

 

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