国境を越える「おもてなし」

2022-10-26 11:21:00
光井 大和

私の両親は「反中国」だった。テレビで大気汚染や、治安に関するニュースが報道されるたびに、彼らが必要以上にそれらを非難する言葉を幼い頃から聞いていた。時にそれは、民族性をも否定することもあった。日中関係への理解・歴史背景を知らなかったその頃の私は、両親に対して「どうして」という疑問を常に抱いて、胸が苦しかったのを今でも覚えている。そして同時に、日中関係に対する興味を持ち出した。

高校生の時にイギリスのホテルで働くある日本人のドキュメンタリーを見た。そこで、肌の色・言語、そして文化が違う中、それらを全て加味しながら、ただひたむきにお客様の幸せを考える姿が目に入った。その瞬間にホテルマンへの大きな憧れとホテルができる日中関係改善に対する小さな可能性が見えた気がした。そして、大学生になりその小さな可能性を確信に変えてくれる体験をした。

大学では現代中国について、文化や、政治などの多角的な目線を用いて研究している。ある中国文化についての授業で、中国国内には「医食同源」と呼ばれる文化が存在していることを知った。この考え方は主に、口するものは全て生命・健康に直結する源だというもので、食事を大切にするものであった。ここで最も驚いたことは、氷の入ったものや、冷たすぎる飲み物を好まない地域もあり、そこでは体が冷える可能性が彼らが好まない1つの理由だという。

現代中国に対する研究を進めるのと同時に、私はホテルで宴会サービス員としてアルバイトを始めていた。そして、ある夕食会で中国人の夫婦と出会った。その時、私の認識として彼ら以外のお客様は全て日本人で、サービス員は彼らを中国人だとは知っていたが、特に何も気にせずに接客をしていた。彼らのテーブルを見に行くと、氷の入ったお水が全く手がつけられていないことが分かり、私はすぐに「氷が入っていない飲み物もございますが、他に何かいかがでしょうか」と尋ねると、日本語が少し話せる旦那様が笑顔で「日本でその質問をされたのは初めてです。私は冷たい飲み物が苦手なので本当に助かりました。常温のお水を下さい」と答えを頂いた。私は今でも彼の笑顔を忘れることができない。そして、慣れない土地であるからこそ、ほんの少しの配慮が一人一人の日本に対する印象を良くすることが出来るのではないかと考えました。また、少しの配慮もなければ、逆の感想を持たせてしまうことになるでしょう。

日本と中国のメディアの伝え方には1つの「共通点」があると思います。それは相手国の良いニュースよりも、悪いニュースの数の方が多いことです。人と人がコミュニケーションを取る上で最も欠かせない「相手の良いところ」を手軽に知ることが難しいのが現状です。だからこそ、今の日中関係には良さを知ることができる機会が必要だと思います。そして、その機会に最も相応しい場所が「宴会」ではないかと、アルバイトの経験を通して考えました。特に私がやりたいことは、両国の影響力のあるアーティストをお呼びした食事付きの音楽イベントです。音楽と食事の双方の文化交流が互いの良さを見出す最善の方法だと思います。それらが各国で放映されたとすれば、国民が相手国を知りたいという大きな糸口になるのではないかと考えています。私は現在これを成功させることを目標に中国への研究、そしてアルバイトを日々頑張っています。もちろん、途中で疲れて、辞めてしまいたくなる時もあるのですが、そんな時にいつも自然と脳に浮かんでくるのがあの旦那様の笑顔です。彼の笑顔のような記憶に残る「おもてなし」を私はしていきたいです。

 

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