「これだから中国人は」

2022-10-25 14:39:00

堀之内 遥 


家族は、「コロナウイルスの発生地、中国武漢だって、これだから中国人は。」と言った。友達は「鬼滅の刃を中国がパクったんだって、これだから中国人は。」と言った。それから「この服、もうほつれたよ、これだから中国人は。」とも言った。

そして、ついこの間まで私も思っていた、「これだから中国人は。」と。

半年前、横浜の居酒屋でアルバイトを始めた。個人経営の小さな店だが、毎日沢山のお客さんが来る。そんなだから、私を含め13人のアルバイトは仲が良く和気あいあいと仕事をしている。そのうちの4人が中国人だ。彼らは家族で日本に住んでいて、日本語学校に通い、卒業した者は調理師専門学校に通いながらアルバイトをしている。

私は、ここで初めて同年代の中国人と出会った。初めて中国人と話した。いや、本当に初めて話したのは横浜中華街で手相占いの勧誘をされて断った時だが、「会話」をしたことは生まれて初めてだった。彼らは私の知っている、「これだから」の中国人ではなさそうだった。4人の中国人は、必ず2人はシフトがかぶるから、キッチンで2人はいつも中国語で話をしている。容姿も言葉も、私が知っているテレビインタビューで話す知らない中国人と何も変わらないのだが、なんだか違う気がした。4人のうちの2人はもう日本語がかなり上手で、私と冗談を言って笑いあえる。もう2人は日本語勉強中、私も彼らに日本語を教えることがある(と言ってもその大半が居酒屋メニューだが)。

彼らの話す言語を半年間耳にし、日本語を教えながら話していく中で、私は「彼らが日本を知ろうとしているように、私も中国が知りたい。」と思うようになり、大学2年生の春に第二外国語で中国語の授業を取り、勉強を始めた。中国語を学び始めたことを彼らに伝えたら、バイトに行くたびに「ハル、勉強ドウ?」と聞いてくれるようになった。「マー、マー、マー、マーでしょ? 第3声が難しい。」と私が言うと、「ソレ、小学校レベルヨ~!」と笑いながらも教えてくれる。もう私にとって彼らは、私の中国語の勉強を気にしてくれるバイト仲間であり、「これだから」の中国人ではない。ソウとガクとウキとヨウちゃんだ。

…ん? 待てよ? と思う。「これだから」の中国人ってこの世に存在するの?…しないのでは? 行ったことのない土地の知らない人であっても、本当にそこの人々は「これだから」の相手なのだろうか? ソウみたいに恋バナで盛り上がれるような、ガクみたいに私の勉強の進度を気にしてくれるような、ウキみたいに私のことをふざけて「姉さん」と呼ぶような、ヨウちゃんみたいに差し入れのお菓子を半分こして食べるような、そんな人たちなのではないのだろうか。いや、きっとそうだろう。

私は、彼らに出会ってから「これだから中国人は」という言葉には積極的に反論している。中国人についてだけではない。最近多い「これだからロシア人は」という言葉にも反論したい。

違うんだって!彼らはあなたとは違う土地や環境で育ったけれど、彼は彼で彼女は彼女なんだって!あなたと中国人の関係はあなたと私の関係と同じ! 何も変わらない! たった1人でいいから出会ってみて! 話してみて! それでもうわかるから! その中国人だけが特別で、中国に住む中国人は違うかもしれない? たしかにそうかもしれない。私も日本にいる中国人しか知らないから。でもね、そんなこと関係ないよ! 日本人の中にも良い人と悪い人がいるじゃない! そんなものよ。話せばわかるって、中国人って面白くて優しくて賢いってね!!

半年前、横浜の居酒屋でアルバイトを始めて良かった。お札の数え方よりも、酔っ払いおじさんのかわし方よりも、それからお給料よりも大切なものをここで得ることができた。私のような素敵な経験のしたい方は是非。アルバイト、募集中です。



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