バイアスから脱却する第一歩

2022-10-25 14:58:00

清水 美雪


「中国」と聞くとどんなイメージがあるだろうか。恥ずかしながら、私は無意識のうちに中国、中国人に対してネガティブなイメージを持っていた。それに気づかされた瞬間とそのイメージを払拭したのは、カナダ留学中の中国人の友達との出会いである。

大学1年生の時、英語を学ぶためにカナダのトロントに語学留学をした。語学学校ではヨーロッパ、アジア、中東、アフリカと様々な地域から学生が集まっていた。その最初のクラスで同じになった一人の女の子がいた。Karenという中国人の同じ年の女の子だった。

彼女と私はつたない英語であったが、仲良くなるのに時間はかからず、お互いの家族の話、学校の話、好きな人の話をするようになった。話せば話すほど、彼女はものすごく勉強熱心で向上心が高く、一人の人としてとても魅力がある人だと思い、尊敬していた。学校のクラスでもお互いを切磋琢磨するよきライバルであり、仲間であったように思う。また、彼女は日本のアニメが好きで、日本語を勉強していつか日本に来てみたいと私によく話していた。私はとても嬉しく思い、彼女が日本に来る際は絶対に案内するからね、と約束した。

3か月ほど経ち、彼女の中国への帰国が近づいて最後の思い出作りに彼女を含めた数人でアメリカに旅行に行った際、ある出来事が起こった。観光地のランドマークの写真を撮るためにできた行列に、中国人らしき人が割り込みしてきた。私はムッと来て「列の最後は後ろです。みんな待っているので、あなたも並ぶ必要があります。」と伝えた。彼らは私の英語は聞こえないふりをして、列に並ぶことはなかった。その時、彼女は「ごめんね、中国人は失礼で…」と私に言ったのだ。私はその時、「あなたは中国人なのにすごく礼儀正しいし、とても優しいね。日本人の私にもすごく良くしてくれるし…」と言おうとしてハッとした。私が中国人に対して持っていたイメージは、礼儀正しくなくて日本人を嫌っている、というものだと自分の中で気づいたのだ。自分の中に中国人に対する勝手なバイアスがあったのである。そもそも彼女が私に謝る理由なんて何一つない。割り込みをしてきた人間と彼女は別人であり、関係ないのだ。彼女に謝らせてしまい、自分が持っている中国人に対する偏見に気づいた私は、急に自分が恥ずかしくなった。その件があってから、人に対する見方が大きく変わった。「○○人だからこう」というイメージを持つ前に、目の前の人を一人の人間としてどんな人なのかを見ようとする心が大切であり、その人がどんな人かを判断する必要がある、ということを学んだ。

そんな彼女は2019年、念願だった日本に旅行に来て、約束通り日本を案内することが叶った。数年ぶりに会った彼女は英語も当時から想像できないほど流暢で、イギリスの大学で勉強しているとのことであった。グローバルに活躍するという夢に向かう彼女を見て、自分のモチベーションも刺激された。今でも彼女とは連絡を取り、お互い切磋琢磨し合う良い関係を築けている。私も彼女に負けず、日本を超えてグローバルに活躍する人になるため、外資系の企業で働いている。仕事で出会う人も多様であり、海外の人はもちろん、日本人の名前だがずっと海外で育った人、両親が外国人だが日本で育った人など、ダイバーシティに溢れている。

私はあの日から、自分が関わるどんな人達に対しても、国籍や見た目、宗教などで判断せず、自分が感じたこと、見たことを通じて相手を知り関係を築いていくよう心掛けている。そのきっかけをくれた中国出身の彼女に感謝を伝えたい。


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