匠の精神

2022-01-07 11:26:16

武漢工程大学 理学部卒業生 楊剣萍

 

2015年から放送されているドキュメンタリー「僕がここに住む理由」は、日本人監督、竹内亮さんによるシリーズ作品である。これらの作品を通して、私たちは日本人の「匠の精神」を垣間みることができる。

竹内氏は、釣り銭を投げてくる無愛想な店員、地下鉄で大声をあげる乗客、日本に比してかなり汚れた街並み、中国でこのような情景を初めて目にしたときに感じた衝撃をいまだに鮮明に覚えていると語っている。そして、それに戸惑いながらも「こういうリアルな一面を素直に見せてくれる中国が面白い」と評し、ありのままの中国の姿を動画に収めることを思い立った。日本人は、同調文化、秩序を重んじる日本社会を築き上げたことに誇りを感じると同時に、中国人のマイペースで奔放な生活に対して開放的な社会にある種の憧憬を抱くらしい。すると、日本人は異質な物として寛容な精神をもつ包容力のある民族なのだろうと思う。

また、特別番組として今年の元日に公開された竹内氏の最新作「中国 アフターコロナの時代」の中では、感染対策の常態化の中で企業活動を急速に再開させる中国人にスポットを当てていて、海外ではあまり知られていない一面を紹介している。「目下、中国が感染防止と経済復興を同時に成し遂げているのは、14億人の努力による賜物。決して政府の力だけではない。中国を色眼鏡で見ないで欲しい」と作品の最後で、竹内氏はこのように語りかけている。飾らないこと、物事の本質を還元すること、またリアルな生活と人の姿を忠実に表現する創作理念の背後には、真実を極め、偏見を少しずつ取り除くという竹内氏の強い意志が感じられる。瀬戸際で踏みとどまり、常に冷静に自らの問題をしっかりと直視し、自省を厭わない誠実さこそが、最も匠の精神を象徴しているといえる。

フェイクニュースや偏った情報が溢れる今日、真実性を重んじる竹内氏を感服する声もあれば、罵声と疑うような意見も寄せられている。それに対して、竹内氏は、「前向きなコメントがあっても、批判的なコメントがあっても、僕は作品を作り続ける。なぜなら、真実を語る人がいなければ、永遠に誤解されたままだから」と語るのである。作品がヒットする秘密は、内容の充実さだけでなく、竹内氏が確固たる信念をもって勇敢に現実に立ち向かう姿にもあるだろう。手間暇をかけて精魂を込めた動画を制作するのが彼の「匠の精神」であり、忍耐強さや磨きに磨きをかけることの価値こそが最も注目されるポイントである。決して押し寄せてはすぐに消えていく「ホットマネー」のようなものではない。 

竹内氏の作品は感性と巧みな撮影法の工夫によって、わずか30分の動画が洗練された視覚芸術になると同時に、寛容・自省・堅持という日本人の匠精神に富んだ小宇宙に生まれ変わる。彼の作品を見るたび、風が顔をなでるのを感じる。吹き寄せるのは不滅の匠精神と真実を追いかける誠意である。

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