薔薇とモモカ

2023-02-07 16:32:24

湯言薇 安徽師範大学

私のパソコンの壁紙は、岩井俊二監督の映画『花とアリス』のある場面だ。頭を上げて小躍りしている少女と、うつむいて道の端っこを歩く少女。パソコンを開くたびに、そのシーンが鮮やかに甦る。 

昨年、中国に派遣された日本人エンジニアの戸邉さんに中国語を教えることになった。彼は父と同じ年だが、とても朗らかな性格で、時を経ずして忘年の友になった。ある日のこと、私は戸邉さんから「モモカも中国語勉強してるから、彼女にも少し教えてくれないか」と頼まれた。モモカとは戸邉さんのお嬢さんで、日本の大学に通っているという。私は戸邉さんの依頼を快く引き受けた。とはいえ、同年代の日本人とチャットするのは初めてなので、何から話せばいいかわからない。とりあえず、「初めまして。薔薇です。お母さんが『ベルサイユの薔薇』が好きで、そんな名前をつけました。あなたはモモカさんですね。中国人は桃の花が好きなんですよ」というメッセージを送ってみた。「ふーん、そうですか」。彼女の返信はとても素っ気なかった。内気な子なのかな。それとも、あまり気が進まないのかな。何はともあれ、私のできることをするしかない。 

ある日のこと、モモカは私に「お疲れさまって中国語でどう言うの?」「じゃあ、頑張ってくださいは?」と聞いてきた。私は、コロナの影響もあって戸邉さんが5年近く帰国していないのを思い出して、「お父さんに会いたいでしょ」と尋ねてみた。するとモモカは「別に。パパは毎日充実してるって言ってたし…」と答えた。その時、私の脳裏を突然、『花とアリス』の一場面がよぎった。無口で内気なアリスが、中国で働く父への愛を素直に言えなくて、別れ際にようやく中国語で「パパ、愛してる」と告げるシーンだ。ああ、そうか。きっとモモカも同じなんだ。私は歳の大して違わない日本の妹を、限りなく愛おしいと思った。 

それから徐々に、私とモモカの距離は縮まっていった。私たちは互いの日常をシェアし、世間話を楽しむ。SNSでモモカの記録した風景を目にした私は、彼女と手をつないで日本のあちこちを回っている自分を想像した。そして先日、モモカは「交換生プログラムに申し込んだから、来年は中国に留学できるかも」と、嬉しそうな絵文字を添えて送ってきた。「そしたら、お父さんと薔薇ちゃんに会えるね!ちょっと不安だけど、怖くはないよ。もう中国人の友達がいんだから」。私はそれを読んで、目頭が熱くなった。待ってくれよモモカちゃん、薔薇も頑張るから。いつか、あなたの語ってくれた日本を、あなたと一緒に確かめたい 

中国の明るい薔薇は情熱的に香り、日本の繊細な桃花ははにかみながら微笑んでいる。この世界は、無限のガーデンだ。育った土壌が違うからこそ、私たちは互いの色を、匂いを、そして周りの風景を感じることができる。咲き誇れ、モモカ。咲き誇れ、私。国境を越えて、一緒に美しい花を咲かせよう。 

映画『花とアリス』

 

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