「普通」とは何か―『コンビニ人間』からの思考―

2023-02-10 15:19:00

張明涵 首都師範大学

私がこの本と出会ったのは偶然だった。本屋巡りの際に、『コンビニ人間』という独特なタイトルが突然目に映った。コンビニが好きな人か、コンビニで働く人かと想像を巡らしながら、本棚からそれを取り出した。155回芥川賞受賞作『コンビニ人間』、作者は村田沙耶香200ページもない短編小説で、難しい言葉が少ないため、あっという間に読み終えた。周りにおかしいと言われながら懸命に「普通」の生き方を探した恵子。自分を縛り付ける「普通」いなのに、社会認可を求め、出世しようとする白羽。商品の配列から従業員が守らなければならないマニュアルまでもきちんと定められるコンビニで話始まる。 

主人公の古倉恵子は18年間もコンビニでアルバイトを続けている独身の女性。子供の時に仲間外れされたこと繰り返さないように、マニュアル通りに暮らしてきた恵子は、家族や他人から心配されたり不信がられたりしている。恋愛経験ゼロ、真面な仕事を持たないのは変なのか。それを悩んだ末、恵子は男と付き合い始め、バイトもやめてしまう。どうしても「普通」になりたがり、家族を安心させる恵子はだんだん自分らしさを失い、毎日ぼんやりと過ごすようになる。最後に、就職の面接に向かう途中立ち寄ったコンビニの声を聞くことで、昔の記憶がどっと蘇り、恵子は「そうだ、私はコンビニで働くために生まれてきたんだ」と気付いた。そして、白羽と関係を解消し、コンビニに復職することを決めた。 

この本は世間の常識から切り離される主人公の一人称独白によって、コンビニの「ウチ」と「ソト」の対立した世界を描いた。まさに現代を生きる誰もが当然と思い込んでいる「正常」に抗う「異常者」のストーリーで、「普通」とは何かを考えさせられる作品。自分の頭で理解できないことを「おかしいこと」だと決め付けるべきではないのは知っているが、やはり思わず「いつでもどこでもコンビニ恋しそうにしている」恵子に違和感を覚えた。とても恥ずかしかった。そもそも、自分は相手と同じ感覚を持っているとは限らないので、理解できないこともあるろう。また、日進月歩で発展する世の中に、「常」に同じものはなく、変化は刻々と発生している。そして、人々が自分の好きな情報にだけアクセスするようになった今、「当たり前」は人によって違うだ。つまり、「正常」とか「普通」とかは、実際は存在しない。言い換えれば、「正常」と「異常」とは、表裏一体の存在だ 

「私はコンビニ店員という動物なんだ。その本能を裏切ることはできない」という恵子の「誓いの言葉」が私の心に刻まれ周りの人の評価に振り回されず、自分の意志を尊重して人生を歩んでいく恵子に私はとても感心した。しかし、人間は他人と頼り合いながら暮らす社会的動物で、自分の好みによって、勝手に他人に「異物」というレッテルを貼ることがおかしいではないのか。互いをいくつかの基準で測るよりも、それぞれの先入観をなくしたほうが、より包括的な共生社会を築くことができる。多様化が進んでいる今、「普通」あるいは「マニュアル化人生」に拘ら、互いの違いを受け入れ、共感を呼ぶことで、新しい扉が開かれると信じている。 

『コンビニ人間』 村田沙耶香

 

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