社会における「縁」を失わないように

2023-02-10 15:28:00

呉典 中央財経大学

最近、私は『無縁社会』という文藝春秋が出版した本を読み初めて「無縁社会」という言葉を知った。無縁社会とは単身世代が増え、家族の絆や人間関係が希薄になりつつある日本社会の一面を表す言葉だ。取材班は、一人きりで生きている人たちを取材して、誰とも「縁がない」「関係がない」と思っている人が実は数多くいることに驚かされた。恐ろしいことに、こういった人々の無縁死が年間32000件もあると報道されている。 

本の中で、一番印象に残ったのは一人暮らし高齢者の無縁死についてだ。お年寄りは一度会社を定年退職したら組織とのつながりをなくすのみならず、今まで仕事に打ち込んでいて地域とのつながりが希薄になっていたことなどの理由で孤立し、最後は孤独死になってしまう。そのような高齢者たちが社会に見捨てられ、一人きりで人生の最期を迎えるほど悲しいことはないだろう。独居老人に家族のいない原因について本の中には次のように書かれている。独居老人は「家族に迷惑をかけたくない」という一言で自発的に自分と家族との「縁」を断ち切ってしまう。その一方で、核家族化が進んでいる社会で、家族が事故や病気で先に亡くなったり、子供が忙しくて自分の面倒を見てくれなかったりする理由で、独居老人の意志に反して「縁」を切られてしまう。 

私はこの本を読んで、「日本の無縁社会がどれだけ悪いか」と批判する気持ちではなく、一人の中国人として、「これも中国社会の将来なのではないか」という危機感に駆られている気持ちなのだ。「中国統計年鑑2021」によると、2020年、中国の「一人世帯」は家族世帯数の25%以上も占めている。そのうち独居老人が増えている一方、若者の一人世帯化現象も深刻になっている。その上、世代間価値観の分化、独身主義の台頭などの変化も中国の無縁社会の到来に悪い影響を与えている。中国でも、その「一人世帯」の傾向が続けば、血縁の希薄化はさらに深刻化し、無縁状態に陥ってしまう人が増える可能性があるのではないだろうか。 

この本の内容は今でも私の心に響いている。中国の無縁社会の時代をなるべく先延ばすには、まず単身高齢者に対しての無縁対策を考えるべきだと思う。その目標を達成するためには、日本の自治体や地域でおこなわれている無縁社会を減らす対策を、中国でも取り入れることが可能なことは参考にし学んでいくことが必要だ。なぜなら、日本では特別養護老人ホームの整備や介護従事者の待遇改善制度などが進んでおり、中国にとって貴重な対策を提案してくれているからだ。 

しかし、歴史問題という高い壁が両国間に存在し、中国にとって壁を克服し学ぶ一歩を踏み出すのは容易ではない。日本も然り、手を差し伸べることも難しいだろう。歴史を忘れろとは言わないまでも、社会の価値観が揺れ動いている現代社会で、中日がお互い手を取り合い、より良い未来を創るべきではないだろうか。日本は中国と同じアジアの国で社会問題も似通っているところが色々あるので、「無縁社会」の問題を解決する目標で両国が協力してこの問題に取り組むのは大切なことだと思う。未来を切り開くために、歴史を鑑とし、中日両国の友好の橋をさらに固めていかなければならない。 

『無縁社会』

 

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