愛に包まれて

2023-02-10 15:34:00

杜沁怡 延辺大学

チクタク、チクタク。 

時計の針が12時を回り、待ちに待った誕生日も瞬く間に過ぎてしまった。時の流れは止めようもなく速いと前々から知っていたが、これからは24歳の大人としてちゃんと生きていかなければならないことにはなかなか実感が湧かないもの昨日も、せっかく誕生日を祝ってもらったのに、それほど楽しくなかった。むしろ誕生日祝いという名目で望んでもいない外食に無理矢理付き合わされたと思い詰め、少し不貞腐れていた。今思えばなかなかの大人気なさだった。 

時計と情けない自分を一旦脇に置き、物憂げに体を起こした。気分転換に映画を見ようと、目の前のパソコンを開き、再生ボタンを押した。かねてから聞いていた『嫌われ松子の一生』という、名前からして謎だらけ作品だった。「松子」の正体や「嫌われ」の原因などに首を傾げた私は、松子の一生をスクリーン越しに覗き込んだ。ところが、気晴らしのつもりで見たが、かえって松子の悲しい定めに涙をぽろぽろと零してしまった 

なんで?」 

これは松子よく口にし言葉 

許されざる者許し、傷つく者を愛す。罪深き男たちにとって、松子は神のような存在であり、その愛が重くて眩しかった。だ人を愛し、人に愛されたいがために生きる松子にとっては、別れは何度経験しても慣れないものだ。 

なんで自分を愛してくれないの?なんで自分の側を離れて行くの 

なんで?」見捨てられる度に、松子はこう問いかけた抱擁を求めに伸ばした両腕が虚しく空を切ったように、「ただいま」と言った松子を迎えるのは一面の静寂で「おかえり」と言った松子を迎えたのは暴言や暴力だ。「殴られても、独りよりマシ」と考えた松子は、生涯愛情を追求したが最後、「生れて、すみません」という一言を狂ったように壁に殴り書きした。 

子は一生をかけて自分を愛してくれるを闇雲に探し続け、挙げ句の果てに容赦なく痛めつけられてきた。自分に厳しく、妹に甘い父病弱ゆえに贔屓された妹。松子は愛されていないと思い込み、家を飛び出した。長い間に自分の帰りを熱望していた人が探すまでもなく最初からいたとは、彼女は最後の最後まで知らなかった。正に灯台下暗しだった。もしの時、一時の感情に流されず、家を飛び出さなかったら、松子はどれだけ幸せ人生を送っていたのだろうか。 

そうやってとやかく考えているうちに、また夜が明けた。新しい一日が始まったのだ。窓の外から差し込んだ朝日を見て、ふと家族のことを思い出した。時が止め処なく経過する中でも、躓く私の手を引いてくれる人たちだ。もっとも、色褪せない家族愛は、変哲のない日々に潜みがちで気付き難い。しかし、今こそ分かった。本当に大切なことは目で見るのではなく、心で見るのだ。 

暖かな朝日の光で、松子を思い浮かびながら、手元のノートにこう書き留めた。 

「浴びる程の愛に包まれているよ。」 

『嫌われ松子の一生』

 

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