暖かい希望

2023-02-10 15:54:00

張沛之 南京工業大学浦江学院

芥川竜之介は私の最も好きな日本の作家です。そして『蜜柑』は最も好きな作品です。高校生の頃には、芥川竜之介の文学作品をすべて読んでいました。なかでも『蜜柑』は深い印象を残しました。 

『蜜柑』は芥川竜之介の作品集にしては珍しい暖色です。芥川竜之介の他の作品では、『蜜柑』のように熱く含蓄のある暖色は見あたりません。人間のぬぐえない利己主義を容赦なく批判してきた芥川竜之介は、きっと生活の中でこのような暖かい色に出合って『蜜柑』を書いたのでしょう。 

『蜜柑』は、主人公の疲れた精神と小娘の汽車旅行から始まります。作品の中で主に3人の人物を描きました。ある寒い冬の日、主人公が汽車で旅をしていて、心がもやもやして疲れているところへ、髪が乾いて、だらしない身なりをして、手に三等切符を持ち、膝の上に大きな包みを載せた小娘が、主人公の向かいに座った。汽車が走って間もなく、娘さんは突然窓を開けて、包みの中の黄色い蜜柑を五、六個窓の外に投げて、わざわざ見送りに来てくれた三人の弟に渡しました。 

『蜜柑』はこのような実生活の一場面を題材にしており、小娘の純潔で素朴な美しさと暗い現実社会とを対比させています。「蜜柑」を描写しているところが1カ所しかないのに、「蜜柑」をタイトルにしているところに、作者の心遣いがうかがえます。この温かみのある色彩を、冒頭に描いたどんよりとした冬の日、暗いプラットホームと対比させて、当時の社会の暗い残酷さを批判しようとしたのだと思いますが、これは作者が丹念に用いた対比の技巧でもあり、プロットにアクセントを加えています。后に作品の中で小さい娘の出現、みかんの出現、弟達の出現、連結する動作は悲観的で厭世的な主人公に生活に対する希望を見させました。 

作中の少女は社会の底辺で生活している人で、生活に追われて町に出てきてメイドとして働きます。しかし彼女はこのような貧しい生活に圧倒されないで、依然として最も質朴で、最も清新で、最も善良な一面を維持しました。車の窓からいくつかの黄色の蜜柑を投げることによって、このように簡単で真実な動作、深く主人公を動かしました。当時の主人公は残酷で暗い社会に対して茫然としていて、不安と失望を感じます。しかし小娘のことで、主人公の内心の世界を変えて、美しく高尚で純真で素朴な感情で主人公に感染して、光を見させました。困難な生活をしている彼女の素朴で真実な笑顔を見ることができて、安楽な主人公はどんな理由で不平を言って苦悩するのでしょうか。作者はこのような小説を通じて、逆境の中でも美しく笑うことができるように人々を励ましたかったのだと思います。 

本文はプロットの形成、創作の手法、質朴の美しさの三方面を通して、『蜜柑』の中の娘の質朴で善良な一面を論述して解析しました。素朴な言語、素朴な描写で、素朴な小娘を描いて、芥川竜之介の本当の内心の世界も体現しました。 

『蜜柑』

 

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