小川糸「ツバキ文具店」----依頼者の心を伝える代書屋

2023-02-07 16:29:39

暢 北京第二外国語学院

代書屋の仕事は影武者。決して日の目は見ないけれど、誰かの幸せのために必要な商売なんだよ。」雨宮鳩子は、鎌倉にある文房具店の若店主である。幼い頃から祖母に厳しく習字の稽古を命じられ、同級生と遊ぶ時間がなかった鳩子。鳩子は祖母と大喧嘩して家を出る。しかし、祖母の死をきっかけに、鳩子は八年ぶりにツバキ文具店に戻り、代書屋の仕事を継ぐことになる。 

鳩子は手紙を書く前に、真剣に依頼人の話に耳を傾ける。状況をひとつひとつ丁寧に調べて、依頼人の気持ちを理解しようとする。そして、依頼人の気持ちに合わせて、手紙を書く時の文房具、封筒、便箋、字を書く道具、字の書き方、濃淡まで、丁寧に選んでいく。そうすることで依頼人が書いた以上に、依頼人の気持ちを伝えられる手紙が完成するのだ。 

「この淡い思いを誰かに伝えることができたら、私は嬉しくてたまらない。」これは鳩子の言葉である。手紙を代書するたびに、依頼者の人生が見えてくる。手紙を書いているうちに、複雑な感情を感じとることができる。そして、その気持ちを相手に伝えて、幸せにできる。鳩子は他人の役を演じる女優のようだ。なんと素晴らしいのだろう。人の気持ちはさまざまで、代書屋という仕事はいつまでも退屈しない。そして、手紙を書くことで鳩子は、たくさんの人の人生に関わり、人との絆を築くことができた。バーバラ夫人、パンティさん、男爵……いつしか鳩子の周りには多くの友人ができ、愛と温もりを与えてくれていた。たくさんの人の代書をする中で、鳩子は昔、祖母から教わった言葉の意味を理解できるようになった。祖母の言葉は代書の仕事に役立っただけではない。人の複雑な気持ちを理解し、周りの人々に感謝と心遣いができるようになった。成長した鳩子は、大喧嘩した祖母の気持ちも理解できるようになり、祖母を許し、愛することができた。 

「どう中国語に翻訳したらいいだろう。」翻訳をする時、私はいつも悩んでいる。そんな時、鳩子のことを思い出す。代書屋と同じように、通訳の仕事も人の気持ちを文章で伝えることだ。同じ言葉でも、その時の状況や気持ちの変化によって、違った意味が出てくる。意味を正確に翻訳しても、訳文が固くなってしまい、原文の柔らかさを失うこともある。人間の感情を理解することができない翻訳ソフト。それに比べて、私たち人間の翻訳者は、鳩子のように書いている人の感情をしっかり理解し、それをきちんと伝えるために努力と工夫をすることができる。私は鳩子のまじめな姿勢と、気持ちを真剣に伝えようとする姿に感動した。それは、翻訳者にとっても必要なことだと思う。「人であれ、国であれ、お互いが理解して初めて友好が実現できるのです。」私は鳩子のように書かれた人たちの気持ちをきちんと理解して、しっかりと伝えられる通訳者になりたい。そして、将来、中日友好のために自分の力を捧げたいと思う。鳩子は平和の鳩である。 

小川糸「ツバキ文具店」

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