人生の旅を楽しむ

2023-02-13 14:09:00

劉燕紅 中南財経政法大学

映画『ドライブ・マイ・カー』を見終わると、頭の中には瀬戸内の情景が何度も浮かんでくる。真っ赤な車が広島のゆったりと広がった道路を走っており、車窓からは、ふと目が引きつけられるような木々の緑や果てしない海の青さが続いている。 

映画は村上春樹の短篇集「『女のいない男たち』」に収録された作品を再構成したものである。またロシア作家チェーホフの作品「『ワーニャ伯父さん』」を劇中劇にし、キャラクターの性格や運命が巧妙に重ねられており、一つ一つのストーリーが徐々に気持ちを高まらせ、最後には抑えられない感動を与えてくれた。 

主人公の家福悠介は舞台監督兼俳優で、妻の音は脚本家である。妻は秘密を抱えたまま他界してしまった。生前、彼は妻の秘密を見て見ぬふりをしていたが、妻と相談するチャンスも失った。得体の知れない密林を抜けるように奥が深く、引き込まれ余韻が残る映画である。 

赤い小さい車――狭い空間は家福の心の拠所であり、他の人が勝手に入り、邪魔するのは許せなかったが、仕事で広島に向かう彼は、寡黙なドライバーのみさきに出会い、自分探しの旅に出ていく。みさきのドライブテクニックに感心し、だんだん惹かれていった。人生においても、私たちは現実と向き合いながら他人を少しずつ受け入れていく。 

ワーニャ伯父さん――家福は最初からこのキャラクターに違和感を覚え、ほかの若手俳優に演じさせた。セリフを読む時に、本当の自分が呼び起こされるような気がしたからだった。しかし、最後の場面で、彼は心を揺さぶられ、真実の自分をさらけだし、ありのままの自分と向き合った。思いがけない困難にぶつかっても、運命に翻弄されても、人生の旅を豊かに紡ぎ出した。 

多言語の交流――映画の舞台劇の俳優陣は異なる国家、言語や文化を持っている人たちである。とりわけ、手話で語る「ソニヤ」を登場させ、最後の場面で「ワーニャ伯父さん」の閉鎖された心の扉を開けた。「『星の王子様』」の言葉通り、「大切なことは目に見えないんだ」――この世では、言葉が通じないだけではなく、耳でも聞こえず、口でも表せないことが少なくない。相手の心の呼び声に耳を傾けることで、小さな幸福を見逃してはいけない。 

映画の美しい画面や心の琴線に触れるプロットに熱中しがちだが、個人の物語がスクリーンに映し出される時には、あまりロマンチックではない。一人で落ち込んでいたときは、悲しみの深いところで力の限りもがくように、息が詰まるほど辛かったが、この映画は、「今を生きるのだ」と私に勇気と強い意志を強く伝えてくれた。 

平和記念公園で無言で抱き合う演出、一面の銀世界の二人の打ち明け話、タバコの火が映える車での二人の喫煙の場面、全てのシーンはその橙色に染まった深夜の道に溶け込み、周囲を大雪に包まれるように、静かで胸に沁みる感動が湧いてくる。 

この感動を胸に、新たな一歩を私たちも踏み出そう。 

                                      映画『ドライブ・マイ・カー』

 

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